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目的地は、君。【1:1:0】【ラブストーリー】

『目的地は、君。』
作・monet

所要時間:約30分

●あらすじ●
一一きっと「何か」が、足りないんだろうなあ。
九州の鈍行列車の中で出逢うラブストーリー。

栄寿/♀/22歳/夜明 栄寿(よあけ えいじゅ)。女性。きっと一人旅が好きというわけではない。美人だけど口が悪いし性格も悪い(自称)。自分の名前が好きじゃない。気は強め。

慎一郎/♂/27歳/大曾根 慎一郎(おおぞね しんいちろう)。男性。長年勤めたアルバイト先を辞め、現在は一人旅をしている。自由の身になり、気が大きくなってる。
性格は軽くてチャラい。鈍感。デリカシー無い。愛想はいいのでジジババには好かれる。


●ここから本編です●


 ●JR鹿児島本線・鈍行列車内●

慎一郎:……旅行、ですか?

栄寿:(M)普段なら絶対に応えないであろう、ナンパだった。

慎一郎:面白いところですよね。福岡って。

栄寿:(M)だけどその男は勝手に話し始めて、

慎一郎:もしかして、門司港(もじこう)の方まで行きます?それならずっと一緒だ。

栄寿:(M)私はこのナンパ男と、門司港行きの鈍行列車を約三時間も一緒に過ごすことになってしまった。

 (間)

慎一郎:あの、もしかして、お姉さんも一人旅ですか?

栄寿:(M)お姉さん「も」。この男の大きなバックパックを見れば、彼が一人旅の旅行客なのは一目瞭然だ。

慎一郎:……いや、でも、違うか。荷物少なめだもんな……。

栄寿:あなた。

慎一郎:えっ?どうしました?

栄寿:よくそんなに一人で喋れますね。

慎一郎:あ……ああ。何と言いますか、独り言は癖で……前に働いてた職場の影響も、あるのかな。

栄寿:ふぅん。

慎一郎:あの、あなたは……この辺の出身で?

栄寿:……そうですよ。

慎一郎:福岡人?

栄寿:違います。

慎一郎:ええ…?でも九州の人なんですよね?

栄寿:(※舌打ち)

慎一郎:え……?

栄寿:あなた、旅行ハイかなんかですか?初対面の人に、そんなに矢継ぎ早に質問されても、困ります。

慎一郎:す、すみません……。確かに旅行ハイだったかもしれません。

栄寿:それと。

慎一郎:……それと?

栄寿:たぶん私よりあなたの方が歳上なんで、そんなに畏まらなくていいです。敬語使わないでください。

慎一郎:え?でも、さっき、無礼だ~みたいなことを……。

栄寿:別に私は無礼だなんて一言も言ってません。困っていただけです。

慎一郎:それ……あんまり意味変わらないんじゃ……。

 (間)

栄寿:何しに来たんですか?こんな何もないド田舎に。

慎一郎:いや、何もなくはないでしょう?いろいろ行ったよ、ほら、大牟田(おおむた)もいいところだったし……そう、豚足!豚足が美味しくて!あとは久留米とかも~~

栄寿:……見てくださいよ。この景色。

 (栄寿は電車の外を見る)

慎一郎:え……?

栄寿:何もない。何も無いんです。田んぼだらけ。代り映えのしない景色。……何が楽しいんですか?

慎一郎:それ、は……。自然が沢山あっていいなって……。

栄寿:ハッ。自然が沢山あったところで、人間の生活は豊かにはなりませんけどね。

慎一郎:あの、君は……この土地が嫌いなの?

栄寿:君じゃなくて「夜明(よあけ)」です。(※名乗る)

慎一郎:ああ、えっと……。夜明さん。夜明さんは、九州のこの土地が嫌い……なの?

