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長男の吃音とそれについて想うこと

長男は吃音がある。保育園の年中あたりから、発語するときにどもるようになった。私も主人も、特には気にしていなくて、長男自身もそんなに気に留めていなかったから、家では彼がどもっても、ちゃんと発語できるまでまって彼の話を聞いていたし、どもることが悪いとか、どもらないようにしよう、ということはしなかった。家族や先生方は理解があるからそう対応できたが、保育園や、その後小学校で出会った友達はそうではなかった。長男の吃音を揶揄うお友達も増えていき、やがて担任の先生から”長男くんは吃音があるので、言葉の教室に通ってみてはいかがですか”と打診された。

言葉の教室は、我々の住む街の教育委員会が支援の一環としてやっていることで、残念ながらすべての小学校に設置されているわけではない。ところが幸運なことに、長男の通う小学校には言葉の教室があり、1週間に1度、国語の授業中に言葉の教室へ行き、言語聴覚士の先生と1対1で話し方について学ぶ。長男は、1年生の三学期から言葉の教室に通い始めた。父親が突然亡くなった時、一時的に吃音がよくでるようになったが、それをのぞけば、彼の話し方はとてもスムーズになって、吃音があったことを忘れるくらい、なめらかに発語できるようになっていった。

ところが、昨年度の後半、言葉の教室の先生が体調を崩され、しばらく言葉の教室自体がお休みになった。するとどうだろう。それまでなめらかに話していた長男から、徐々に吃音が現れるようになった。前と変わらず家庭では、彼に吃音があろうがなかろうが、彼の話にちゃんと耳を傾ける。私だけじゃなく、長女も次男もだ。吃音をからかうようなことを言った暁には、”吃音は悪いことじゃない。そんなことをいったら、吃音の人が話しにくくなる。大事なのは、吃音があっても、ちゃんと言いたいことを言えること。私たちができることは、吃音がある人が言いたいことを言えるように待つこと”と諭されるからだ。

私が望むことはただ一つ。吃音を理由に、長男が話さなくなることがないこと。それだけである。吃音があってもかまわない。でもこの広い世の中には、吃音のことを正しく理解していない人もいれば、いたずらに揶揄う人もいる。特に小学生というのは、まだ幼くて正直で、時に残酷な生き物である。吃音が強くでてきたことで、長男が学校で辛い思いをしていないか、それだけが気がかりだった。

新学年がスタートして、新しい担任と新しいクラスがはじまったこともあり、長男に単刀直入に聞いてみた。
”最近どう?話しにくいとか、そういうことない?”
”あー、吃音が最近ひどいから心配してくれてるの?”
”うん、まぁ、そうなんだけど。言葉の教室がなくなっちゃってから、ちょっと発語が難しいのかな、って感じることが増えたから”
”ま、吃音はあるけれど、大丈夫だよ。吃音を揶揄う人もいるけれど、それも大丈夫。だってさ、全校生徒500人くらいいるのに、吃音の子って10人もいないんだよ。俺、超レアキャラじゃない?英語でいうとSuper Rareだよ。俺、レアものに弱いんだよね”

なんともあっけらかんとしたものである。でも、これが彼の強さであり魅力である。

”一個心配なのはさ、宇宙いったときに吃音だと、緊急事態のときちゃんと助けを求められるかなってところ。火星でじゃがいも作る人の映画みたときにそこが心配になったんだよね。。。”
”オデッセイな、それ。原題だと、The Martianな、それ”

あらためて、吃音があることは悪いことではないこと。バイデン大統領も吃音であること。吃音があることが、宇宙飛行士になれない理由にはならないこと。でも、吃音があると、確かに緊急事態の時に大変かもしれないから、スムーズに発語できる技はいくつか身につけた方がいいかもね、と話をした。そこでふと、言葉の教室ではどのような教えがあったのか気になって長男に聞いてみた。

”言葉の教室では、ただ先生と、テーマについて話し合うだけだよ”

意外な答えだった。もっと具体的に、こうすると発語しやすいよ、とか、そういうテクニック的なことをやっているかと思っていたのに。もちろん、その対話の中に、なんらかのTipsが散りばめられているとは思うが。もし、ゆっくりじっくり彼と対話する時間をとることが、彼のスムーズな発語につながるのであれば、それは私にもできるはず。言葉の教室が再開するまでの間、今まで以上に意識して、長男との対話の時間をもとうと思う。

長男に、吃音を揶揄う人や、その話し方を馬鹿にする人は0にはならないという話をした。もちろん、そんな世の中になってはほしいけれど、まだまだ吃音に対する正しい認知は広まっていないし、子供達からしたら吃音の話し方は、からかうのに絶好のターゲットだからだ。だから、心ない意地悪な言葉に、その都度傷つかないでほしい、そのままでいいから、と。
”ママ、大丈夫だよ。俺、超レアキャラだよ。そのうちみんなが俺のことすごいって思うようになるよ!”

満面の笑みでそういう長男を、ギュッと抱きしめた。

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