高円寺ブルーストーン【2:2:0】【ラブストーリー】
『高円寺ブルーストーン』
作・monet
所要時間:約30分
あやせ:女。鶴舞 あやせ(つるまい・あやせ)。19歳。大学中退。家出少女。青砥の家に居候。高円寺のガールズバー『nyan(にゃん)』で働いている。
ふわふわした性格。人生どうでも飯田橋。(人生どうでも良くなっちゃってる)
達也:男。青砥 達也(あおと・たつや)。19歳。大学生。高円寺で一人暮らし。バイト先は高円寺のライブハウス『有力有善寺(ゆうりょく・ゆうぜんじ)』。
基本はクールでダウナーな性格だが、けっこう人情味がある。
栄寿:女。夜明 栄寿(よあけ・えいじゅ)。23歳。大分から上京してきた。フリーター。バイト先は高円寺のライブハウス『有力有善寺(ゆうりょく・ゆうぜんじ)』。青砥の先輩。
思ったことをズバズバ言うわりには、ロマンチストで浸りがちな一面も。
達也の前ではお姉さんぶるが、慎一郎の前では歳相応。
慎一郎:男。大曾根 慎一郎(おおぞね・しんいちろう)。28歳。ずっとフリーターでフラフラしていたが、最近になってやっと就職。ラブホバイトの経験を活かしてホテル業界(ブラックめ)で日々奮闘中。
転がり込んできた栄寿と中野で同棲している。
けっこう適当な性格でチャラいが、本人は真面目に頑張ろうとしている。
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0:高円寺ライブハウス『有力有善寺』
0:締め作業終わり
栄寿:ねえ青砥~。あおとあおと~。
達也:なんすか。夜明さん。うるさいっすよ。
栄寿:ひどっ。……ねえねえ、『永遠の愛』ってあると思う?
達也:(M)この女(ひと)はそういう人だ。いつも軽い調子で、重ための話を俺に振ってくる。
達也:……うーん。無い、んじゃないっすかね。
栄寿:うわっ。つっまんない男!
達也:(M)そしてこの人はこういう女である。……自分から聞いてきた癖に。
栄寿:そこはさ~?「あるかもしれませんね~」とかさ~、ロマンチックじゃなくてもいいからそんな感じのこと答えてよ。せっかくライブハウスで働いてるんだし。
達也:ライブハウスで働いてる事と、何の関係があるんすか。
栄寿:いや関係あるでしょ。ほら、ウチの箱でよく売れないバンドが歌ってるじゃない?「永遠の愛が~」ってさ。
達也:うわ辛辣。
栄寿:どこが?
達也:売れないバンドが~とかさらっと言っちゃとこ。
栄寿:だって事実じゃん。
達也:俺等そのお陰で飯食ってんのに?
栄寿:……それもそうか。
達也:あれ、珍しく素直。
栄寿:だって事実だし。
達也:……そっすね~。
0:なんとなく気まずい沈黙
栄寿:さ。帰るか!
達也:うす。
栄寿:青砥は?明日講義?
達也:っすね~。まあ、三限からなんでそんなにキツくないっす。
栄寿:そっか。それなら楽勝か。
達也:まあ楽勝って程でもないんすけどね~。出席厳しいし。課題もレポートもきついし。
栄寿:うわ~!うわうわうわ~!大学生って感じだ!「ザ・大学生」!
達也:そりゃ。「ザ・大学生」っすから。
栄寿:ははっ。それじゃ、早く帰って寝るんだよ~。大学生の本分は勉強ですから!
達也:夜明さんは、
栄寿:……ん?
達也:夜明さんは、今日も彼氏さんとこ帰るんすか?
栄寿:え??そーだよ??
達也:(M)――その時、彼女の栗色の瞳と綺麗な金髪が街灯に照らされてきらりと光って。彼女は悪い顔をした。
栄寿:青砥~。きみ、変なこと聞くね?
達也:いや。別に深い意味は無いって言うか。
栄寿:深い意味、ねぇ~。
達也:……なんすか。
栄寿:そんな青砥の家では、どんな可愛い女の子が帰りを待ってるのかにゃあ~?
達也:…ッ(動揺)
栄寿:あれれ?図星か~?
