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すれちがい

毎日、同じような時間の電車に乗って通勤していると、車内の顔ぶれや、歩いているとすれ違う人が、なんとなく分かってくる。

僕は人の顔を覚えるのが苦手なので、何度も何度も見かけてようやく記憶に残るのだが、たいてい、いつも同じ場所ですれ違う人たちがいて、いつも背中を見ながら同じ方向に歩く人がいる。

あの人はどんな仕事をしているのだろう、どこに向かっているのだろう、きみは保育園楽しそうだね、など心の中で挨拶をして問いかけをしている。

すれ違う人は、目の前に現れてから数秒で視界からいなくなるので、観察というほどの時間はないが、表情が時折違っていることがある。

徒歩ルートの後半で、自転車に乗った若い男性とすれ違う。いつも黒いスーツを着て、やや険しそうな表情でペダルを漕いでいる。スマホを耳に寄せているときもあるが、表情は硬い。

しかし、あるとき、いつものすれ違いポイントで見た彼は、とてもにこやかで晴々としていた。もはや100回近くすれ違っているはずの彼の表情がこれほどまでに明るかったことが珍しく、失礼ながら、ぐっと見入ってしまった。

いったいなぜ?

という疑問はすぐに霧消した。彼の隣には、自転車に乗った、彼と同年代くらいの女性がいたからだった。

同棲していたり結婚していたりすれば、出勤時間に一緒に出かけることもあるだろうし、きっとそんな場面だったのではないかと思う。

ちなみに僕たち夫婦は、通勤するための路線が違っていて、住んでいた部屋はその駅同士の間にあったので、一緒に駅に向かうことはなかった。

すれ違う人の表情や顔を見てしまうのもそうだが、僕が人知れず楽しんでいるのは、すれ違う人たちの会話の一端が聞こえる瞬間である。

いったい何を話していたのだろう、という言葉や、その人は誰だろう、なんて思う人名やあだ名などが漏れ聞こえてくる。

ほんの一瞬、彼らの人生に首を突っ込んだ感じが、なんとなく楽しい。想像しても答えは出ないし、顔を覚えてもあいさつを交わすわけでもないが、すれ違う一瞬が好きなのだ。


#雑談 #通勤 #すれちがい #顔

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