見出し画像

名峰・バウンサー

言葉も話せない(話しているけど、聞き取れない)、立って歩くこともできないのに、赤ちゃんから子どもへと成長しようと挑戦を続けている君へ。

ある日気がついたら、数日前まで頻繁に寝かせていたバウンサーに、よじ登ろうとしている君を見つけた。

ハイハイも上手になってきて、”歩き”のハイハイと”走る”ようなハイハイも身に付けて、意気揚々と動き回っているころだ。危ない・・と駆け寄って、身体を持ち上げると、「ううーん」と抗議の声をあげる君。

数日後、バウンサーへの登頂を果たす日がやってきた。少し前まで、寝かせると満足気に脱力していたバウンサーの上にハイハイでよじ登ると、景色がまったく違うことに驚いているようだった。

もしかしたら、使っている時にはバウンサーそのものを見られていなかったから、観察しているのかも知れない。

問題は、そのあとだ。

降りられない、どうしたら下がれるの?という顔をして、こちらを見つめてくる。そのとき僕は、赤ちゃんが「怖い」と感じているのか疑問に思った。

だんだんと表情が崩れてきて、泣き出した。

自分のやりたいことが出来なくて泣いているのか、怖くて泣いているのか・・よく分からなかった。身体を持ち上げても、泣き止まなかった。

また数日経って、君はバウンサーに挑んでいた。よじよじと上り詰め、うつ伏せだけれどスポッと収まる場所に着いた。

視線は、こちらに向かなかった。

君は今登ってきたバウンサーの麓を見据え、恐る恐る身体の向きを変えようとしていた。手と足も少しづつ動かして、ぐ、る、り、と音が出そうなほどゆっくりと回転しながら。

体重で少し滑り落ち、あっ!と思ったのも束の間、ちょうど伸びていた足がバウンサーの麓の樹脂の硬い部分に着いた。残った手で、ゆっくりと身体を繰りながら降りてゆく。足がついて、また、うつ伏せに戻りながら手が地面に着いた。

安堵と驚きの入り混じった表情をしながら、君はバウンサーからの下山を果たした。きっと僕も同じ顔をしていただろう。似てると言われることが多いから。

偶然とはいえ、すごくかっこよかった。雪山の斜面を滑り降りてきて、目の前でシュッと止まるような、そんな風景だった。

気を良くした君は、それから何度も繰り返した。

バウンサーは、寝るときの場所から、初めての高低感のある遊具になった。ときどき寝ている。

バウンサーだけじゃない、テーブルや椅子につかまって立っている姿勢も、くの字からいつの間にかスッと背中に書いてあるようにきれいな体幹になっている。

でも、ときどきトスンと尻もちをついて泣き出すのもかわいい。

赤ちゃんから子どもになろうとしている君が、とても眩しいんだ。

あんまり急いで大きくならなくていいんだよ。


#挑戦している君へ #赤ちゃん #バウンサー #応援

最後まで読んでいただき、ありがとうございました! サポートは、子どもたちのおやつ代に充てます。 創作大賞2024への応募作品はこちらから!なにとぞ! https://note.com/monbon/n/n6c2960e1d348