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栗を買う店

赤いネット袋に詰まったあの子たちが並ぶのは、秋の深まりを感じ始めるころ。毎年、近所の八百屋には、ツヤツヤと光る茨城県産3Lサイズの利平栗が並んでいました。

たった1キロでも、栗仕事は手間がかかります。胡桃(くるみ)ほど硬くはないけれど、落花生みたいに柔らかくもない、剥きにくい皮をもつ栗との格闘は、いつも苦戦しています。勝負を終えて、そっと栗に、いや口にすると、ほの甘くて、やわらかな香りが広がっていきます。そんなとき、栗を世界で初めて食べた人に、感謝せずにはいられないのです。

いまでは、自分で剥かなくても美味しい栗が食べられるようになりました。甘栗を剥いた商品の大ヒットもありました。いつの間にか、“和栗”や“マロン”などと呼び分けられ区別されています。世界的に見て、日本人が最も栗を愛しているという説もあります。ひとりの栗好きとしては、そんな変化に驚きつつ、とても嬉しい気持ちになるのです。外見は頑固だけれど、中身はやわらかで優しい。それは、どこか日本人に通じるような存在だと思うのです。

今年も、その店に並んでいたのを見かけて、週末に買いたかったのですが、それは叶わなくなりました。ある日、突然店じまいをしてしまったのです。

社会や地域の変化は、仕方のないことですが、私だけではなく家族や地域の生活を支えていたお店が無くなることは、とても残念でなりません。野菜や果物も、新鮮で美味しくて、買うのが楽しいお店でした。秋の楽しみのひとつだった、ツヤツヤの大きな栗は、ほかのどの店でも見つかりません。ほんとうに、ありがとうございました。

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熊木産業株式会社主催
「栗屋大賞 栗のエッセイ部門」応募作品

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