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水瀬先生、ここから先は違法です 第三話





〇職員室(放課後)

菜乃花、職員室に呼び出されていた。
菜乃花「いきなり廃部だなんて……困ります」
職員室に呼び出された菜乃花、教頭先生に所属している天文部の廃部を告げられる。
教頭「困るって言われてもなあ。顧問の山木先生が休職なさってるんだから、しょうがないだろ……」
菜乃花「そ、それなら顧問を他の先生に……」
教頭「先生方はみんな手がいっぱいなんだよ。それに……こういっちゃなんだけど、他の部と違って活動も乏しいだろ?……部員の数も少ないし、この際廃部でいいんじゃないかっていう声が多くてね」
体調不良で休職された山木先生、菜乃花が所属する天文部の顧問だった。※山木先生が休職することによって、天文部の顧問も不在になってしまった。

菜乃花(私にとって天文部は、かけがえのない存在だった。先輩方が残した天文部を私の代で廃部にするなんて……いやだ)
教頭「成海も三年生で、もうすぐ引退だろ?成海が引退と同時に、廃部ということで……」
菜乃花「そんな……」
菜乃花(『先輩方の思いを受け継いだ天文部を廃部にしたくありません!』そう言いたいのに、勇気がなくて言葉が出ない)
言いたいことが言えず、口をパクパクさせる菜乃花。そんな菜乃花にため息を吐きながら冷たい視線を向ける教頭
教頭「まだなにかあるか?これは決定事項だからな」
菜乃花「……」
菜乃花(どうしよう。止めたいのに、言い返す勇気が出ない。私なんかが反論したところで、廃部が撤回されるわけないし……)
※菜乃花はあまり意見を言えない性格
自分が情けなくて顔が俯く菜乃花
俯く菜乃花の肩をグイっと引き寄せる人物※スーツ姿顔から下のカット※顔は見えないカット
水瀬「顧問なら、俺がなりましたけど?」
教頭に言い返す水瀬のカット
教頭「み、水瀬先生?!」
予想していなかった出来事に驚く菜乃花。
水瀬「天文部の顧問は俺がやるんで、廃部はなしでー」
教頭「水瀬先生、あなた、私がいくら頼み込んでも『部活動の顧問なんて死んでもやらないっす』と顧問になるのを断り続けてましたよね?」
水瀬「そうでしたっけー?」
水瀬、教頭先生に気を使うことなく、軽い口調で話す。
※顧問を担当することを頑なに拒否していた水瀬。自ら顧問に名乗り出たことに驚く教頭。目を丸くさせる。
慌てた様子で水瀬に嫌悪感のある視線を向ける教頭
教頭「いや、いきなり言われてもね?……職員会議で決まったことですから」
水瀬「わが校の教育理念はなんでしたっけ?教頭先生?」
挑発的に質問する水瀬。
教頭「……」
水瀬「『生徒の主体性を尊重する』でしたよね?……成海はどうしたい?このまま廃部になってもいいんですか?」
教頭に強気に言い返す水瀬。菜乃花に視線を落として、意見を伺う
菜乃花「そ、それは……」
菜乃花(廃部にしたくないって言ってもいいのかな?私の意見なんか言うより、教頭先生の言う通り、活動も少ない天文部は廃部の方がいいんじゃないかな……)
菜乃花、教頭先生の顔色を伺う。廃部にしたくない気持ちと、自分の意見を言っていいのか分からなくて戸惑う。
菜乃花の考えを見透かしたような表情をする水瀬。
水瀬「いいんだよ?お前の気持ちを話していいんだからな?」
水瀬先生の言葉が菜乃花の背中を押す。
ぎゅっと手のひらを握りしめる菜乃花のカット
菜乃花「あ、あの……!は、廃部にはしたくないです……!お願いします」
勇気を出して教頭に言った菜乃花
※いつも周りの人を気にして、自分の気持ちを消してしまう菜乃花だが、勇気を振り絞って自分の気持ちを言葉にした。

水瀬「……だそうなので、廃部はなしっていうことで~。まさか、教頭先生がわが校の校訓を忘れたりしませんよね?……生徒の主体性を尊重しましょう、ね?」
不敵な笑顔をする水瀬。教頭、ぐっと感じで顔を歪める※悔しそう
水瀬「菜乃花、行くぞ」
菜乃花「え、えっと、あの……」
なにか言いたげな教頭を置いて、職員室を出ていく水瀬。菜乃花、後を追いかける。


◯校内廊下(放課後・人の気配はない)

菜乃花「いっくん……水瀬先生!あ、ありがとうございました」
水瀬「俺も役に立つだろ?」
振り向いた水瀬、柔らかい笑顔を浮かべる。
菜乃花「……水瀬先生のおかげで、廃部にならなくてすみました」
菜乃花(いっくんがきてくれなかったら、私、あのまま廃部を了承してた…廃部にならなかったのは、いっくんのおかげだ)
水瀬「俺が必要になることがくるって言っただろ?」
余裕そうに微笑む水瀬
菜乃花「いっくんがいてくれたから勇気が出たよ」
水瀬「それって……」
菜乃花「え、」
水瀬「俺のことが好きって意味?」
菜乃花「な、ち、違うよ!感謝してるって意味!」
予想外の言葉に慌てる菜乃花。
菜乃花(びっくりした。突然変なこと言うから……)
慌てる菜乃花を見て「ははっ」と笑う水瀬。いたずらな笑顔
水瀬「今日、天文部の活動日誌に観測の予定書いてあったよな?」
菜乃花「…うん。山木先生が休職されたから中止になったんだけど、今日はストロベリームーンが見える日で。ストロベリームーンは年に一度しか見れなくて……。顧問がいないんじゃ無理だけどね」
菜乃花(今日はストロベリームーンを観測できる日。天文部で観測会を行う予定を組んでいた。しかし、顧問の山木先生が休職されたので、自然と中止になっちゃったんだよね)
うーんと、少し考えて込む水瀬。
水瀬「今日、見るか」
菜乃花「え、でも、山木先生いないし……」
水瀬「ばーか。俺がいるだろ?」
菜乃花「えっと、天文部の活動って夜だから、きちんと学校に許可とらないと……」
水瀬「わかってるよ?これでも俺先生だぞ?顧問だしな」
菜乃花「そっか……本当にいいの?」
水瀬「ああ」
ぱあっと顔を明るくさせる菜乃花。
菜乃花「あ、ありがとうっ!」
喜ぶ菜乃花。
菜乃花(諦めてたけど、ストロベリームーンを見られるなんて嬉しい!)

