好きな作家さんの話

●瀬尾まいこさん

最初の出会いは中学の頃の読書感想文用の課題本であった「幸福な食卓」。
私は子供の頃から本を読むのは好きだったけれど、図書館にひっそりと並べられている本を自分で見つけて読みたい人間で、目立つところにオススメと称され飾られている本はとことん読む気をなくしてしまうタイプだった。
感動するなんて言われれば言われるほどその感動は作られたものみたいに感じるし、当時はジュブナイルミステリーか魔女が出てくる本しか興味がなかったからハートフルなストーリーだなんて言われても全く心が動かなかった。先生か図書委員の人が選んだ本を無理やり読まされるのも嫌だと感じたし、しかも登場人物の名前が母と同じだったのも何だか気が引けて、読書感想文は本の裏表紙に書いてある説明を読んでなんとなく物語を想像して当たり障りない感想を提出した記憶がある。

次に出逢った「優しい音楽」という作品で私は瀬尾まいこさんの虜になった。
高校生になった私は図書館で借りるのではなく、自分で本を買うことにハマり 面白かった作品は友達や先生に薦めて貸したりするようになっていた。それで友達が読んでいた「優しい音楽」を逆に薦められて「まぁ、人に読ませるだけ読ませておいてオススメされたものは読まないっていうのもな、、」というテンションで読み始めてみたのが運命だったと思う。
登場人物に、文章のやわらかさに、物語の暖かさに衝撃を覚えた。
瀬尾まいこさんのお話のリズムがとても好きだな、と思った。物語の進み方というよりも、登場人物の性格や行動が作り出すリズムがものすごく独特な感じがして一気に引き込まれる思いがした。
瀬尾まいこさんのお話に出てくる人間は一貫してリズムが似ている。気が弱くても他人に振り回されない所だったり おかしな所を変だよって億さず言ったり多分ズレている事を堂々と、正しいと思って行動したりする所とかの事をリズムと言うのはおかしいかもしれないけど私は一番しっくりくる気がする。
「優しい音楽」は短編集で、3つのお話があって2つ目の主人公が家の時計の針を5分遅らせているところと3つ目の、彼女が知らないおじさんを拾ってくるというストーリーが大好きすぎて何度も読んで他の作品もすぐに集めるようになった。
語りだしたら全て語ってしまうので特に好きな作品のタイトルだけ並べてみると
「春、戻る」
「あと少し、もう少し」
「強運の持ち主」
「天国はまだ遠く」
「戸村飯店 青春100連発」
だめだ!多分このまま全部の作品タイトル書きそう!

という感じになってしまう。読んだふりをしていた「幸福な食卓」も改めて自分のお小遣いで買って時を越えてきちんと物語に出逢うことが出来た。
瀬尾まいこさんの作品って、どれも終わりに感動的なラストを用意していないのが心地よく感じる。最後の力を振り絞ってぶわっと燃え上がるような花火でもないし、プツンと消えてなくなる線香花火みたいな終わりでもない。じりじり燃えて溶けていくろうそくみたいだな、と どの作品を読んでもそう思う。劇的な変化なんてなく、日常の延長みたいな終わり方で、それは溶けた温もりが心に染み込んでいくみたい。
物語の終わりって大体寂しくなったりするものだけど、瀬尾まいこさんの本はじんわりと温かくなって寂しさに集中ができなくなる。
中学生の頃は作られた感動で泣いてる余裕はないと言って感動系の物語は避けていたけど、人に紡がれた物語だからこそ救われる心の部分はあったのだ。
もっとはやく読めばよかったとは思ったりもするけど、私は読むべきタイミングで小説を読める運が強いのだと感じた。

瀬尾まいこさん最新作「夜明けのすべて」を読み終えた後に瀬尾まいこさんについてものすごく文章を書きたくなった。最近自分と向き合う時間をなるべく作っていて、でも向き合う方法なんてよくわからないし自分は多分嘘つきだからほんとのことなんて自分でも気づけないんじゃないかと思って途方にくれていたけど、一冊の本を読み終えてここまで文章が書けた。私は日本語が下手だけどまぁ評論家じゃないし好き勝手に書いちゃえ!と思いながらだけど こんなに自分は思考が溢れることがあるんだ、と感動した。この間まで何も頑張れないし何がしたいのかわからなくなっていたけれどきっと少し大丈夫になる予感がする。素敵な作品に出逢えば前に進む力になるんだな、って。


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