あれが売れたら #毎週ショートショートnote
「わたし、このマスカラで最後にします。最後のマスカラが売れたら、この店を辞めます!」
いつも私に力をくれたこの店。大きくもない目を開いて、走ってきたけれど、そろそろ違う道でもいいんじゃない、そんなふうに感じたのは1ヶ月前。その想いは大きくなって、止められなくなって。
営業時間が終わり、薄暗くなったフロアには、ほとんど人がいなかった。
「マスカラなんて滅多に売れないじゃないか。まだまだこの店にいてくれよ。リピーターだって、千手観音の指の数くらいいるんじゃないのか。」
独特の表現で褒めてくれる店長。確かにマスカラは売れない。新作が入っても、1週間にひとつ売れるかどうか。
最後のマスカラはいつ入ってきたものだったか・・。
宣言してしまうと、急に寂しくなってくる。いつ売れてしまうのだろう、いやずっと売れないかも。
きっとベストなタイミングがあるってことだ。
翌日、マスカラは呆気なく売れた。
ターゲット層よりも少し高めの年齢だけれど、おしゃれなご婦人だった。
「なんでお前、こんなところに」
休憩から戻ってきた店長が、驚いた声を出した。
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