栄寿:嫌いですよ。

慎一郎:……そっ…か。

栄寿:嫌いです。嫌いですけど、……外に出る勇気もありません。

慎一郎:なる、ほど。

栄寿:ダサいですよね。嫌いなら、出ていけばいいのに。私にはその勇気が無い。

慎一郎:……勇気が無いのはどうしてか、とかは、聞いても……?

栄寿:あー……。えっと、私、弟が居て。昔からイケイケの問題児っていうか。……まあ、今は隣に住んでる女の子のお陰で何とかなってるんですけど。
なんか、弟見てたら、ああはなりたくないって気持ちと、いいなあって気持ちが混在して、それで、なんか……えっと、上手く言えないんですけど――

慎一郎:身動きが取れなくなった?

栄寿:(※少し驚いて)……そう。それ。それです。あなたの言う通り……えっと……あなたは、

慎一郎:(※名乗る)「大曾根(おおぞね)」です。

栄寿:大曾根、さん。

慎一郎:俺も少し前までそうだったから、分かるよ。

栄寿:そう、なんですか……。

慎一郎:このままじゃ駄目だ、って分かってるんだけど、なんか動けないんだよな。悪い意味で、安心しきっちゃってるっていうか。

栄寿:(※初めて笑う)分かります、それ。

 (電車が停車する)

 ●二日市駅●

栄寿:あー……。まだ、「二日市(ふつかいち)」……。

慎一郎:(※笑って)遠いね。博多までは。門司港まではもっとだけど。

栄寿:ほんと、何なんですかね。広すぎでしょ。福岡って。いや、福岡だけじゃなくてウチの地元……大分もですけど。
……無駄に広い癖に、なんもない。せっかくあるものを持て余してるっていうんですかね?そういうの、イライラする。

慎一郎:(※噴き出して笑う)

栄寿:なんですか?何がおかしいんですか?

慎一郎:(※ずっと笑ってる)いやぁ、けっこう言うなあと思って。夜明さんは。自分の地元のこと。

栄寿:……はい。いや、まあ……嫌いなんで。

慎一郎:(※だんだん笑いが収まって)じゃあ何で来たの?

栄寿:え?

慎一郎:地元、大分なんでしょ?なんで福岡に来たの?
しかも博多とか天神にに遊びに来た、って感じじゃない。鹿児島本線の鈍行列車なんかに乗って、終点の門司港まで行こうとしてる。

栄寿:……あの。

慎一郎:ん?

栄寿:そりゃあ少しは雑談をして、ほんの少し、ほんのすこーし打ち解けはしましたよ?私達。
――でも、いくらなんでもその質問はデリカシーに欠けると思うのですが。

慎一郎:ああ……ごめん。ただ純粋に気になっただけというか……やっぱり取消すよ。

栄寿:(※被せて)家出、

慎一郎:え。

栄寿:(※慎一郎の台詞を待たずに)なんですかねえ……。

慎一郎:どういう、こと?

栄寿:さっき弟が居るって言ったじゃないですか、私。

慎一郎:ああ、うん。……「イケイケの問題児」?

栄寿:そう。その「イケイケの問題児」です。……結婚、するんですよ。

慎一郎:え!?そ、それはおめでたい……。

栄寿:まだ20歳(はたち)の癖して、幼馴染の女の子と。

慎一郎:あ、さっき言ってた「隣に住んでる女の子」?

栄寿:……大曾根さんって記憶力いいですね。

慎一郎:いや、別に……。人の話を聞くのが好きなだけだよ。

栄寿:そうですか。

栄寿:……それで、弟が結婚するってなって、そしたら、田舎なんで、その……

慎一郎:「お姉ちゃんはいい人いないの?」とか聞かれるわけだ。

栄寿:……はい。何で分かったんですか。

慎一郎:俺も田舎出身だから。関東のド田舎。

栄寿:関東って田舎のイメージ無いですけどね。だってすぐ東京出れますし。

慎一郎:そっれがそうでもないんだなぁー!山ばっかりだよ!ほんっと、見渡す限り山!ネカフェとかも何も無い!

