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TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.

Intro.


僕が愛してやまない洋服のブランドについて。
なぜ愛してやまないのか。

TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.は、
孤高のデザイナー、宮下貴裕氏が2009年のNumber(N)ine解散から一年間の沈黙を経て2010年より手掛けるブランド。

ブランド名の"Soloist"
辞典で引くと次の通り。
「独奏家,ソリスト」
また、ブランドアナウンスでは、
「ブランド名にある“TheSoloIst.”とは、洋服に携わる各個人が“独奏家”として孤高の精神を持ち合わせて欲しいというデザイナー宮下貴裕の願いであり、また再び洋服の世界へ戻ってきたという自分への不退転の決意の表れ。」
となっている。一体どういうことか。
僕のSoloistを巡る体験とそれに基づいた解釈。


His words.

まずは、彼の言葉から。
以下は彼のインタビューの一部抜粋(僕の印象深いもの)。
少し長いかもしれない。しかしながら、それを読むだけでも彼の洋服への熱量が半端なものではなく、その熱量が作り出す洋服がファンをカルト的に夢中にさせている、ということを少しでもお分かりいただけるのではないだろうかと思うので、是非読んで欲しい。

僕が思うのは、全員が "ソロイスト" なんです。お客さんも、卸先の方も、工場も生地屋さんも、付属屋さんも、僕も、僕のスタッフも全員がそう。それで何か出来上がればいいと思っています。何かのアイコンになるのはもうまっぴら。プライベートをさらけ出すだけ。僕はただ洋服が作りたいだけです。
[インタビュー] デザイナー宮下貴裕が語る "ソロイスト"
メンズの紳士服が、僕には全部同じに見えてしまうときがあって。ネイビーのブレザーを着て、グレーのパンツを履いて。どうして洋服のそんなに狭いところしか見ないのかな。僕がやりたいのは、Undercoverの盾くんがやっているような、振り幅と、視野を広げること。洋服というのは、とてもカラフルなもので、すごく夢がある。ひとりでも多くのファッションに携わる人の視野を、広角のレンズにしてあげたい。ベルリンの壁じゃないけど、その壁を取りたい。トランプみたいに壁をつくるようなことをしてるヤツもいる。まあ、これはあまり言っちゃいけないね。でも、その必要の無い壁は、僕は取りたいと思ってる。僕の服はメンズかもしれないけど、女性にも着てもらいたい。僕には別に、女性も男性も性別も関係ないし。もし服で、そういうことを伝えられるんだったら、そういうくだらないルールは、一つ一つなくしたい。
宮下貴裕が作る烏羽色の世界
ティファニー・ゴドイがメディア嫌いのTAKAHIROMIYASHITA TheSoloist.デザイナーと語り合う

彼の意図するところ、『全員が"ソロイスト"なんです。』
彼のクリエイトする洋服を身に纏うに当たって、僕が最も感じるところ、
というのは、彼の洋服に対する熱量と同等、あるいはそれ以上の熱量を持ってその洋服に向き合わなければ、自分自身が洋服に負けてしまう(!)ということだ。
実のところ、僕は今、適応障害という精神の病気により、仕事を休んでいる。
そんな折、今まで着ることが楽しみで楽しみで仕方がないというそんな同ブランドの洋服をまるで着ることができない(着る気が起きない)のだ(デニムやTシャツなんかは着たりすることもあるが。)(!)
これが、僕のいう洋服に負ける、である。

『たかが、洋服でしょう?』と思われる方もいるかもしれない。
そこで、彼が洋服を通じて変えようとする世界が立ちはだかっていることを述べなくてはならない。
それは、『僕の服はメンズかもしれないけど、女性にも着てもらいたい。僕には別に、女性も男性も性別も関係ないし。もし服で、そういうことを伝えられるんだったら、そういうくだらないルールは、一つ一つなくしたい。』というものだ。
これは、既存概念を破壊(洋服ってこうだよねにとどまらず、彼は男女の壁をも破壊しようと試みている。)しようとするものだ。それも、洋服を通じて。
既存概念を破壊するということに必要なエネルギーがどれだけ莫大なものになるか、については、容易に想像がつくと思う。
それが、そのエネルギーが洋服の1着1着に詰まっている。
そして、それを身に纏う。
当然、エネルギーが必要になってくる。
僕が『着ることができない』というのは、そういうことだ。

そんな洋服ってどんな洋服?と思って頂けたら幸いである。


His Creation.