達也:……帰ります。
栄寿:じゃあねん~!気を付けて~!
0:達也が去るのを見送る栄寿
栄寿:……ははは。いいねぇ、若いモンは。
0:スマホを取り出す栄寿
栄寿:「慎一郎くんへ。今日は帰ってきますか?」……送信っと。はぁ~~あ。何やってんだろ、私。
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0:達也の家(高円寺)
達也:(M)『永遠の愛』ねぇ……。ンなもんがあったら、俺は、とっくに――
達也:おい。起きろ。遅刻するぞ。
あやせ:ん。ンン、、もう少し~~
達也:お願いだから起きてくれ!!俺の寝るスペースがねえんだよ!!
あやせ:ン。ああ、そうだったそうだった。ごめん起きる。(起き上がる)てかおかえり。
達也:(呆れて)ただいま。
あやせ:あ。てか洗濯物やっといた。
達也:はい、ありがと。
あやせ:んじゃ準備して行ってくるわ。
達也:ほい。行ってらっしゃい。
あやせ:行ってきます。……青砥くんは、おやすみだね?
達也:うん。おやすみ。
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達也:(M)鶴舞 あやせ(つるまい・あやせ)。俺の家に転がり込んできたのは二か月前。「一応」、高校の時の同級生。当時話した記憶は一度も無い。
達也:(M)何故そんな女が俺の家に転がり込むようになったのかというと――
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0:二か月前(過去回想)
0:あやせは少し気分が落ちている
達也:肉まんとあんまん、どっちがいい?
あやせ:……あんまん。
達也:あとこれ。ミルクティーかレモンティー。あったかいやつ。
あやせ:ミルクティーがいい。(受け取る)……ありがとう。
達也:どういたしまして。
0:(間)
達也:で?
あやせ:えっ?
達也:えっ?じゃねえだろ。これからどうすんだ?
あやせ:いや、だから、その……。青砥くんの家に。
達也:言ったけど。俺ん家くるなら100%襲うよって。
あやせ:(頷く)
達也:はーー。鶴舞、お前さ、本当にそれでいいの?
あやせ:いいから来たんだよ。
0:(間)
達也:……分かった。着いてこい。
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達也:(M)実家から家出をしてきて、当初宛てにしていた家も、家主と上手くいかず失ったらしい。
達也:(M)そんなこんなで、地元で唯一上京して、一人暮らしをしていた俺を頼った、ということだ。
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0:達也の家(高円寺)
あやせ:お邪魔しま~…って、せまっ!?
達也:あったりまえだろ……。大学生の一人暮らしなんてこんなもんだ。とりあえず荷物上げるぞ。
あやせ:う、うん。ありがとう。
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達也:(M)そう。この狭すぎる一人用のワンルームで、俺達はもう二か月間も同居生活を続けている。
達也:(M)ああ、別に付き合ってるとかでは無いぞ?一回弟にバレた時には、彼女だって嘘ついて誤魔化したけどな。
達也:(M)……まあ、当初の宣言通りやることはやってるんだが。なんというか。淡白な奴で。それはそれで楽でいいのかもしれないが。……なんだかなぁ。
0:達也の回想終わり
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0:慎一郎の家(中野)
慎一郎:(M)――今日も忙しい。忙しかった。
慎一郎:(M)だぁぁああ~~~~~!疲れた!やっぱり俺には社会人なんて向いてねぇのよ!社会不適合者だから!
栄寿:おかえり!慎一郎くん!今日もお仕事お疲れ様!
慎一郎:……ただいま、栄寿。ありがとう。
栄寿:それでね!今日はご飯作って――
慎一郎:あーー!ゴメン!!取引先の人と食ってきちゃった!!
慎一郎:……えーと。栄寿が食べて!そんで、残った分は冷蔵庫入れといて!明日あっため直して食べるから!