栄寿:ネカフェはこっちにもありませんけど……。
……でも、まあ、それで嫌になっちゃって、親戚の家がある大牟田(おおむた)まで逃げてきてました。

慎一郎:はっはっは。なるほどね。気持ち分かるなあ。

 (間)

栄寿:ふーん。そっか。そうかあ……。
大曾根さんでも分かるんですね。家族から「いい人いないの?」って言われる気持ち。

慎一郎:分かるよ。俺は夜明さんとは逆かな。兄貴達どんどん結婚してって、残すはお前だけだ―!って圧、かけられる。(※笑う)

栄寿:えー。それもひどい。(※笑う)
(※冗談風に)「いい人いないんですか?大曾根さんは。」

慎一郎:いやぁーー。それがさぁーー。

栄寿:(※素に戻って)えっ。いるんですか?

慎一郎:(※にやり、と笑って)いない。

栄寿:何なんですかもう!

慎一郎:というか、恋愛ってイマイチよく分からなくて。いいなーって思う女の人は今まででも居たよ。何人か。でも、それで恋愛に発展するのか、って言ったら違うっていうか。

栄寿:……。

慎一郎:きっと「何か」が、俺には足りないんだろうなぁ……。

 (間)

栄寿:……分かりますよ。その気持ち。

慎一郎:ええ?夜明さん、そんなに美人なのに?

栄寿:さらっと口説かないでください。……顔が良くても、幸せな恋愛が出来るとは限りませんから。

慎一郎:……。なるほどね。別に夜明さんが今までどんな恋愛をしてきたのか、とかは聞かないよ。

栄寿:当たり前です。聞かないでください。それこそセクハラです。

慎一郎:あはは……。

栄寿:でも、「何か」か……。私には何が、足りないんだろうな。

慎一郎:俺も何が足りないのか、教えて欲しいよ。

栄寿:……だっておかしいじゃないですか。世界には――いや、日本だけでもこんなに人間がたくさん居て、どう見てもアホで馬鹿な奴らでも結婚して幸せな家庭を築いて……

慎一郎:弟さんの事?(※笑う)

栄寿:……あ、はい。そうです。でも今のは無意識でした……。あーー!こういうところなんだろうなぁ。私、性格悪いし口も悪いし、顔だけ良くても……だから駄目なんだろうなぁ。

慎一郎:ちゃんと分かってるじゃん。足りない「何か」。

栄寿:うるっさいですよ!!なんなんですか!?ちょっと失礼過ぎませんか!?もっとこう大曾根さんは女性を敬う気持ちをですね!!……あ。

慎一郎:それが俺の、「足りない何か」か……。

 (栄寿、慎一郎、顔を見合わせて笑う)

栄寿:……もう、なんだろう。なんていうか、ほんっとうに、くだらない……。くだらなかったですね。(※笑う)

慎一郎:「足りない何か」なんて大層な言い方しちゃってさ。詩人かよ俺ら。(※笑う)

栄寿:……私は口の悪さと性格の悪さ。

慎一郎:そして俺はデリカシーの無さ。……を、直せばちゃんと恋愛できる……?のかな……?(※疑問形)

栄寿:あーー!もうやだやだ!そこ疑問形にしちゃわないでくださいよ!せっかく答え出たのに!最悪です!また一からやり直しになっちゃうじゃないですかー!!

慎一郎:あはは。ほらほら、夜明さん、口の悪さ、出てるよー。

栄寿:誰のせいだと思ってるんですか!もう!

