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インタビュー全文書き起こし

◉はじめに

2021年11月にRe・rise News様のオンラインインタビューを受けました。その模様がYouTubeで公開されています。今回は、特別に許可を得てその全文書き起こしを掲載させていただきました。ぜひ動画をご覧いただけますと嬉しいです。

Q. 今現在どのような夢やビジョンをお持ちでいらっしゃいますか?

A. "こころのはたらき"を脳の言葉で理解したい

 私はずっとその脳の研究をしてきました。脳の研究を通して、やはり一番知りたいのは、「こころのはたらき」というところで、これを心理学とかではなくて、ちゃんと脳の言葉で理解したいというのがありますね。特にヒトを人間たらしめる、ヒトと動物は何が違うのか、その脳の働きの基礎の基礎のところ、基礎原理というのを知りたいと思っています。なので、ちゃんと自然科学の言葉で記述できたらいいなと思っています。

インタビューワーは、一龍飛さん

Q. それを実際に具現化する為に、どんな目標とか計画を立てていらっしゃいますか?

A. マウスの脳活動にヒントを得て、科学的な検証をおこなっています

 具体的には私は、ヒトでやっている訳じゃなくて、実はマウスを使ってやっていまして。究極的には人が知りたいんですけど、まずマウスの脳活動にヒントを得て。将来的にはヒトに応用できるような橋渡しをしていきたいなというふうに考えていますね。「トランスレーショナル」と言いますけど。でもちろん、マウスとヒトで共通した部分っていうのもあるだろうし、違うところもあると思うんですね。ただ、マウスは世界中でよく使われてますし、遺伝子を操作したりできる利点があるので利用しています。
 こういう研究ってのは今すぐ役に立つわけではなくて、このサイトの目標でもありますが、ひょっとしたら1000年後分、100年後、1000年後に1 億人とか100 万人とかいう人を救うかもしれないっていうことをやっていて、こういうのは「基礎研究」と言いますね。ちゃんと科学の言葉で語りたいので、現代生物学っていうのは、結局、再現性っていうのが重要なんですね。だから、個人の経験とか主観ではなくて、客観的な指標で誰がいつどこでやっても同じ結果が出るっていう、そういうことが重要なんですね。なのでそれを目標に、ちゃんと科学の文脈に則って、心というものを理解したいというふうな計画で研究を進めてます。

Q. 今の目標や計画に対して、現在はどのような活動指針をもって、どのような基本的な活動を、どんなふうになさってますか?

A. 研究だけでなく啓蒙も大事。コミュニケーションが重要

 研究者の仕事っていうのが、私、大学に勤めてるというのもあるんですが、研究だけではなくて「教育」もあるしそれから「啓蒙」というのも重要な仕事なんですね。なので、最新の研究結果を皆さんに分かりやすく伝えるっていうのも重要な仕事だと思ってます。
 研究者っていうと閉じこもって黙々とやってるっていう、ちょっと変わった人みたいなイメージがあると思うんですけど、実際はですね、具体的に言うと、人との関わりっていうのはすごく重要で、なので意外とコミュニケーション力が試されるんですね。
 それはまずその共同研究というのやらなきゃいけなくて。今、脳研究っていうのもすごく膨大になってるんで、昔は一つの研究室で、全部自分でできてたんですけど、得意・不得意ありますから各研究室。これは、私はできるけど、これはできない、でもやらなきゃいけないって、なったらどうするかって言うと、それができる人に共同研究を持ちかけるんですよ。そうやって、協力して一つのことに向かっていくってのをやっていて。私は、餅は餅屋とよく言ってるんですけど、得意なことは得意な人にやってもらうということですね。なので、そういう人と会うっていうのも結構重要な仕事だったりします。それが学会とかだったりするんですけど。
 あと啓蒙っていう意味では、本を書くっていうのも一つ重要な仕事ですし、セミナーをしたり、それから最近面白いなって思ってるのは、「経営と脳科学の研究部会」というのがありまして。これは、社会人セミナーみたいなものなんですが。脳科学の知見を何か、新しい経営のイノベーションに生かせないかっていうことですね。私も参加して、こういう考え方もあるのかと、なので研究者だけではなくて、そういう企業の経営者とか、いろんな人と出会ってお話しすると、またそれが次の研究のテーマに繋がったりしますので、そうやってもとにかく動き回って、人と会う。結局、研究するのも人ですからね。そういう感じでやってます。

インタビューは楽しかったです。

Q. そもそも脳の研究をやってみようと思ったきっかけとか、今の夢やビジョンを持つようになったきっかけは何だったんでしょうか?

A. 高校生の時、人生観が変わるような衝撃を受けた

 意外と遡るんですけど、高校生の頃ですね。高校の時、ボランティアクラブっていうに入ってましてで、そのイベントで同世代のいわゆる重度知的障害と診断された生徒さんと触れ合う時間がありまして、運動会に参加するってことだったんですね。初めはやはり重度知的障害なので、もう自分とは全然違うんじゃないかっていう偏見を持ってたんですけど、実際参加してみるとですね、運動会なので走るとかそういう基本的な運動とかですね勝てば嬉しいし、負ければ悔しいしっていうそういう喜怒哀楽の部分とか、お昼になったらお腹が空くし、トイレに行きたくなるしてとかって、そういうことはもう全然自分と違わないってことが分かったんです。
 今思えば当たり前なんですけど、高校生の自分からするとすごいそれが衝撃で、同時に、その偏見を持ってた自分にちょっと恥ずかしいなって思ったのもあるんですけど、でも言葉は悪いかもしれないけど、自分とその知的障害っていうのはもう本当にちょっとしか違いがないんだ、紙一重なんだって思ってですね。何が違うんだろうってすごく悩んだ。人生観とか人間観が変わるような感覚がありましたね、その時。
 それで何か違いが、何が違うんだろうっていうので、答え知りたくて、まず本を読んでそれこそ哲学とかですね。色々読んだんですけども全然答えがなくて、自分が知りたい。だけど読んでいくうちに違いがあるとしたら、脳だということは分かってきたんですね。なので答えがないんだったら、もう自分でその謎を解き明かそうと思って、これは脳の研究者になるっていう風にそこで決めたって感じですね。