栄寿:そ…っか。ごめんね。
慎一郎:いや、別に謝ることじゃないだろ。
栄寿:……ううん。私が勝手にやったことだから。……その、ごめん。
慎一郎:……。
慎一郎:(M)栄寿の悲しそうな顔を見るのも、――もう、疲れたかもしれない。
慎一郎:(M)自分の為にわざわざ田舎から出てきてくれたような女の子だぞ~~??大事にできなくてどうする。
慎一郎:(M)――クズだって分かってる。……だけどさぁ。向いてねぇよ、俺。こういうの。『恋愛』とかさ、ほんっと――。
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0:数日後
0:高円寺ライブハウス『有力有善寺』
達也:いらっしゃいませ。お目当てのバンドは?……はい。グーグルズね。(書く)これ、ドリンクチケットです。無くさない様にお願いします。中へどうぞ~
栄寿:働いてるねぇ~青砥クン。
達也:そりゃあバイトなんで。夜明さんも働いた方がいいっすよ。
栄寿:うん。今から出演者達にドリンク配ってくるところ。
達也:……え。出演者にドリンク……?なに。今日そんな凄い人来るんすか。
栄寿:凄い人っていうか~~新進気鋭?『ユヅル』って分かる?普段はシンガーソングライターなんだけど、今日はバンドで来ててさ。
達也:あぁ!分かりますよ!『ユヅル』!なんか本人は男なのに女子高生目線の曲ばっかり作って有名になったやつ!!
栄寿:ちょっ!しーっ!!ここ受付!!ユヅルバンド目的の人も沢山居るんだから、そんなこと言わない!
達也:いや別に、貶してる訳じゃねーんすけどねぇ。……フツーに好きだし。『ユヅル』。
達也:(業務に戻る)いらっしゃいませ。お目当てのバンドは?……はい。ユヅルバンド、と。(書く)これ、ドリンクチケットです。無くさない様にお願いします。次の方~どうぞ~
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0:高円寺ガールズバー『nyan』
0:バックヤード
0:キャストと雑談しているあやせ
あやせ:え?今いる家?……うーん。男の子の家だけど?いやあ、彼氏じゃないよ?だって別にそういう感じじゃないっていうか。向こうも私の事好きじゃないし。
あやせ:言い切れるの?って……うん。だってあの子は優しいけど、私の目見て無いもん。……きっと他に、釘付けになってる『目』があるんじゃないかな。
あやせ:……え?切ないね、って?あはは!!ないない!!だって全然タイプじゃないも~ん!!!
0:(入店音が鳴る)
あやせ:あ。お客さん来た。やば。今の聞こえてないよね?私出てくる。
0:あやせ、バックヤードから姿を現す。
あやせ:(営業モード)いらっしゃいませ~、お兄さん!あれ、一人ぃ?当店は初めてですか~?
慎一郎:あ、うん。初めてで。一人です。
あやせ:それじゃあまず、システムから説明しちゃいますね~。あ、ちなみに私は、『あやせ』っていいます!
慎一郎:(困ったように笑って)あやせちゃん、ね。よろしく。
あやせ:よろしくお願いします!それで、お兄さんまず一杯目は何飲まれますか?
慎一郎:うーん。ビールかな?
あやせ:かしこまりました~!私ビールつぐの上手いんで期待しててくださいね!
慎一郎:(笑って)はいはい。
あやせ:そういえば、お兄さんの事はなんてお呼びすればいいですか~?
慎一郎:うーん。そうだなあ、……うーん。
あやせ:あはは。別に本名じゃなくてもいいですよぅ。
慎一郎:……じゃあ、『イチロー』で。
あやせ:ぷっ、あはは!!お兄さんおもしろ~い!!!あ、もうお兄さんじゃないですね、イチローさんだ!!え!ホームラン打つのぉ!?
慎一郎:それを言うなら今はオオタニだろ(笑う)
あやせ:それもそっか。ちょっと古かったかも。(笑う)
0:しばらく笑い合う間
あやせ:そういえばさ、この店、『nyan(ニャン)』は初めて来たって言ってたけど、普段はあんまり高円寺で飲まない感じ?
慎一郎:うーん。そうだねぇ。職場が新宿でさ、住んでるのが中野だから。こっちまではなかなか来ないっていうか。
あやせ:え~~!!近いのに~~!!
慎一郎:あっはは。その通りだよな。
あやせ:彼女さんが厳しかったり?
慎一郎:……んン。いや、別に厳しくは無いよ。束縛とかしてこないし全然。
あやせ:え~~でも~~!お家で彼女さん待ってるんじゃないんですかぁ~??