 (車内アナウンスが流れる)

栄寿:……あ。

慎一郎:もう博多か。

栄寿:なんというか、さっきまではあんなに長いと思ってたのに、話してるとあっという間ですね。電車内って。

慎一郎:なかなか話題も盛り上がったしね。

栄寿:……博多着いたら人いっぱい乗ってくるんだろうなー。嫌だなぁ。

慎一郎:まあ、博多だから仕方ないね。

栄寿:……こうやって大声でお喋りも出来なくなっちゃいますね。

慎一郎:いや、人が居ないとはいえ電車内で大声でお喋りはどうかと思うけど――

栄寿:そういうことじゃないです!!(※大声)

慎一郎:は……?え……?

栄寿:ほんっとに!大曾根さんって!そういうところ!そういうところですよね!?だからモテないんですよ!!ばーかばーか!!

慎一郎:え、ええ? 俺、今何かデリカシー無い事言ったかな? たしか電車内ではお静かにって言っただけで――

栄寿:もういいです。――門司港まで、行くんですよね?

慎一郎:うん。そのつもりだよ。

栄寿:私もそのつもりなので。……席はこのまま隣同士で、お願いします。

慎一郎:はい、お願いします。

栄寿:~~~っっ!!なんなんですか、その!! お、女の子が、隣の席に座りたいって言ってるのに、大曾根さんは何も感じないんですか?

慎一郎:(※ぽかんとして)……え? 嬉しいよ。そりゃあ。 え~っと……。あと一時間半?くらいも一緒なんだね。

栄寿:(※照れて)えっと、はい、そ、そう、ですね……。 てか私何言っちゃってんの!? めちゃくちゃ恥ずかしいごめんなさい大曾根さん……。

慎一郎:謝らなくてもいいけど……そろそろ本当に博多着いちゃうし、人も沢山増えるだろうから、声のボリュームは下げよっか。

栄寿:た、確かにそうでした!!(※大声からの自分の声量に気づいて)……あ。分かり……ました。

 ●博多駅を出発●

 (案の定車内は上客で溢れている為、ボリュームを落として二人とも話す)

栄寿:その、大曾根さんって……実のところお幾つですか?

慎一郎:27歳だよ。

栄寿:え。

慎一郎:何、その反応……。27の割にガキくせぇなって思った?

栄寿:いやいや、そんなことは……。最初から歳上だろうなとは思ってましたし、でも、その思ってたより年齢いっててびっくりしました。

慎一郎:(※軽く笑って)相変わらずハッキリ言うね、夜明さんは。

栄寿:……すみません。これから直していくつもりですので、お許しください。

慎一郎:分かってるよ。全然平気。……それに俺、自分が歳相応じゃないことも自覚してる。

栄寿:そう、なんですか……?

慎一郎:うん。俺さ、フリーターでしか働いたことなくて。

栄寿:?

慎一郎:しかも高校卒業して2年はニート。20歳になって、友達に誘われるがまま上京したけど、5年間も同じラブホでバイトしてた。それでそこ辞めて、今は絶賛、自分探し中。

栄寿:……でも、なんでそれが歳相応じゃない理由になるんですか? フリーター……えっと、アルバイトとはいえ、東京出てきちんと働いてたんでしょう?

慎一郎:うーんと、ね。……考えてみて?夜明さん。 俺は東京で5年間も働いてたのに、ラブホの業務以外まったく知らないんだよ?

栄寿:……あ。

慎一郎:27歳っつったらさー。正社員やってる奴らはそろそろ役職就いたり、それこそ、さっきの話じゃないけど結婚して家庭持ったり。
俺にはそういうのが無いから。歳相応じゃないっていうか、ガキくせぇんだよな。

栄寿:……。

慎一郎:あー……。流石に引いたよね?ごめん。自分の話ばっかりしちゃって。……ほんっと、デリカシー無いなあ俺。

栄寿:ほんとですよ。

慎一郎:(※微笑んで)ごめんね。

栄寿:なんでそんな、如何にも自分は大人ですー、みたいな、この社会を見てきましたー、みたいな、分かったような態度で話すんですか?

慎一郎:……え?

