庭先の彼の祖父の花と、雨降る街の私
彼は空を飛べない。
小学生のころ、何度か屋根の上から飛ぼうと試みたらしいが、飛べなかった。何度目かのチャレンジの時だ。いつものように瓦屋根の上をへっぴり腰で歩き、軒先巴に立った。軒先巴とは、屋根が斜めに下った先端のところ。屋根と空の境界線にあたる場所だ。
小学生にもなれば多少の知性はある。彼も飛べる可能性が極めて低いことは理解していた。でも、万が一にも飛ぶことができれば明日から学校でヒーローになれる。もしかしたら授業のひとつもつぶれるかもしれない。飛ぶ彼を見るために。そんな軽い気持ちで、彼はその日も軒天巴に立った。
今日こそは飛べるといいな、そう思った時だった。
「こら!」と彼の祖父の怒声が響いた。
彼が飛行挑戦に失敗するたびに着地する、庭の中でもひときわ柔らかく整備された場所。そこは祖父が花壇として使っている場所だった。1週間にわたる飛行挑戦の間、彼は徹底的に祖父を避け、怒りの矛先が飛んでこないように気を付けていた。
祖父の怒声は力強く響いた。空気は激しく震動し、そのために向こう三軒両隣の窓が何枚か割れるほどの怒声だったと彼は言う。
彼は驚き、バランスを崩し、屋根から落ちた。右肩をしたたかに打ちつけた。その日以来、彼は飛行挑戦をきっぱりとやめたという。
彼は空を飛べないのと同じように、
人の迷惑について想像を馳せることができない。
いや、自分は人に迷惑をかけても許される人間だと思っている。
ある種の女性が、エレベーターでは自分が一番最初に出ることが当然と思っているように、彼は自分が人に迷惑をかけることは自然なことであり、許されてしかるべきことだと思っている。
昨夜MOMOリーグでしまちゃんが勝利した。
MOMOリーグの詳細とか 彼がMOMOリーグにおいてチーム監督をすることになった経緯とか、しまちゃんが彼のチームのメンバー(彼はクルーと呼ぶ)であることとか、その辺の詳細は二度と話題にしたくないというわけではないけど 書き始めると長くなってしまうので 大変お手数をかけて申し訳ないのだけど 以下のnoteを読んでもらえると助かります。
予選リーグから苦しい戦いが続いてきたしまちゃんの初勝利に少し涙腺が緩むのを感じながら、私は毅然とこう言った。
「しまちゃんもあなたに迷惑をかけられていなければもっと勝てるのにね。あなたは人に迷惑をかけすぎよ。少しは成長しなさいよ。」と。自己評価がスカイツリーのように高い彼は寝耳に水、青天の霹靂と言う感じで言葉を失った。呆然とする彼をしり目に、私は深く心地よい眠りについた。
そして今朝である。
「桃太郎団子は何時くらいに食べられそう?」と彼が言った。
桃鉄が好きで、四六時中桃鉄のことを考え、MOMOリーグの監督と言うのは責任ある立場だからという謎理論で私のことを放置し続ける彼と、ちょっとは楽しい時間を共有できればと京橋のとある評判のお店で売られている桃太郎団子を一緒に食べようと持ち掛けたのは私だ。お店まで40分くらいと少し遠いけど、一緒に街を歩くという時間を楽しみ、彼の喜ぶ顔に私も喜び、その浮かれた気分でおいしい桃太郎団子を食べたいと思ったのだ。彼のSNSネタにも寄与できると思ったのだ。
なのに、彼は。
彼は冬と雨が嫌いだ。今日は2月で雨降りだ。彼は当然のように、私が一人で40分かけてお店に行き、桃太郎団子を買い、40分かけて家に帰ることを前提に私に聞いた。「桃太郎団子は何時くらいに食べられそう?」。
ひどい男だ。そう思いながら私は往復80分の道を、傘を差して歩いた。
ひとりで。
こうなれば、しまちゃんに今日も勝ってもらうしかない。しまちゃんは連戦で今日もMOMOリーグの対戦に出場するのだ。そしてしまちゃんの勝利を見届け、私はこういうのだ。
「迷惑をかけるためだけに生まれてきたような監督のいるチームなのに、いつもベストを尽くすしまちゃんって本当に立派ね」。自己評価がスカイツリーのように高い彼は寝耳に水、青天の霹靂と言う感じで言葉を失うだろう。
しまちゃんが連勝することで、彼も少しだけ成長するだろう。これはしまちゃんだけの問題ではない。彼のクルーであるうきぐもさん、けりさん、おおさん、まこちゃん、そして誰より私のためでもあるのだ。
みなさんには、ぜひ桃子の切実な思いを応援してほしい。 応援方法は以下の通りだ。
1,今日(2/22)21時から予定をあける
2,youtubeでMOMOリーグの公式チャンネルにアクセス
3,ライブ配信中の対戦を視聴
4,コメント欄を「がんばれ、しまちゃん(ワールドには茂木はない)」で埋め尽くす
以上だ。
面倒なお願いをしていること、大変心苦しいですが、ついでなのでチャンネル登録や高評価もしてもらえると、しまちゃんも喜ぶと思います。 配信はyoutubeはこちらからチェケラいただくのがスムーズです。
桃太郎団子を嬉しそうに食べる彼の横顔に、殺伐とした心が晴れやかになる自分がちょっとかわいいと思ってしまい、自己嫌悪気味の桃子より