山茶花が咲く頃に【1:1:0】【青春/学園もの/ラブストーリー】
『山茶花が咲く頃に』
作・monet
所要時間:約20分
●あらすじ●
「片想いってどうあがいても自分勝手なものだとおもうんすよ。」
片想いを拗らせた高校生二人の、青春ラブストーリー。
美乃利/♀/高3/藍沢 美乃利(あいざわ みのり)。軽音楽部。現在はアコースティックギターで弾き語りをしている。高2の時までは精力的にバンドを組んで活動していた。学習塾に通っている。直也の気持ちに気づいている。
直也/♂/高2/播磨 直也(はりま なおや)。軽音楽部。リードギター担当。部活外でバンドも組んでいる。美乃利のことが好き。俺が一番ギター上手い。
●ここから本編です●
美乃利:(M)「片想いをしている瞬間が一番楽しい」と、よく言うけれど、本当にその通りだと思う。
美乃利:(M)沢山メッセージのやり取りもしたし、二人きりのデートにも何回も行った。……でも。それだけだった。
美乃利:(M)私は先輩の隣に立つのに相応しい人物では無かったのだ。
(間)
美乃利:……知ってる。知ってるよ。そんなこと。
(間)
美乃利:(M)気持ちを伝えれば、たとえフられてもすっきり出来ると思っていた。
(間)
美乃利:……そんなこと無かったよ。
(間)
美乃利:(M)燻ぶった恋心は、何処にも持って行けなくて。今も私の中で、熱を放出し続けている。
●場面転換●
●放課後●
●軽音部・部室●
●一人でアコースティックギターを弾いている美乃利●
●そこに、授業が終わった直也が入ってくる●
直也:……お疲れ様でーす。
美乃利:あ、直也くんお疲れ様。
直也:美乃利センパイ。授業終わるの早いっすね。
美乃利:ん?授業?あー……サボった。
直也:……またすか?
美乃利:だって。だるいし。
直也:センパイ受験生でしょ?しっかりしてくださいよ。
美乃利:ヤだよ。受験したくないし。
直也:二年の時までは、あんなに優秀だったのに。
美乃利:出たよ出たよ。「二年の時までは」。悪かったね。急に落ちこぼれて。
直也:いや、センパイならきちんと勉強すればちゃんとした大学行けるんじゃないかなって。
美乃利:……興味無いもん。
直也:そうすか。
美乃利:私もアメリカ行きたい。
直也:ははは…。
美乃利:卒業したら行くんでしょ?アメリカ。
直也:まー、その為にバイトしてますからね。
美乃利:いいなあ。私も連れてってよ。
直也:駄目っすよ。センパイは「ちゃんと」進学してください。
美乃利:ねー、直也くん。
直也:なんすか?
美乃利:「ちゃんと」って、何?
(間)
直也:(M)俺はその問いに、答えることが出来なかった。
直也:(M)藍沢 美乃利(あいざわ みのり)。三年生。俺の所属する軽音楽部の、一つ上の先輩。ギター担当で、歌も歌える。真面目な性格。二年生の時までは、皆を纏めるリーダーで、俺たち後輩の面倒もよく見てくれていた。
直也:(M)だが、学年が上がってからはどうにも様子がおかしい。平気で授業をサボるようになったし、組んでいたバンドも解散してしまった。
直也:(M)部活が始まる時間までは部室に居て、アコースティックギターを弾いているが、部員の皆がやってくる時間には帰ってしまう。
直也:(M)その理由を、俺は何となく知っていた。
(間)
直也:……そんなに谷口先輩のことが忘れられないんすか。
美乃利:藪から棒に何?
直也:だって美乃利センパイ、明らかにおかしいっすもん。
美乃利:うるさいよ。
直也:そんなに好きなら、追いかけたらいいじゃないすか。別に遠くないんだし。京都。
美乃利:直也くんには分からないよ。
直也:……。……ハッ、そうすか。……そうすよね。分からないっすよね。
美乃利:?
直也:(※ぼそりと)センパイだって俺の気持ち分かってない癖に。
(間)
直也:(M)そう。美乃利センパイの好きな男、【谷口先輩】。今年三月に卒業した先輩で、うちの軽音部の前任の副部長。俺も勿論面識がある。
直也:(M)仮にも顔がいいとは言えないが、明るくて誰にでも優しい人気者。彼の組んでいたバンドはうちの学校内ではアイドルのような存在感を放っていた。
直也:(M)そんな奴に勝てっこないって?いや、でもギターの腕なら俺の方が優れてると自負している。なのにこの女ときたら……。
(間)
美乃利:じゃあ私、そろそろ帰るから。
直也:美乃利センパイ!俺は、
美乃利:何?