慎一郎:いや、彼女今日バイト。ライブハウスで働いててさ。高円寺なんだけど。ちょっと大きなイベントあるみたいで。
あやせ:(高円寺のライブハウス…?)ふぅん。そうなんですね。なんてとこですか?
慎一郎:なんだったかなぁ~~……。ユウ…ゼン…いやぁ、名前忘れちゃったよ。
あやせ:え~~~!!ひどぉ!!彼女のバイト先なのにぃ!!(まあ私も覚えてないけど)
慎一郎:あっはは。そうだな。……ん~。あんまり俺は、音楽とか、詳しくなくて。まあ嫌いでは無いんだけど、彼女ほどじゃないっていうか。
あやせ:まあ、そういうのありますよね~~。恋人同士でも、どうしても通じ合えない部分っていうか。
慎一郎:そう、なんだよ、なあ……。どうしても通じ合えない部分……。はぁぁ~~。(落ち込み)
あやせ:あらら~?その調子だと、イチローさんけっこうお悩み?私でよければ聞きましょうか?
慎一郎:……う~~ん。そうだねぇ……。こんな若い子に話す内容でもない気もするんだけど。
あやせ:初対面の相手の方が、気楽に話せることってありません?そんな感じで、ジャンジャン話しちゃってくださいよ。
慎一郎:……そう、だね。じゃあ、お言葉に甘えて、聞いてもらおうかな。
あやせ:あ!その前に!イチローさんドリンク空いてる~!次何飲まれます??
慎一郎:あ~~。そうだね。次もビールでいいよ。
あやせ:かしこまりました~~!あと、お話聞くついでに、私の分も一杯いいですか?(おねだり)
慎一郎:あ!勿論だよ!ごめんね気が回らなくて。いやぁ~、こういうお店慣れて無くてさ。
あやせ:いいんですよ!リラックスリラックス~~!
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0:高円寺ライブハウス『有力有善寺』
0:演奏を聴いている栄寿
栄寿:(M)――『永遠の愛』って。あると思ってた。二人は運命的な出逢いをして、それで一生結ばれるの。
栄寿:(M)あの時、あの電車。鹿児島本線の鈍行列車で慎一郎くんと出逢ったのは運命だって思った。運命だって思ったから東京まで来た。
栄寿:(M)彼から離れるつもりなんて無かった。だってこれは『永遠の愛』だと思ったから。
栄寿:(M)だけど、本当は、『運命』も『永遠の愛』も、無いのかもしれない……。
達也:……夜明さん。よーあーけーさん?大丈夫っすか?
栄寿:んっ、うぇ?青砥?
達也:体調悪いっすか?
栄寿:いや、別にそんなことないけど。
達也:ほんとっすか?顔色悪いっすよ。……まあ、そろそろグーグルズ終わるんで、捌けです。
栄寿:あぁ!そうだね!了解!
達也:あの、本当に大丈夫っすか?きついなら店長に言って休ませてもらうか早退とか――
栄寿:(遮って)ほんとに大丈夫!!ごめんねぼーっとしてただけ!!元気元気!!ばっちりよ~~!!
達也:……。そっすか。……ならいいんすけど。
栄寿:――青砥さあ、優しいね。
達也:……はい?言われたことないっすけど。
栄寿:私、最後に彼氏に心配されたのいつだっけ。
達也:……えっ、と。
栄寿:さ!グーグルズ終わったね!撤収撤収!!
達也:……あ、はい!!
達也:(M)夜明栄寿(よあけ・えいじゅ)という女(ひと)は、どうしようもない。どうしようもなく、……放って置けなくなる。
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0:達也の家(高円寺)
あやせ:あ。おかえり~。
達也:あれ、珍し。今日休みか。
あやせ:うん。シフト希望出してる女の子多くてさ、入れて貰えなかった。
達也:そうか。
あやせ:……ごめんね。早く出て行かなきゃなのに。(落ち込み気味)
達也:いや別に、早く出て行けって言ってる訳じゃないだろ。
あやせ:でも悪いじゃん。こんなさ、私達付き合っても無いのに、
達也:それはさ……
あやせ:……?それは、何?
達也:(ため息)
あやせ:な、なに?
