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あれが売れたら #毎週ショートショートnote

「わたし、このマスカラで最後にします。最後のマスカラが売れたら、この店を辞めます!」

いつも私に力をくれたこの店。大きくもない目を開いて、走ってきたけれど、そろそろ違う道でもいいんじゃない、そんなふうに感じたのは1ヶ月前。その想いは大きくなって、止められなくなって。

営業時間が終わり、薄暗くなったフロアには、ほとんど人がいなかった。

「マスカラなんて滅多に売れないじゃないか。まだまだこの店にいてくれよ。リピーターだって、千手観音の指の数くらいいるんじゃないのか。」

独特の表現で褒めてくれる店長。確かにマスカラは売れない。新作が入っても、1週間にひとつ売れるかどうか。

最後のマスカラはいつ入ってきたものだったか・・。

宣言してしまうと、急に寂しくなってくる。いつ売れてしまうのだろう、いやずっと売れないかも。

きっとベストなタイミングがあるってことだ。


翌日、マスカラは呆気なく売れた。


ターゲット層よりも少し高めの年齢だけれど、おしゃれなご婦人だった。


「なんでお前、こんなところに」

休憩から戻ってきた店長が、驚いた声を出した。



(458文字)

#毎週ショートショートnote #最後のマスカラ #激励 #きっかけ

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