直也:……俺は、センパイのこと好きっすよ。
美乃利:……そ。ありがとう。
直也:あのっ!今度っ…
美乃利:(※遮って)じゃ、部員の皆によろしく。
直也:あ……
(美乃利、部室を出て去っていく)
(残された直也、美乃利の背中を見ながら呟く)
直也:おつ…かれさま…です…
(間)
直也:(M)俺は、この「藍沢 美乃利」という女に、そして彼女が好きな【谷口先輩】に、どうしたって適わない。
(間)
直也:(※独り言)はーっ……。練習しよ。俺にはギターしかねえや。
●シーン切り替え●
●美乃利の帰り道●
美乃利:(M)播磨 直也(はりま なおや)。よく懐いてくれる可愛い後輩。勿論、彼の事が嫌いな訳では無い。
美乃利:(M)だけど……。さっきみたいにあからさまに好意を向けられると、どう反応して良いものか分からなくなる。
美乃利:(M)だって私はまだ、未練を断ち切れていない。そのことも直也くんにはバレている。恥ずかしい。
美乃利:(M)でも、だって……。私は、谷口先輩に告白して振られている。それを引き摺っている。……そしてそのせいで、マトモに学校生活も送れていない。
(間)
美乃利:(※独り言)馬鹿みたいだ。
(間)
美乃利:(※スマホを取り出し、文面を打つ。)『谷口先輩。お久しぶりです。藍沢です。お元気ですか――』…………はぁ。やめやめ。
(間)
美乃利:(M)私は途中まで打ったメッセージを全て消した。これで何度目だろう。
美乃利:(M)「好きなら追いかけたらいい」。まったくもって、直也くんの言う通りだ。今の私は、臆病になって、ただうじうじしているだけ。
美乃利:(M)未練だけ残して、だけど何も行動できていない。無理だって思ってるのに、好きの気持ちも諦めきれない。
美乃利:(M)直也くんの顔を見る度に辛くなる。早く私の事なんか見限って、他の女の子と幸せになってくれればいいのにと思う。
美乃利:(M)……でも。たぶんそういうことじゃない。私だって谷口先輩に「他の人と幸せになって」と言われた。だけどそんなことできない。
美乃利:(M)そんなに簡単に、切り替えられないよ。恋愛って、恋心って。難しくて、ややこしくて、もどかしい。
●シーン切り替え●
●直也、バイト終わり●
直也:お疲れ様ですー。お先に失礼しまっす。
(間)
直也:ふぃ~っ。疲れた疲れた~。今日も頑張って働きました~っと。
(間)
●直也の帰り道、学習塾の近くで美乃利を見かける●
直也:…………えーと。美乃利センパイ。何やってるんすか。
美乃利:ああ、直也くん?見て分かんない?塾サボり。
直也:いやいや、塾の講義くらいちゃんと受けてくださいよ。
美乃利:いやー。まあ、そうなんだけどねえ。
直也:まったく……。
美乃利:直也くんはバイト終わり?すぐそこのコンビニだもんねー。バイト先。
直也:あ、ハイ。そっす。
(美乃利、缶ジュースを差し出す)
美乃利:飲む?梅サイダー。
直也:え?いいんすか?
美乃利:間違えて二個買っちゃった。
直也:(※何かを考えてから)頂きます。
美乃利:隣、座りなよ。
直也:はい。
(少し無言の時間)
直也:好き、なんすか?梅サイダー。
美乃利:んー。分かんない。
直也:……そっすか。
美乃利:うん。
直也:……谷口先輩が、よく買ってましたよね。梅サイダー。購買の自販機で。
美乃利:そうだったかもね。
直也:それで二個、買ったんすか?
美乃利:……。
直也:……。
美乃利:……そうだよ。
直也:そ、っすか……。
美乃利:馬鹿みたいだよね。
直也:いや、そんなことは――
美乃利:馬鹿なんだよ私!ほんっとに馬鹿。梅サイダー二個買ってこのベンチに座ってたらさ、偶然地元帰ってきた谷口先輩が通りかかって、それで私に気づいて、一緒に梅サイダーを飲んでくれるんじゃないかなって、
美乃利:……毎日毎日、そんなことばっかり考えてるの。
直也:センパイ……。
美乃利:ごめんね?幻滅したでしょ?