達也:俺達付き合ったらいいんじゃねーのって言おうかずっと迷ってたけど、やめた!
あやせ:お、おお…?
達也:でも早く出て行けとは言わん!
あやせ:なんで…?
達也:「友達」だから、困ってたら心配するだろ!
あやせ:友達……。
達也:なんか俺おかしいこと言ってるか?
あやせ:友達……、そっか、青砥くんにとって私は友達。だから心配する、そっか。
達也:お、おう。自己完結。
あやせ:……うん。そっか。
あやせ:じゃあさ、お金は頑張って貯めるとして、物件探しとか、その辺の手伝ってよ!アドバイスとか!
達也:おー、任せとけー。
あやせ:あ、そうだ。
達也:お?
あやせ:青砥くんの働いてるライブハウスって、何て名前だっけ。
達也:有力有善寺。(ゆうりょく・ゆうぜんじ)
あやせ:変な名前。
達也:はぁ?仕方ねぇだろ。で、それがどうかした?
あやせ:ううん。昨日お店に来た新規のお客さんがさー、彼女がライブハウスでバイトしてるって言ってて、たぶん青砥くんと同じとこ。
達也:うひょぁ!?
あやせ:変な声(笑う)
達也:ちょっ…と、待ってくれ。うちの女性バイトスタッフって言ったら一人しか思い当たらないんだが。
あやせ:青砥くんの想い人ですねえ。
達也:はあ!?ちげえし!!
あやせ:うっそ!!絶対そうだと思ったけど!?違うの!?
達也:……ノーコメントで。
あやせ:はいはい。で、なんかややこしくなりそうだったから適当に流しといたけど。フツーのサラリーマンだったよ。ただちょっとお疲れ気味かな~。
達也:……ふぅん。
あやせ:略奪愛は大変だろうけど頑張ってね!
達也:おまっ、略奪って!!
あやせ:「友達」として、応援してるわ!!
達也:(やれやれ)うるっせぇなあ……。
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0:数日後
0:高円寺ライブハウス『有力有善寺』
達也:いや~~今日は暇っすね~~。
栄寿:青砥、ほんと君は相変わらずだね。バンド「様」に出演して貰ってる立場でしょうよ~。
達也:いやだって。人少な。
栄寿:……まあ確かに。集客は悪い。インディーズレーベルにも載らないような完全身内ノリのバンド。
栄寿:曲はオリジナルだけど、ありきたりでつまんない。×(かける)3バンド。……まあ退屈ね。
達也:いやいやいや、夜明さんの方がかなり言うじゃないっすか。
栄寿:…ふふ。たまにはね。
達也:(ぼそりと)たまにっすかね…。
栄寿:なんか言った?!
達也:いいえ!!
達也:(M)夜明さんが「ありきたりでつまんない」と言ったバンドは、『永遠の愛』だの『運命』だのを歌っていた。
達也:夜明さん。
栄寿:ん?
達也:彼氏さんと上手くいってないんすか?
栄寿:…え。…は。
達也:いや、こないだなんか、そんな話してたんで。なんとなく。
栄寿:…嘘。私そんなこと青砥に言った?
達也:言ってましたよ。思いっきり。
栄寿:うわぁ~…。
達也:ま、話したくないなら、別に。
栄寿:いや、話す。話させて。とりあえず営業終了後!ジュース奢るから!
達也:別に奢ってくれなくても聞きますけど。ジュース苦手だし。
栄寿:そうじゃないと私の気が済まないの!分かんない!?
達也:はーい。承知しました~。…あ。撤収っすよ、夜明さん。
栄寿:…あぁ!はいはい!
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0:高円寺ライブハウス『有力有善寺』・営業終了後
0:深夜の公園・ジュースを持ってベンチに座る二人
0:どちらともなく話しだしそうな雰囲気だが、栄寿から。
栄寿:……なんかさ。
達也:はい。
栄寿:彼氏、さぁ~~……私のこと負担に思ってそうなんだよね。
達也:……はあ。それは、直接言われたとかではなく?