水瀬「他の部員は?」
菜乃花「えっと、天文部の活動に参加する子は二年の小坂くんと、木下さん……かな。あとは幽霊部員で……あ、私、伝えとくから……」
水瀬「……いや、いい。俺が伝えとくから」
菜乃花「そ、そう?」
水瀬「ああ。じゃあ、おばさんにちゃんと許可もらえよ?」
菜乃花「うん!」
楽しみで声が弾む菜乃花。


◯屋上(夜)

屋上のドアを開く菜乃花。
星がきれいに輝いている夜空のカット
水瀬、天体望遠鏡の隣に座って夜空を眺めている。
空を眺める水瀬の横顔のカット

綺麗な横顔の水瀬に見惚れる菜乃花
水瀬「なにやってんの?こっちきなよ」
声を掛けられ、焦った様子で水瀬の元に駆け寄る

水瀬「俺、知識ゼロだから、一から教えてな?」
菜乃花「う、うん…!」

夜空に輝く星のカット。幻想的な雰囲気
いつも以上に緊張する菜乃花。

水瀬「肉眼でも綺麗だな」

水瀬先生が見つめる先には赤みを帯びた満月がの背中の
満月のカット。
満月をヒキに、満月を見上げる水瀬と菜乃花の背中のカット


菜乃花「……き、綺麗」
水瀬「くくっ、見るの遅せぇよ、どこ見てたの?」

水瀬、肩を揺らして笑った。

菜乃花(見惚れてた……なんて言えないなあ)
菜乃花「……ほ、他の部員はまだこないのかな?」
見惚れていた事実がばれないように、焦った菜乃花は話題を変えた。

水瀬「こないよ?」
菜乃花「え?」
当たり前のように平然と言う水瀬
意味が分からず固まる菜乃花

水瀬「小坂にも木下にも伝えてない」
菜乃花「な、なんで?いっくんが伝えてくれるって……」
水瀬「あー、そんなの意図的に決まってるだろ」
菜乃花「え?」
一瞬、真顔の水瀬のカット
妖美に微笑んで言う
水瀬「菜乃花と二人っきりがいいからに決まってんじゃん」
菜乃花「……っな」
顔を真っ赤に染める菜乃花
菜乃花「そんな、教師と生徒が夜に二人きりだなんて……ばれたらいっくんが大変なことになっちゃう!」
水瀬の立場を心配する菜乃花。
帰ろうとする菜乃花の腕を、ぐっとつかむ水瀬

水瀬「やましい気持ちは一切ないから!」
考えるような顔をする水瀬
水瀬「……やましい気持ちは一切ない?……いや、あるな?」
自問自答するように、言ったことを訂正する水瀬
菜乃花「な、なにそれ。どっちなの……」
水瀬「俺は菜乃花と一緒にいたい。そして、菜乃花にストロベリームーンを見せてあげたいって思うだけ。……これもやましい気持ちになる?」
胸の奥が、きゅっとなる菜乃花。
菜乃花(ずるい。いっくんにそんなこと言われたら……)
菜乃花「……い、いっくん、私ね……!」

菜乃花が言いかけた途中で、屋上のドアのガラスから懐中電灯の明かりが光る。
菜乃花(警備員さんが見回りしてるのかな?)
懐中電灯の光だと思い、慌てないで冷静の菜乃花
対して、慌てた様子の水瀬
水瀬「やべっ、」
菜乃花「え?やばいって、なんで?」
水瀬「しっ!」
水瀬、菜乃花の腕を引っ張り、ドアから死角の場所へ移動する。
隠れる二人は距離が近い。
菜乃花(ち、ちかい……いっくんのぬくもりが……!)
水瀬の腕の中に身体がすっぽりと収まり顔を真っ赤に染める菜乃花

菜乃花「隠れる必要ないんじゃない?許可取ってるんだから……」
水瀬「取ってない」
菜乃花「へ?」
水瀬「許可取ってねぇんだよ」
菜乃花「な、なんで?それじゃあ、見つかったら大変……」
水瀬、立てた人差し指を菜乃花の唇に当てて、菜乃花の言葉を制止した。
抱きしめ合う形になる水瀬、菜乃花
菜乃花(き、きき距離が……近い。すごくドキドキする……)

水瀬と菜乃花は、向かい合って身を潜めているので、お互いの吐息を感じるほど密着している。
菜乃花(部活動の許可も取ってないし、警備員さんにこの状況を見られたら……大変なことになってしまう……!)

コツコツ……警備員の足音が大きくなる。屋上に近づいてきている。
ガチャ、屋上のドアノブが回る音が響き渡る。
菜乃花(ドアを開けられたら、天体望遠鏡は置きっぱなしだし、バレちゃう……)

夜空に輝く星空のカット
星空のヒキ絵に、菜乃花と水瀬、密着しているカット

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