直也:俺は、
美乃利:真面目でリーダー気質な藍沢美乃利は、本当は片想い拗らせてキモイ妄想ばっかりしてるイタイ女なんだよ。
直也:……。……そんなの。
美乃利:?
直也:そんなの、俺だって同じですよ。俺だって、センパイのこと好きでッ……!
直也:何で俺がすぐそこのコンビニでバイトしてるか分かります?センパイがここの塾通ってるの知ってたんすよ俺。
直也:ッだから行きとか帰りとかに偶然会えたりしないかなーって!バイトの度に思ってますし、一緒に駅まで帰ったり、とか、そういうキモイ妄想ばっかりしてますよ。
美乃利:直也、くん……。
直也:引きました?すみません。でも俺はそれくらい美乃利さんのこと好きですし、片想いってどうあがいても自分勝手なものだと思うんすよ。
美乃利:まあ……そう、かも、、しれないけど……
直也:もしセンパイが俺を諦めさせようと思ってそんなこと言ったんだとしたら、意味無いですからねそれ。
美乃利:……っ。ごめん。
直也:本当は谷口先輩のことなんか諦めて、俺のところに来いって言いたいすよ。……でも片想いの辛さ知ってるから、できないっす。
直也:だから、いけるところまで頑張って、追いかけて、本当に自分の中で火が燃え尽きるまで、想い続ければいいと思うんす。
直也:……俺は、応援、してますから……。同じ片想い仲間として。
美乃利:……なに、それ。……優し過ぎて怖いんだけど。……何企んでるの?
直也:あ。バレました?実は企んでました。……これ。(※財布から何かを取り出す)
美乃利:え?あ。チケット?ライブ?
直也:はい。本当は学校で渡そうと思ってたんすけど。渡しそびれちゃったんで。来てください。ライブ。
直也:今回アツいんすよ?プロの人達とも対バンするんで。
美乃利:すごいじゃん。流石だね。……チケット高い?ちょっと今あんまり持ち合わせが――
直也:今はチケット代いいっす。
美乃利:は!?ノルマきつくないの…?
直也:あはは…。きつくないって言ったら嘘になりますけど。とりあえずタダで来てください。絶対いいものにするんで。
美乃利:自信満々だね。
直也:まあ、俺が一番ギター上手いっすから。
美乃利:何と比べてよ(笑)
直也:えっとー。世界?
美乃利:規模大きいな(笑)
直也:ま。いずれ世界進出するんで。
美乃利:卒業後はアメリカだもんね。
直也:はい。アメリカ行ってBIGになってやりますよー!
(美乃利と直也、笑い合う)
直也:(※ふと思いついたように)あ。そろそろ講義も終わりの時間じゃないすか?駅まで送っていきますよ。
美乃利:直也くんの妄想じゃん。
直也:ま、そうっすねー。夢ですねー。駄目ですか?
美乃利:(※軽く笑って)いいよ。
直也:やった。
●数日経過●
●ライブハウス●
美乃利:お疲れ。来たよ。
直也:美乃利センパイ。
美乃利:……楽しみにしてるね。
直也:はい。見ててくださいね!
美乃利:…ふふっ。
直也:なんすか?
美乃利:いや?いつも気だるげなのに、ライブの時は覇気があるよなって。
直也:いやー、まあ?これくらいしか特技無いんでね。
美乃利:いいことだと思うよ。
直也:今日の私服可愛いすね、センパイ。
美乃利:調子乗んな。
直也:う。すみません(笑)
美乃利:しっかし、なかなか大きな箱だね。(※ライブハウスの意)
直也:そーなんすよ。俺もここまで大きい箱でやるのは初めてで。
美乃利:緊張してる?
直也:えっと……いい緊張感っすね。(※緊張してる)
美乃利:緊張してるんだ(笑)
直也:し、してないっすよ?
美乃利:ふふ。頑張れ頑張れ。
直也:はい!
