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猿よ来い #書もつ

本を読むと、自分の言葉ができる、そう言って読書を勧めていた俳優さんはどなただったか。セリフで役柄を表現する俳優さんなのに、自分の言葉を作っていくことを勧めた姿勢に、僕は少し不思議に思った記憶があります。

小説を読むと、現実世界と違うことを確認して安心したり、いっとき不安や心配事から解放されたりします。特に、この時期の満員電車は乗るだけでもストレスフルなのに、咳でもしようものなら・・緊張しますね。

僕は、通勤の電車で本を読む時には、文庫本を持っていることがほとんどですが、しおりを挟むことはあまりありません。しおりが邪魔になってしまうのと、しおりから読み始めると、それまでのストーリーを思い出せなくなってしまうからです。

なので、大体の位置から読み直します。覚えていない時には、だいぶ前まで戻ってしまうこともありそうです(確認ができない)。読んでいて、この辺読んだ・・と気づけば飛ばしていきます。すると、大まかに思い出せるし、ここで電車降りたんだ・・と気がついたりします。

長くなりましたが、そういう読み方だとなかなか進みにくくなってしまう作家さんもいるような気がしていて・・その一人がこの方なのです。


SOSの猿
伊坂幸太郎

伊坂ワールド、という世界観があるのだとすると、それは色々な作品にある読み手のすむ世界との”身近”さと、それと正反対の裏社会感だと思うのです。あったら嫌だよね・・と思えてしまうくらいに、ちゃんと書いてあるし、そこに生きている人もいるのは、初めて読んだときに、ハッとしました。

多くの作品で、時系列や語り手がくるくると入れ替わったりするので、章ごとに短編を読んでいるような作品も多くありましたが、この作品はその印象がとても強かったのです。

僕の場合、しおりなしで挑むと、どこを読んでいたのかわからなくなってしまうのです。読み直すと、あれ?こんな話読んだっけってなるのが、ストレスでもあり、一気に読めた時にスーッとわだかまりが消えていくのか気持ちよかったりして。

この作家さんの作品の多くは、読んでいるとなんだか論文のような物語だなと思うのです。仮説があって、それを登場人物の振る舞いによって論証していき、最後に収斂するような気持ちよさがあって、読み始めると「なんだろう?」ってなるのに、終盤には「そういうことか!」と納得する物語。

この作品は2つの物語が変わるがわる現れて、そこに西遊記も絡んできて、読み手が忙しくしているところに、すっと猿が現れて物語がまとまっていく感じが、とても気持ちよかったなぁと思います。

設定はとても不安感がありますが、きっと大丈夫なのだろう・・と読み進めることができました。現実社会でも、きっと猿のように意外なものが現れて、視点が変わったり、状況が変化したりするのかも知れません。

この作家さんの作品は、作品同士も呼応していたり、共通の人物が現れたりして、読む人を引き込む速度が、とても速いと感じます。一度読み出すと、他の作品も気になってしまう・・そんな中毒性のある危険な物語(笑)。

しばらくこの作家の作品を読んでいなかったこともあり、またワールドにハマる日々がやってきそうです。


サムネイルはinfocusさんに作成してもらいました。ありがとうございます!京劇の西遊記・・北京に旅行した時に観たのを思い出しました。ぜんぜん何言ってるか分からなかった(笑)黄色い背景は、バナナ・・雪の上をツルッとしないように、気をつけて歩きましょう。

#推薦図書 #猿  

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