彼の作る洋服の一例(僕が特に好きなCollectionから抜粋)。

2019AW ”1ONE MY WAY"
2021 ”RE” 
2022SS ”PAUSE≒PLAY”

どれもこれも、『これ、どうなってんの?』『こんなの街で着られない』と思ってしまうようなデザインの洋服ばかりである。
しかも、ジャケットで20~30万円(か、それ以上)、パンツで5~20万円(!)という、ひるんでしまうような金額のものが多くラインナップしている。
実際に店舗でふと入ってきたお客さんが、値札を見てそそくさと去っていく場面を僕は何度も見ている(2022年現在は東京都内の直営店は青山店1店舗のみだが、以前は新宿伊勢丹や渋谷パルコにも直営店があり、同ブランド目的ではないお客さんの来店も多かった。)。

でもなぜ、僕はこのブランドに魅了され、大枚をはたいてでも手に入れ、着たいと思うのか。
それは、デザイナー宮下貴裕の洋服への熱量に魅せられ、共感しているからに他ならない。
僕が感じる宮下貴裕の人物像は、繊細であり、生きることへの執着が強いということ。
彼が今までの集大成と位置付けたという話の2019AWCollectionなんかは分かりやすく、背中にでかでかと”I live now.”と刺繡が施されていたりする。
他にも、”モード”と呼ばれる服、もっと広義に”街着”としても、オーバースペック(やりすぎ)だろうなんて作りこみがされていたりもする。
例えば、”Primaroft”という米軍が採用する中綿(ダウンの8倍の保温性がある)をジャケット(しかもテーラードジャケットだ。)の中綿に採用していたり、”Outlast”というNASAが開発した宇宙服に使われている素材をパンツやコーチジャケットに取り入れたりしている。
どちらの素材も、アウトドアブランドあたりではその機能性から採用するブランドもあるが、いわゆるモードでは馴染みのない(少なくとも僕は)素材だ。
ここで出てきたキーワードを振り返る。
”I live now.”、米軍、宇宙服…
そう、軍人も宇宙飛行士も死と隣り合わせの世界(戦争、真っ暗な宇宙)を今(now)生きている(live)。

そして、withコロナ。

コロナ禍は彼にとって人格形成にまで影響するような大きな出来事だったという。
そのコロナ禍の中で発表された2021、2022シーズン。
ファッション業界としてもランウェイが行われず、それぞれのブランドがファッションウィークに合わせて、映像という形でクリエイションを発表する時代。
彼はコロナ禍によって人格を壊されながらも、前を向いていた。生きている。そう感じさせてくれるクリエイション。
それのみならず、同氏もまた、映像作品や音楽という新たなジャンルに意欲的に取り組み、コレクションを発表した。

同ブランドの映像作品はこちらから観られるので、ぜひ観てほしい。
本当にエネルギッシュで力をもらえる(あるいは、熱にあてられる場合もあるかもしれない。)から。⇒Youtubeチャンネル