Q. 実際にそこから決めて今の活動に至るまでに研究の最初に決めたところはどのくらい分かってきたっていうか達成されたんですか?

A. まだわかっていないことの方が多い

 それから20年くらい経ってますけど、意外とまだ分かってないことの方が多いですね。研究の最前線に行けば、きっと何かわかるんだろうと思って期待してたんですけど、勉強すればするほど分からないことの方が多くて、だからこそやりがいがあるんですけど。だからまだ今自分が知りたかったことの答えっていうのは、完璧には掴んでないですけど、その糸口となるようなことは少し分かり始めてきたような感じです。

Q. 高校生の時の出会い、ということをお話ししていただいたんですけれども、その出会いに至るまでの背景っていうのは何かあったんですか?

A. 自分のことを知りたいと思う気持ちが強かった

 昔から自分に興味があって、やっぱり自分というものが知りたいなっていう、自分ってどういう人間なんだろうっていうのにはみんな興味を持つと思うんですよ、一度は。中2病とかって言うのかもしれないけど。どうしてこういうこと言っちゃったんだろう、どうしてこういう考え方になるんだろうって。自分でも自分が分からないことがある。自分の体なのにだから自分の思うようにいかない。これはどういうことなんだろうっていうことですよね。そういう思いはずっとあって。だから脳の研究をしていく上で、究極の目標は、やっぱり自分のことを知るっていうことになるのかなっていうふうに思ってますね。

拙著、脳を司る「脳」をご紹介する機会をいただきました

Q. 著書『脳を司る「脳」』の中で、一番伝えたいこと、読みどころはどういうことか教えていただけますか?

A. ニューロン以外の脳の要素も重要

 これまで脳科学っていうのは、脳の中で電気を発生して信号を伝えるニューロンっていうのがわりと注目されていて、私が研究に入ってきた頃も、やっぱりニューロンが脳の中心で、ニューロンのことさえ分かれば脳が全部理解できるっていう発想だったんですね。その延長として今AIっていうのが流行っていて、結局AIもニューロンの活動を模倣してるようなアルゴリズムで動いているんですよね。
 だけど、実は私が選んだ研究室の先生がですね、ニューロン以外の細胞っていうのも重要だっていうことを研究しておりまして、それが実はグリア細胞っていうんですけど、その中でもアストロサイトっていう細胞があって。そんなこと全然知らなかったんだけど、あるいはニューロンとニューロンの隙間の空間、そこ流れてる水とかですね化学物質、そういうことをもひっくるめてちゃんて脳だっていうことを学んだ訳ですね。当時はそれは全然凄い異端のような考え方だったんですけど、私はそれすごく重要だと思ってまして。それの研究をずっとしてきた感じですね。
 この本はなので、ニューロンではなくて、ニューロン以外の要素にスポットを当てて、それが知性だとか私がずっと知りたかった、人間ならではの何か高度、高次な機能だとかを司ってるんじゃないかっていう、ニューロンよりもむしろ大事なんじゃないかっていうところですね。「こころのはたらき」とか、そういうところに重要だっていう話をまとめて書いたものですね。ただ、徐々に評価されてきていて、私がずっと信じてきたことがちょっと脚光を浴びつつあってですね、嬉しい気持ちではあるんですね。
 脳を初めて聞くって言う人にはとっても良くて、ニューロンが重要だという風に染まる前にですね、脳の中にはこんなに素敵な登場人物がいっぱいいるんだっていうのを知ってもらって、ただそれもまだまだ分かってないことばかりなのでということですね。
 だけどそういう全ての要素の相互作用でもって、時々刻々と変化する相互作用が「こころのはたらき」なんじゃないかっていう風に今、ちょっとずつ分かり始めていて、引き続きそれを何とか証明していきたいなっていう風に考えてるところですね。

Q. 最後に視聴者の皆さんにメッセージがあれば、何かお願いします。

A. 研究者の純粋な「夢」を応援して欲しい

 科学者って言うとすごく難しいこと、専門家って言うとなんとなく、理屈っぽいとか何かそういうイメージがあるかもしれないんですけど、夢があって、やっぱり一人の人間ですので、今すごい語ってきて思い出しましたけど、そういう昔からの、こういうことをやりたいという純粋な気持ちがコアにはあるので、それを是非応援していただけたら嬉しいなと思いますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

◉YouTube動画はこちらから

「人間とは何だろう」
「自分とは何だろう?」

誰もが一度は疑問を持つ究極的な問いに対して、
「脳の謎」を解明し、未知の領域への研究を続ける毛内 拡先生

研究者でありながら、人や社会とのつながりや関わりを大切にし
社会人向けの講演やセミナー等にも積極的に取り組まれていらっしゃいます。

著書「脳を司る「脳」」では、知られざる脳のはたらきについてわかりやすくまとめられており、脳科学に興味ある方には超おすすめの一冊です。

【ストーリー概要】より

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