栄寿:分からないじゃないですか。27歳で職歴がフリーターしかなくても、これからどうなるかなんて分かんないし、そんな分かんない未来に賭けて、少なくとも私は生きてるのにッ
そんなッ、夢も希望も無いんだよみたいなこと言わないでくださいッ、最低ですッ…~~ッ

慎一郎:……お、怒って、る……?

栄寿:当たり前に怒ってます。

慎一郎:そうだよね。怒ってるよね。……ごめん。

 (間)

栄寿:……私は22歳で、実家で父の仕事の手伝いをしてるんですけど、それこそ、これからどうなるかなんて分からないし、クソ弟は結婚しちゃうし、私はこうやって家出もしちゃうけど、
でもっ、でもいつか何かが起こって、それこそ白馬の王子様じゃないですけど、そういう人が現れて私を攫ってくれたっていいし、
だから、未来に希望はあります。きっと。大曾根さんの未来にも希望はあるんです。私の未来にも希望はあります。
…………お願いします。 希望はあるって、思わせてくださいよ――。

 (間)

慎一郎:……夜明さん。ごめんね。俺も少し、投げやりになってたのかもしれないな。……未来に希望はあるよ。

栄寿:そうですよ。あってくれなきゃ困りますもん。 あ、ラブホの業務って何するんですか?

慎一郎:…っっ。夜明、さん……。ここ、電車の中。

栄寿:ちょっとくらい教えてくれてもいいじゃないですか。けち。

慎一郎:……じゃあ。

栄寿:じゃあ?

慎一郎:夜明さん。君の下の名前を教えてよ。そしたらラブホの業務について教えてあげる。

栄寿:……。

慎一郎:あ、ちなみに僕は慎一郎(しんいちろう)。大曾根慎一郎。

栄寿:嫌です。

慎一郎:え?

栄寿:女性に下の名前を聞くのは、セクハラだと思います。本ッ当にデリカシー無いんですね!慎一郎さんは!

慎一郎:ええ……?? これもセクハラなの?? おちおち女性と会話できないなあ俺……。

栄寿:――っていうのは嘘、です。たぶんですけど。

慎一郎:な、何?どういうこと……?

栄寿:――「キラキラネーム問題」って、ご存じですか?慎一郎さん。

慎一郎:あ。(※察する)

栄寿:つまりはそういうことです。……私、自分の下の名前嫌いなんです。
うち、それこそ親が……あ~、、さっき言ったみたいな、アホで馬鹿な奴らで!ノリと勢いで結婚して子供作ってウェーイ!みたいなほんっとにクソ田舎モンで!

 ●電車は赤間駅に停車する●

栄寿:あ……。もう赤間(あかま)か……。

慎一郎:少し声大きいかもよって言おうか悩んだけど、ここまで来ちゃえばほとんど乗客も居ないね。

栄寿:はーーーー!!!クッソ田舎!!!赤間とか!!田んぼ以外何があるっていうんですか!?

慎一郎:こらこら。……あ~ほら。短大とか?あるみたいだよ?

栄寿:こんな田んぼの中でのキャンパスライフなんて、絶対に楽しめませんよ!絶対楽しめませんから!!

慎一郎:こらこら、夜明さん。赤間に住んでる人に失礼でしょ。

栄寿:こっちだって大分のド田舎住んでんだ!どっこいどっこいだよ!!

慎一郎:ん、んん……?喧嘩を売りたいのかそうじゃないのか分からないな……。

 (電車が発車する)

慎一郎:それで?

栄寿:それで、って何がですか?

慎一郎:夜明さんの下の名前、何なの?

栄寿:……は゛?(※めっちゃ機嫌悪い)

慎一郎:ご、ごめんごめんごめん!! でも、なんというかさっき、教えてくれる流れだったじゃん? 教えてくれる流れだったかなーって……。あはは……。

栄寿:………じゅ。

慎一郎:え?ごめん!聞き取れなかった!

