月曜日の図書館43 ACTION
昇任試験が迫っているので一応勉強する。採用されたときにもらったハンドブックを初めて開く。文章が下手すぎて何も読み取れない。地方行政や財務や法律やいろいろな項目があり、それぞれの章を関連する部署が執筆しているのだが、どこもまんべんなく読み取れない。担当者はきっと、小学生のころに作文の宿題をまじめにやらなかったのだな。どんなふうに書けば相手に伝わるのか、よくわかってないのだ。
まるで役所の文章のようである。
館内整理の日、複写申込書の返却はここ、の掲示をすべてとっぱらう。以前はカウンターの天井から吊るし、専用の掲示板を近くに立て、作業しているパソコンの裏側にまで案内文を貼りつけていた。返却はここ、ここ、ここ!広辞苑くらいの大きさでしかない返却箱に、図書館中の労力を結集して、一番のスポットライトを当てていたのだった。
掲示の撤去を提案したとき、みんなの反応はしぶかった。以前、返却箱の位置が分かりにくい、案内が不十分だと怒鳴り散らしたおじいさんがいたらしい。
確かに分かりやすいことは大切だけど、図書館のサービスの中で一番目立たせたいものでもないし、この掲示のせいで貸出とかレファレンスとかの案内がかすんでしまっているのは本末転倒である、と力説し、苦情がきたら元に戻すことを条件にやっと実行に移すことができた。怒鳴り散らしたおじいさんは例のハンドブックを一日読む刑に処してやりたい。
新人の子が研修に行って何日もいない。あの忌まわしきPD某サイクルとかを学ばされているのだろう。加えてわたしが新人だった頃までは、泊まりがけの研修にも行かされていた。T野さんとふたりで、いかに何も身につかない研修であったかを言い合う。わたしは雨の中でラジオ体操させられたことを思い出して怒りに打ち震えた。周りを山に囲まれた何もないところに閉じ込められ、夜遅くまでクイズ大会をさせられ、全然知らないし好きでもない人たちに向かってニコニコしつづけた。中国のネズミランドみたいな、ニセモノのアトラクションと青春を強制的に楽しまなければならなかった。
否、中国のネズミランドにはぜひ行ってみたいが、あの研修には二度と行きたくないし後輩の誰も行かせたくない。
という意見が潜在的には多かったのか、それから数年してその研修は廃止された。研修施設自体も閉鎖されたと聞く。
同じく昇任試験を受けるS村さんが、ヤマをかけた部分を教えてくれる。わたしは特に何もかけてないので教えてもらうばかりである。本気で合格するつもりのS村さんは、休みの日も出勤して勉強会に参加している。わたしは分からなさすぎて何も書けないと暇なので、教えてもらったとこだけでも勉強することにする。数年前に受験したときは江戸時代にあった有名な本屋さんのことを「電子書籍のサービスを請け負う会社のこと」と回答したことをみんなに話して大いに笑われて事務室が明るくなってよかった。
某サイクルを適応して解決できることは、実はとても少ない。なぜなら「解決したい」と思っていることの中には、わずかながら「解決しないほうがいい」部分も含まれているからだ。この世界の歯車は、仕事ができない人や、いつも遅刻する人や、更なる成長に関心のない人をも巻き込んで回っている。それらを根こそぎ取り除いてしまうと、壊れてしまうものだってあるのだ。
後日出勤した新人の子に、試験がんばってください!ときらきらした目で言われる。わたしが万が一昇任したら、すぐにでもハンドブックを改訂して、今度は小学生のときに作文をちゃんとやった人たちに執筆をおねがいする。
Dに「その顔はどうかと思う」と言われた顔写真つきの職員証を、今度も試験中は机に置いておかなければならない。緊張してこれ以上ないほど顔がふくれている(?)上に髪型も全然違っている写真を見て、試験官がどんな反応を示すのかが楽しみである。
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