ディストピアをいやというほど思わせる2021SS”doe(s)”(縫製の代わりにスタッズで留てあったり、テープが張られていたり、どこか映画の”MADMAX”を思わせた。)
ディストピアから立ちあがり、既存の閉塞感を打ち破りながら前を向こう、自らを再生しようという思いが感じられる2022AW”RE"(僕はこのコレクションがとても好きで、爆買いした。ちなみに"re"は英語の接頭語で「再び」。)、一度立ち止まり、過去を見つめなおして新たな未来へ向かっていく(過去のクリエイションのリバイバルみたいのもあった。当時のパタンナーさんをもう一回呼んでパターンを引いてもらったりしたみたい、すごい。)”PAUSE≒PLAY”。
僕が壊れ始めていたこの時期(おそらく)、僕は、彼のクリエイションや彼の洋服への熱量によって”熱にうかされる”という表現がとてもぴったりな状態で、むりやりにでも生きることができた、動くことができたと感じている。
だって、どんなにつらくても、彼の作る洋服を着ることを楽しみに、在宅勤務の時なんかは家にいるのに数十万円する服を着ながら仕事をする時だってあった。
今はなかなか着るためのエネルギーが足りないけれど、僕はずっと彼がクリエイションを続ける限りTAKAHIROMIYASHITATheSoloist.の洋服をまとっていたいと思う。


Staffs.

TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.の魅力は宮下貴裕という人間の才能や洋服への熱量によるものだけではない。
それを支える、パタンナーやショップスタッフの宮下貴裕という人間へのリスペクト、彼らの洋服への熱量によってその魅力は僕たち顧客に届けられる。
彼は、話すことが得意ではないと思う(というか苦手にしか思えない。彼のInstagramのライブなんか見ててもそう思う。話さないのだ。それが彼の魅力を更なるものにしているとも同時に思う。だからディスっているわけでは決してない。)。
そんな彼の頭の中を具現化するパタンナー(とある機会にその方と話をする機会があった。彼は一流の服飾学校を卒業しているのだけれども、そこで学んだことを数週間で学びきる、あるいはそれ以上の環境だと言っていた。)、店頭で彼の頭の中を顧客に伝えるショップスタッフ。彼らがいてこそ、その魅力が成り立っているのだ。
普段接するショップスタッフは本当にすごく、僕は尊敬をしている。
なぜなら、その普段のワードローブに溶け込ませることが容易ではないであろうそのクリエイションを見事にワードローブに溶け込ませる。
彼らは顧客のライフスタイル、趣味嗜好を会話で引き出すのが本当に上手い。そして、それとクリエイションの背景や宮下貴裕の思いと上手く絡めながら、的確なアドバイスをくれるのだ。
この会話をしている時が本当に心地がいい。
僕は昔から人から洋服を買う(通販とかはあまりしない。)ことにしているのだけれども、彼らと会話をし、一緒に吟味し、自分のワードローブにそのクリエイションを迎え入れ、それがまさに自分の求めているものであるとき、それはまさに至福としか言いようがない。
是非とも、TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.の洋服を店頭で手に取ってみてほしいと切に思う。
(もっとも感じるところだが、彼のクリエイションは手にとって、着て、初めてわかるところがとても大きい。着ると最後、欲しくなってしまう。)


服従

衣食住
服は食より住まいより先に来るもの。
だって僕らの意識(気分)を1秒で変えてくれるのが衣服だもんね。
気分は服に従う。
それが「服従」
ひすいこたろうオフィシャルブログ”至福”より

今更だけど、僕のTAKAHIROMIYASHITATheSoloist.との出会いは、ひすいこたろうさんの著書。彼は宮下貴裕の洋服を着ていない日はないとそう書いていた。
それを読んで、どんな服なんだろう?着てみたい。そう思ったのが始まり。初めて買ったのは、スウェットシャツとブロードシャツ。
当時の僕には清水の舞台から飛び降りるような買い物だった(スウェットシャツもブロードのシャツもそれぞれ3万円。)。
当時の衝撃を今でも覚えている。
切りっぱなしになった切り替え、袖、裾…
でも、確かだった。
リラックスしているのに、背筋が伸びる、しゃんとする、気分が上がる、そんな服。
その出会いから9年目、これからも僕は宮下貴裕のクリエイションに服従する。

fin.

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