栄寿:直接は言ってこない!そういう人じゃないから!……でもさ、仕事めちゃくちゃ忙しそうで、いっつも疲れてて。
達也:……。(ジュース飲む)
栄寿:それで、私ご飯作ったりするんだけど一緒に食べれなかったり、デート誘ったりもするんだけど結局疲れてて行けなかったり、して。
栄寿:……それでね。私が悲しいなって顔しちゃうのが悪いと思うんだけど、そしたら彼氏、めちゃくちゃ申し訳なさそうにしてて。
達也:……。(ジュース飲んでる)
栄寿:……なんか、もう、どうしたらいいのか、分かんないやぁ。
栄寿:元々私が好きで追いかけて来たのに、ここからどうすればいいのか、分かんなくなっちゃった。
達也:……。(ジュース飲み終わる)
栄寿:ねえ青砥?どう思う?
達也:……。(空になったジュース缶を見てる)
栄寿:ごめんね!こんな一方的な話。
0:(沈黙)
達也:……けっこう乙女なんすね。夜明さんて。
栄寿:え。は、はあ!?!
達也:いや~?俺としては、ただ惚気を聞かされたな~としか思いませんでしたけど。
栄寿:惚気じゃないっ!!だって実際上手くいってないし!!
達也:上手くいってないところを上手くやろうと、二人して頑張ってるじゃないですか。恋人ってそういうものじゃないです?
栄寿:あ……。
達也:とりあえず話す時間増やしたらどうですかね?話し合い?みたいな?お互いの思ってる事言う時間?みたいなの作って貰って。
栄寿:……。……たしかに。青砥の言う通りかもしれない。
達也:はい。俺はそう思います。
栄寿:…っ、ありがとう!彼氏に話し合いの時間作れないか相談してみる!
達也:は~い。じゃ、気を付けてお帰りください~。
栄寿:(満面の笑顔)うん!ありがと青砥!ほんとに!青砥も帰り気を付けなよ!
達也:っ…
0:栄寿が去ってから
達也:……ミスったかぁ?俺は。はぁぁ~~~。自分の感情って一番めんどくせえ。
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0:達也の家(高円寺)
あやせ:――で、結局言えなかったし、むしろ背中押しちゃったんだ。
達也:(ため息)
あやせ:(笑いながら)なっさけねえええ~~~~!!!!!!
達也:うるせえよお前!!!!
あやせ:ひぇ~~こっわ!!(笑いながら)
0:あやせと達也、しばらく笑ってじゃれる
0:その後、あやせがカバンから何かを取り出す
あやせ:じゃじゃーん。青砥くんの失恋記念に!肉まんとあんまん、どっちがいい!?
達也:肉まん。
あやせ:更にじゃじゃーん!!ミルクティーとレモンティー、どっちがいい!?
達也:レモンティー。
あやせ:私達ってほんとに好み別れてんだね。おもしろ。
達也:だな。……てか、さんきゅ。
あやせ:いつだかのお返し~。あの時けっこう嬉しかったし。
達也:そうか。
あやせ:青砥くんには感謝してるんだよ?青砥くん居なかったらマジで行き倒れてたし、今の物件契約できたのも青砥くんのお陰だし!
達也:……入居日来週だっけか?
あやせ:うん!……ほんっとーうに長い事、お世話になりました。(頭を下げる)
達也:ん。感謝したまえ。(頭を触る)
あやせ:およ!?触ったなァ~!?
達也:スキンシップ。……「友達」として。
あやせ:ふふ。大事な友達ですよ~~青砥達也(あおと・たつや)くん。
達也:鶴舞、お前さ、恋愛とかしねえの?
あやせ:うーーーん。今は、しない!いい人がいないからね!
達也:そう。
あやせ:私はいつか、白馬に乗った運命の王子様と出逢えるって信じてるから!!!
達也:……っスー、女子ってみんなそうなの?
あやせ:いや知らんけど。
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0:数日後
0:慎一郎の家(中野)
慎一郎:(M)栄寿から、「話し合いたいことがあります。時間作って貰えませんか?」だってよ……。
慎一郎:(M)いよいよ俺は振られるのか?……まあ当たり前だよな。仕事を言い訳にしてあれだけほったらかして。
慎一郎:(M)……俺なりに頑張ってたつもりだったんだけどな。――やっぱり俺は、社会不適合者だな。
0:栄寿帰ってくる
栄寿:ただいま!慎一郎くん!
