笑顔の引き出しを開けてくれた友人のこと
写真にうつるのが苦手だ。
顔のどこに力を入れていいのか分からず、だいたいひきつったような、中途半端な笑顔で写っている。そんな自分の顔を見るのも苦痛。
でもつい最近、気づいたことがある。ある人と一緒に写っている写真では、自分でも信じられないくらい楽しそうに笑っている。とても自然な表情で。
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そのある人の名前はとんちゃん。とんちゃんはわたしにとって、ちょっと特別な友達だ。
とんちゃんと初めて会ったのは、なじみのバー。その時、彼はとんでもなくやさぐれていた。マスターに聞いた話だと、仕事もプライベートもうまくいかない。お酒を飲んでは周りの人と問題を起こし、みんなが彼から離れていく。それが本業にも影響して、仕事も「首の皮一枚でつながっている」状態だったらしい。
バーで会ったとんちゃんは、ジョークを言ったりボケたりしてみんなの笑わせようと一生懸命だった。でも。
彼の目は笑っていなかった。
悔しさ、孤独、痛み、後悔、疎外感。そして怒り。彼から感じられるのは、そういう感情。
会った時から直観的にとんちゃんと仲良くなりたいと思ったわたしは、彼に言った。
「今までどんなことがあったか知らないけど、わたし、とんちゃんとの関係は絶対に切らないから。だからお願い。わたしのことを信用してほしい」
今思うと(思わなくても)随分と偉そうなことを言ったもんだ。でも、とんちゃんはそんなわたしの言葉を信じてくれた。わたしの目の奥をぐっとのぞき込んで「うん」と頷いたのだ。
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とんちゃんはたまに電話をかけてくる。1~2か月に1回くらい。LINEやメールではなく、いつも電話だ。最初に必ず「元気にしてるん?」と聞いてくる。そのあとはだいたい「飲みにいこうや」か「どうしてるかなと思って」のどちらか(笑)。
何も予定がない時ならば、その後すぐに飲みにいくことが多い。会って、とんちゃんの話を聞く。もちろん私も話す。たまに喧嘩もする。他の人のうわさ話なんてしない。あくまでも自分のこと、自分たちのことを話す。
とんちゃんは職業柄もあるけれど、あらゆる言葉を尽くして話す。何かを取り繕ったりごまかしたりすることもなく、真面目な話でも馬鹿話でも真剣に話してるということが伝わってくるから、その言葉にはきちんと耳を傾けたいと思う。
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いま、スマートフォンのアルバムを眺めている。とんちゃんと写っているわたしは心底楽しそうだ。「わたしを信用して」とお願いした瞬間、わたしもとんちゃんのことを信用したんだ。きっと。
自分さえも知らなかった笑顔の引き出しを開けてくれた友達と出会えて、わたしは本当に幸せ者だなと思う。
とんちゃん、カメラマンになったらいいのに。今度、提案してみようかな。うーん、喧嘩になりそうだからやっぱりやめておこう。
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