直也:(呼ばれて)……あ、俺ちょっと行くっすね。
美乃利:うん。行ってらっしゃい。
直也:それじゃあ、また後で。
美乃利:うん。また後で。
(間)
美乃利:(※独り言)さーて。どれ程のものかな……。
(人にぶつかる美乃利)
美乃利:あっ。すみません。
美乃利:……って、え……?あ、ああ……お久しぶり、です。こっち帰ってきてたんですね、ハハ……。彼女さんも、一緒に。いいですね。
美乃利:……え?私、ですか?あー。一人なんですけど。直也くん、えっと、播磨くんが出るんで。……その、チケット貰って……はい。後輩の勇姿をね、アハハ……。
美乃利:……あ、彼女さんもバンド好きなんですね。いいですね、二人でライブって。ははは……
美乃利:あ。そろそろ始まりますかね。楽しみだなー。あははは……
●ライブ終演後●
●ライブハウスのすぐ外、中の賑わいは聞こえている●
美乃利:びっくりしたよ。まさか直也くんが歌うなんて。
直也:へへっ。良かったっすか?
美乃利:ギター馬鹿の癖に。
直也:ま、それは否めないっす。
美乃利:あの曲の歌詞、もう一回聞かせてよ。
直也:えー。どうしよっかなあー。
美乃利:チケット代払うから。
直也:そんなに聞きたいっすか?恥ずかしいんだけどなあー……。
美乃利:お願いします。
直也:……分かりました。
●直也、歌詞を口ずさむ(※朗読調でも、オリジナルでメロディーをつけて頂いても構いません)●
直也:『君の苦しみは 僕も分かるから だから一緒に苦しんでいこう
大丈夫 大丈夫 僕が傍に居る ずっと君の傍に居る 離れないから
例え君が 僕を見てくれなくても それでもいい
君から離れて 幸せになるくらいなら 君と一緒に苦しみたい』
美乃利:(拍手)
直也:あー、こんな感じっすかね…。これ、本当にもう一回聞きたかったんすか?センパイ。
美乃利:うん。もう一回聞きたかった。直也くんの作詞、キザだよね。
直也:うるさいなーもう。だから恥ずかしいって言ったじゃないっすかぁ。
美乃利:誰に向けての歌詞?
直也:……分かってて聞いてます?もちろん美乃利センパイに向けてっすけど……。
美乃利:そっか。
直也:迷惑って言いたいんすか?
美乃利:ううん。嬉しかったよ。
直也:ハァ……。悪い女っすね……。谷口先輩のことが好きな癖に。
美乃利:あ。そのことなんだけどさ、さっき会ったよ。私。
直也:え?
美乃利:谷口先輩と会った。
直也:まじすか……。いや、でもまあOBの先輩のバンドも居たし、あり得ない話では無いのか……。
美乃利:うん。すっごい綺麗で可愛い彼女さん連れて、来てた。
直也:……くっそ、あいつめ。
美乃利:それでね、ちょっとだけど話した。谷口先輩と、その彼女さんと。
直也:……良かったっすね。
美乃利:うん。まあね。
直也:……はーーーー。(※長めのため息)
美乃利:でもさ、そしたらさ、どうでも良くなっちゃった。
直也:え?どうでも良いって…
美乃利:うん。それまでモヤモヤしてたものが、スンッて無くなって、綺麗な気持ちになったの。
直也:……。
美乃利:なんかね、二人ともとってもお似合いで、本当に楽しそうでね。そしたらさ、今までごちゃごちゃと考えてたこと、全部もういいやって。そう思った時に、直也くんの歌が頭に入ってきて。
美乃利:……ねえ、あの曲さ、アコースティックカバーしてみてもいい?
直也:え。それって、
(間)
美乃利:谷口先輩のことを好きじゃなくなった私は、嫌いかな?直也くん。
(間)
直也:いや、そんなことは……というか!展開が急過ぎて着いて行けないすけど。
美乃利:急でも何でもないよ?私は確かに直也くんに惹かれ始めてた。ずっと叶わない片想いだと思い込んで妄想し続けてたのは、君の方だよ、直也くん。
直也:美乃利さん……
(間)
美乃利:私の事、好き?直也くん。
直也:はい。好きです。
美乃利:傍に居てくれる?
直也:はい。傍に居ます。
美乃利:アメリカ連れてってくれるの?
直也:それはっ…
美乃利:まだ「ちゃんと」しなきゃ駄目って言う?
直也:……言いません。
(間)
美乃利:うん。それじゃあ、一緒に居てみよっか。
(間)
美乃利:(M)「恋愛はいつ始まるか分からない」とよく言うけれど、終わりも、いつ終わるか分からない。
美乃利:(M)燻ぶった火が消えたその時。人はきっと、新しい恋へと踏み出せるのだろう。
●END●
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