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ノーアクセサリー・ノーライフ!!

 ごくふつうの中堅大学に入り、ごくふつうの就職活動をしたら、たまたまファッション業界に入ってしまった。それが私だ。

 胸にタツノオトシゴのマークがはいったポロシャツを着るのが、最上級のおしゃれだと思っていた平凡な新卒社員。ところがそんな私が入社した会社にいたのは、服の変態たちだった。彼らは命がけで服を愛していた。

 大学と服飾専門学校をダブルスクールで卒業した筋金入りの同期や、カードローンで首が回らなくなり会社に督促電話がかかってくるのに、がんがんアルマーニを買い続ける先輩もいた。夏にはド派手なビンテージアロハとサンダル履きの社員があふれ、役員が大真面目に「アロハ着用禁止」という社内通達を出したこともある。そんなファッションモンスターたちに囲まれ、私は業界の洗礼を受けることになる。

 シーズンの数ヶ月前になると、社員はみな自社ブランドの服を買う。1ブランドのアイテムはそう多くはないから、買うものはだいたい似てくる。部署の1/3の社員が、同じスカートを持っているということも珍しくない。なのにオシャレの達人たちは、どんなアイテムも魔法のように「自分のもの」にしてしまう。同じ色、同じ形のニットを、田中さんが着るのと佐藤さんが着るのとでは、印象がまるで違うのだ。そして2人ともとてつもなく粋でカッコイイ。いったいなぜ?その秘密が知りたくて、毎朝私は彼女たちの着こなしをストーカーのように眺めたものだ。

 いきなり結論をいうと、オシャレな人は「服を着ておしまい」なんて、これっぽっちも思っちゃいない。

「服を着る」のは、言って見れば家を建てるときの基礎工事のようなものだ。肝心なのは服を着た後。

それに、どんなアクセサリー、靴、バックを合わせるか。袖は何回折ってまくるのか。エリはどのくらいたてるのか。ヘアはおろすのかアップにするのか。それは、部屋にどんなカーテンを吊るすのか、どんな家具を置くのかを考えることに似ている。そして、そういう「服プラスα」なしに、彼女たちのオシャレは決して完結することはない。

 

 巷の合コンで見かける「一枚着ればオシャレでスタイルよく見える花柄テロテロワンピース」実はあれほど、物騒なアイテムはない。なぜって服自体がデザインされすぎているから、他に何も個性を加える余地がない。

まったく同じテロテロワンピを着た女がもう一人合コンに現れたら、それはもう戦場だ。まったく同じ服をつるんと着ただけの2人。どっちが胸が大きいかとかウェストが細いかとか、素材比較地獄へ一直線。だから「1枚着ればサマになるワンピ」は、一見、服選びに悩まず便利そうだけど、一瞬にして水着審査状態に巻き込まれる危険をはらんだデンジャラスワンピでもあるってこと。

 オシャレの達人たちが、いつの時代もベーシックにこだわるのは、「加える余白」があるからなんだろう。服を着たら、自分なりの何か、リングでもブレスレットでも、何か1つでいいから足してみて。
「ノーアクセサリー、ノーライフ!!」それが平凡からオシャレに続く道。

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