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旅にもつ2020・2019

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旅する日本語2020、2019のために書いたもの。初めてのショートストーリーの創作。
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#生一本

選書運

ときどき、読み始めると止まらない作品に出会うことがある。食事も、トイレも、眠るのも、きみと話すのも忘れて、ページを繰る。 季節を問わないから、いつの間にか寒くて風邪を引いてしまうこともあったし、電車を乗り過ごすことも当たり前。 現実逃避どころか、仮想現実に没入して帰ってこられない、そんな感じなんだ。 でも、同じ作家さんが書いたほかの作品を読んでみても、ニ度と同じ感情は沸いてこない。 一途に読み通す、生一本の読み手。 笑いながら、きみはちょっと難しい言葉を使った。北海

真面目

公務員とはいえ、高校を卒業して就職するのは大変だろう。モラトリアムと呼ばれる、就職準備のような遊びの時間がほとんどなかったはずだ。 目の前で、真面目にマニュアルを読み込んでいる後輩を見ていて思う。出身は富山県だが、中学生のときこちらに越してきたのだという。 わからないことは聞いて、と言った手前、日々の質問に答えていくが、数が多い。マニュアルが適当すぎるのかもしれない。 真面目な後輩は、法令集を傍らに置き、マニュアルの言葉を調べ、時には電話の応対の練習なのか、小さく呟いて