慎一郎:おーう。おかえり、栄寿。
栄寿:えへへ。今日は久々に二人でゆっくりできるし、ケーキ買ってきちゃった!
慎一郎:うお。レザネフォールじゃん。奮発したなあ。
栄寿:私の奢りだからね!
慎一郎:うん。ありがと。
0:(間)
栄寿:今日は時間作ってくれてありがとうね!
慎一郎:いやいや、今日はほんとに。いつも申し訳ない……。
栄寿:いいんだよ!!社会人頑張ってるんだし!!
慎一郎:ぜんっぜん頑張れてねぇけどなぁ~~。何の余裕も無いし。
栄寿:頑張れてるよ。慎一郎くんは頑張ってる。少なくとも、鹿児島本線の鈍行列車で出逢った時より数段かっこよくなってる。
慎一郎:…はは。そりゃどうも。
0:栄寿、少し迷ってから切り出す
栄寿:慎一郎くんはさ、私の事好き?
慎一郎:好きだよ。大事にしたいと思ってる。
栄寿:そっか。それが聞けて良かった。
慎一郎:でも、駄目なんだ。
栄寿:…え?
慎一郎:余裕ないんだよ俺。ほんと、駄目な奴でさぁ!栄寿のこと大事にしたいのに、仕事も全然できねぇし、いつも疲れててデートすら全然行けてない。
慎一郎:……ほんっとに、駄目な男で申し訳ない。俺がもっと…!!もっと栄寿のことを見て、大事に出来てたら…!!
栄寿:ちょ、ちょちょちょちょーーっとストップ!!!!!慎一郎くん!!落ち着いて!?
慎一郎:だって俺と別れたいんだろ?!栄寿!
栄寿:違うよ!!!!!!
慎一郎:は…え…?
栄寿:違う!違うって!!別れたくないに決まってるじゃん!!私だって慎一郎くんのことが好きだし!!
栄寿:仕事頑張ってるの偉いから応援したいと思ってるし、慎一郎くんの為に何かしたいけど、いつも上手くいかなくて……どうしたらいいかなって悩んでてぇ!!
慎一郎:栄寿……。
栄寿:今日は、その話を、したかったの……。
慎一郎:……そう、だったのか。ごめん。早とちりした。
栄寿:ほんとだよ!別れたいなんて思うはずない!!……こんなに好きなのに……。
慎一郎:(少し落ち着いた)……分かった。じゃあ、お互いの意見、交換しよう。思ってることを言おう。どうやったら、俺らが恋人として上手くやっていけるのか。
栄寿:……うん。
慎一郎:言い出してくれてありがとう、栄寿。栄寿がこう言ってくれなかったら、本当にダメになっていたかもしれないな。
栄寿:……ううん。いいの。
慎一郎:それと、そうだ!思ったことがあって!これからも意見交換する時間を作ろう!定期的に!
栄寿:でも慎一郎くん仕事が……
慎一郎:このぐらいの時間も取らせてくれない会社なら辞めてる!!
栄寿:……あ、っはは。そっか。はははっ。
慎一郎:はははっ。
栄寿:(からかうように)え~?今の会社辞めたらどうするの~?またラブホ?
慎一郎:(冗談ぽく)普通にアリ!!鬼シフト入れて稼ぎまくる!!
栄寿:も~~(笑う)
0:栄寿、慎一郎、しばらく笑い合っている
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0:後日譚
達也:(M)あれから何とか話し合い、夜明さんと彼氏さんは恋人の仲を再構築したそうだ。
達也:(M)恋をする覚悟も無かったのに、勝手に失恋したのは俺だ。
達也:(M)こんなことなら、鶴舞が言う通り、……「略奪愛」でもしときゃあ良かったかな。できた気もするけど、出来なかった気もする。今となっては分からない。
達也:(M)……ああ。あと、そうだ。鶴舞が俺の家を出てから一ヶ月。
あやせ:『私、風俗嬢になったんだよ!今凄い稼いでて幸せなの!それとね、白馬の王子様とも出逢えちゃいました!』
達也:(M)といった旨の連絡がきた。返信は――していないし、する気も無い。
~FIN~
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