栄寿:……ぃじゅ。

慎一郎:……あのー。夜明さん?わざと聞き取れないように言ってない?

栄寿:うるっさいなぁあ!! 「栄寿(えいじゅ)」ですよ!! えいじゅ!!! 「栄える」に「寿(ことぶき)」と書いて、栄寿!!
ええ!!キラキラネームでしょう!? 罵ってください!!さあどうぞ!!

慎一郎:栄寿、ちゃん……か。

栄寿:はい。そうです。栄寿です。ちなみに「ちゃん」とか要らないんで「栄寿」と呼び捨てにしてくださいお願いします。マジで「栄寿」に「ちゃん」は似合わないんです。
はーー……名前に関するご感想など何でもご自由にどうぞ。本当はあのDQN親に言って欲しいところなんですけど、今は私がお受けしましょう。
ちなみに弟の名前は「大きな河」と書いて「大河(たいが)」といいます。こちらもなかなかに、なかなかでしょう?
(※大きくため息)もぅ、やだぁ、何ぃ、何の罰ゲームだよこれぇ……。

慎一郎:(※独り言のように)栄寿……栄寿……夜明……栄寿……

栄寿:し、慎一郎さん?どうしました?あまりのキラキラネームっぷりに頭おかしくなっちゃいました?

慎一郎:いや、君のご両親は素敵な名前を付ける方たちなんだなと思って。

栄寿:は、はああ!?!

慎一郎:だって、「栄える」に「寿(ことぶき)」だろう?めちゃくちゃ縁起のいい名前じゃないか。苗字の「夜明」とも合ってるし。
俺はとっても好きな名前だよ。……えっと、栄寿?

 (慣れないことを言われ顔を赤くする栄寿)

栄寿:し、慎一郎さんは……その、優しい、んですね。

慎一郎:ははっ。デリカシー無いけど?

栄寿:デリカシーは、無いけど。

慎一郎:……栄寿も、可愛いね。

栄寿:口と性格悪いけど?

慎一郎:(※微笑む)口と性格悪いけど。

 (間)

慎一郎:門司港着いたらさ、少し二人でゆっくりしよっか。

栄寿:……賛成。

 (間)

 ●門司港駅から出た二人●

栄寿:……。(機嫌悪そう)

慎一郎:……あの、栄寿?怒ってる?

栄寿:怒ってるよ。

慎一郎:……だよね。

栄寿:いや、休館日の多さ~~~!!! お土産屋さんもどっこもやってないじゃん!!! ふっざけんなよ一応観光地だろ!?

慎一郎:……ほ、ほら栄寿。街並みがさ、レトロでいい感じじゃん……??

栄寿:……あのねぇ。それくらい知ってます。門司港レトロでしょ? 九州人なめんな。 焼きカレー屋もどこも休業日!!なにこれマジで!!

慎一郎:まあまあ、海見るのも、たまにはいいんじゃない?

栄寿:ってかさ、ふらっと来た私はともかくとして、慎一郎くんは旅行で来たわけでしょ!?なんで休館日とかそういうの調べなかったわけ!?マジでありえないんですけど!!
ほんとに街並みと海だけ見て帰れってかよ~~~。……はぁ。せっかくここまで来たのに。――もう、最悪。

 (栄寿の様子をそっと見守っていた慎一郎)

慎一郎:…………栄寿はさ。ここまで電車に乗って来て「得たもの」、何もなかった?

 (間)

栄寿:…………ううん。あったよ。 ……その、慎一郎くんに出会えたし。

慎一郎:俺も。栄寿と出会えたから、鹿児島本線の鈍行列車に乗って良かったし、あの時声掛けて良かった。

栄寿:……最初はマジで旅行ハイのナンパうざって思ったけどね。

慎一郎:そこはごめん。デリカシー無いからさ、俺。許して。

栄寿:ヤダ。私性格悪いから許さない。

 (二人で笑い合う)



 (しばらく間)

 ●海を見ながらの二人●

栄寿:…………東京帰るの?本当に?

