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【part.2】 30年後の公的年金をタイムマシンで見に行くと、どうなっているのか?

※part.1を読まれていない方は、こちらからお読みください!

・トシ (30歳の社会人):博士、将来の年金額は『経済成長』『労働参加』『年金制度改定』の三つの変数で大きく変わることが、さっきのタイムトラベルで理解できたよ。
・博士:そうかそうか。タイムマシンを開発した甲斐があったというもんじゃ。
・トシ:ところでさっきは「最悪」の未来と「うまくいっている」未来を見たけど、その中間の「そこそこ」の未来も見てみたいな。
・博士:そうじゃな。では、実質経済成長率はそこそこで年0.4%に設定してみよう。女性や高齢者の労働参加はしっかり進む前提で、65歳までは働くからそこまで年金保険料を払うことにしようか。ただし、厚生年金の「適用拡大」は「そこそこ」にしよう。実はこの「適用拡大」が重要なんじゃが、なかなか一気に進んでいないからなあ、、。では出発!

・トシ:さあ、どんな未来かな。ん、そんなには悪い雰囲気ではないぞ。
・博士:そうじゃな。労働参加は「うまくいっている未来」と同じくらい進んでいるからな。でも、経済成長や適用拡大が「そこそこ」だから、みんながみんな生き生きしている感じではないな。よく見ると個人差がありそうじゃ。
・トシ:年金も「そこそこ」なのかな。
・博士:2045年で所得代替率58.6%じゃな。
・トシ:2019年が61.7%だから、今より下がるんだ。
・博士:それでも、働く期間を66歳までにして、受給開始も65歳から1年遅らせて66歳にしたら所得代替率は61.7%を超えるぞ。少し長く働いて年金受給も1年我慢すれば今の水準は十分確保できるんじゃな。
・トシ:そうか、「そこそこ」でも悪くない結果なんだ。なんだかヤル気が出てきたよ。個人差がちょっと気になるけど、、。
・博士:ここまで三種類の未来を見てわかったと思うが、年金の世界で「一人勝ち」はあり得ないんじゃ。限られたパイをみんなで分け合うのだから、パイを大きくすべく「総力戦」として、全世代で同じ目標に向かって協力すべきなんだ。そのためには「将来年金はもらえない」とか訳のわからない発言に惑わされずに、「年金の仕組み」や「今後どうすれば良くなるのか」を多くの国民が正しく理解する必要がある。更に、年金改革はやっていることが正しくても、そのスピードが遅いと将来どういう影響があるのかまで共有すべきなんじゃ。
・トシ:そうか、年金ってかなり前向きな成長戦略的なテーマなんだね。意外だったよ。
・博士:そうなんじゃ。「パイを大きくする」ことは「成長戦略」に他ならない。だから変に感情的に騒がず、もっと冷静に、建設的に、スピード感を持って進めるべきなんじゃ。

~ 一週間後 ~
・トシ:博士、先週はありがとう。年金の仕組みがかなり理解できたよ。ところでさ、あれからさっそく友人たちと年金の議論をしたんだよ。「厚生年金保険により多くの人が加入すべきだ!」ってね。そしたら「厚生年金保険の財源が厳しいから、そんな事を言うのか?」とか「みんな厚生年金保険に入ったら国民年金は破綻するのか?」とか言われたりして、結構難儀なんだよ。
・博士:そうか。でもそんな疑問はひとつづつ解きほぐしていかんとなあ。またタイムマシンに乗っていくかな。
・トシ:今度はどんな条件を入れていくの?
・博士:この前の「そこそこ」の未来から、厚生年金保険の適用を拡大させようか。現在厚生年金保険に加入していない1,050万人の雇用者が加入すると、どう変化するかを少しづつ時間を動かして見てみよう。

・博士:さて、どんな変化が起こり始めてきたかな。
・トシ:おお、中小企業では適用拡大に反対している経営者が多そうだ。ロビー活動も激しいな。そりゃ、厚生年金保険を強制適用されたら会社の負担はそれだけ増えるからね。
・博士:一方理解を示す経営者も多そうだな。雇用者には「適正な報酬」として厚生年金保険を適用するのが大原則で、将来の格差を生み出す現状はおかしい、とな。従業員が元気なときだけ低賃金で雇い定年後の生活は知ったこっちゃない、という考えはもう通用せんからな。さて、もう少し時間が経過するとどうなるかな。
・トシ:あれ、中小企業が元気になってきているぞ。どうして?
・博士:社会保険料の負担増をきっかけに、現状を受け入れて適応すべく効率化や合理化をしたり、より高い成長分野を目指していったんじゃ。国の効率化投資に対する助成金も効果があったようじゃな。その結果、従業員の実質賃金も増えたようじゃ。
・トシ:さっきも言ったけど、これって立派な「成長戦略」なんじゃないの?
・博士:そうなんじゃ。一方、後継者がいない企業同士が合併して規模を拡大したり、個人事業所も法人化するか家族経営に縮小するかを選択したようだ。不当に低賃金だったブラックな企業は撤退したようじゃな。
・トシ:競争原理が働いたんだね、、、でも日本は長期的に人手不足だから、成長分野が人材の受け皿になって失業率は低いままなんだ。
・博士:しかし反対派の不満は大きかったようで、政局にも影響したようだ。でも「年金制度が弱者を救済できていなかった状態」をようやく是正できたんじゃ。やり遂げたんだから立派だとおもうよ、ワシは。
・トシ:今の経営者の負担増と、将来の年金貧困者予備軍増大と、どちらが大きな問題かという議論が定量的なデータを元になされた結果なんだね。ところで年金はどう変化したのかな。
・博士:すでに2039年で所得代替率は62.4%じゃ。年金制度が今のまま「全く変わらなかった場合」は50.8%だから、年金制度改定による上昇分が約12ポイントもあるぞ。
・トシ:これって、厚生年金保険だけがアップして基礎年金はダメになったってこと?
・博士:どれどれ、、、おっ、上昇分12ポイントの内訳をみると、基礎年金10ポイント、厚生年金保険2ポイントで、基礎年金のほうが大きく上昇しておる!
・トシ:ということは、「適用拡大」は厚生年金保険の加入者だけではなく、国民年金だけの人もおおいに恩恵を受けるってこと?
・博士:意外にもそういうことじゃな。これはつまり、、、国民年金の加入者が厚生年金保険に移っても積立金は国民年金に置いていくので、その結果国民年金の財政が改善して給付額が増える、という動きになっているようじゃ。
・トシ:えっ、そう繋がるの?「適用拡大」したら、厚生年金保険と、特に基礎年金が改善され、結果として経済成長していく。「風が吹いたら桶屋が儲かる」話のような。
・博士:一見原因と結果が紐づいて見えないが「適用拡大をしたら日本経済は成長する」んじゃ。そして国民年金だけの人にも大いに恩恵がある。
これはより多くの人々が理解すべきなんじゃがなあ。

part.3に続く…

※この話はフィクションですが、数値は2019年財政検証結果のオプション試算を参考にしています

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