慎一郎:うん。帰るよ。

栄寿:また九州……来てくれる?

慎一郎:どうかな。気が向いたらね。

栄寿:その、じゃあさ――! 私が東京に行くっていうのは、アリ?

 (間)

慎一郎:……勿論。つらくなったらいつでもおいで。 ――東京で待ってるよ。栄寿。



 (※一旦終わった?と思わせるくらいの間を取ってください)



栄寿:ここで終わるの?

慎一郎:え?

栄寿:せっかく大牟田(おおむた)から鹿児島本線乗って、門司港(もじこう)まで来て、結局どこもやってなくて何にも見れなかったけどッ……

栄寿:本当にこの話は、ここで終わるの?

慎一郎:栄寿、それは……

栄寿:ねえ、私、慎一郎くんのことが好きだよ。分かってると思うけど。
……だって私の名前、好きだって言ってくれた!私が大っ嫌いな私の名前、いい名前だって言ってくれた!
それにこんなに口悪いし性格も悪い私の事、受け入れてくれた。 ねえ!慎一郎くん!

慎一郎:……俺達まだ出会って24時間も経ってないだろ?

栄寿:でも3時間は一緒に過ごした!それに!最初に声掛けてきたのは慎一郎くんだからね!?

慎一郎:それは……確かに言い逃れできないな。

栄寿:ねえ慎一郎くん。慎一郎くんは私の事好きじゃない?

慎一郎:……それは、どう答えるのが正解?

栄寿:っ…(※泣きそうになるが、こらえる)
   「俺も栄寿のことが好きだよ」って答えるのが正解。

慎一郎:……そっか。

 (気まずい、無言の間)

慎一郎:……栄寿。

栄寿:……はい。(※緊張)

 (スマホの画面を栄寿に見せる慎一郎)

慎一郎:さっきから調べてたんだけどさ、ここ、行かない?

栄寿:……?「白野江(しらのえ)植物公園」……?
慎一郎:ここだったら~、たぶんやってそうだと思うんだよね。

栄寿:……えっと、慎一郎くん?

慎一郎:ちょっと遠いけど、タクシー使えばすぐだし。

栄寿:ねえ!!慎一郎くん!!有耶無耶にしようとしてるでしょ!? 私の告白の答え!!

慎一郎:え?あ、えっと。……う~ん。分かんないかなあ。

栄寿:何が!?

慎一郎:――これが俺なりの答え。「俺も栄寿のことが好きだよ」。

栄寿:っっ……!! う、嘘……!! 嘘だ、絶対嘘だ!! こんな変な名前で、性格も悪くて、口も悪い女が好きだなんて、絶対嘘だ!!

慎一郎:(※笑う)言い出したのはどっちだよ。……嘘じゃないよ。俺も本当に、栄寿が好き。だから、行こ?「白野江植物公園」。初デート。

栄寿:は、はははは初デート!!!

慎一郎:あれ?恋愛経験はそこそこあるんじゃなかったっけ?

栄寿:それとこれとは話が別!! いいから、行くよ!!

慎一郎:はいはい。 じゃあタクシー捕まえるね。

栄寿:あ。それと、ラブホの業務内容について教えてもらってない。

慎一郎:……はいはい。それも後で教えるから。


 ●タクシーに揺られ、数分後●

 ●白野江植物公園に到着した二人●

栄寿:……。(機嫌悪そう)

慎一郎:……あの、栄寿?怒ってる?

栄寿:怒ってるよ。

慎一郎:……だよね。

栄寿:んもう!!! なんで今日に限って、どこもかしこも休館日なのよ~~~!!! どっかしらはやってろよ~~っっ!!!

慎一郎:(※笑うも笑わないもご自由に。アドリブもどうぞ。)

栄寿:(※アドリブご自由に。無しでも大丈夫です。)


●END●

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