カラオケではバラードを歌わない私
サッポロい、ち、ばん、けりいーちばん。
現在18時39分だ。6時59分の起床からまもなく12時間になろうとしている。そして、2分ほど前、彼氏が本日23回目の呪文のような言葉をとなえた。
サッポロい、ち、ばん、けりいーちばん。
サッポロ一番味噌ラーメンのテレビコマーシャルで使われていたサウンドロゴの替え歌だ。
「い、ち、ばん」のところを弾むように活舌よく、彼は歌う。彼は5歳ではない。同年代のまともな人の大半は会社で上司や部下やクライアントなどの目に晒され、折り目正しい振る舞いを心がけている年代だ。想像してほしい、そんな彼氏の呪文のような歌を何度も聞かされる女の気持ちを。
彼が歌っている「けり」とは、彼がチーム監督をしている桃鉄オンライン対戦非公式大会のチームメンバー(彼はクルーと呼ぶ)の一人である「けりさん」だ。けりさんが札幌生まれ札幌育ちで、そして今日のMOMOリーグの対戦に出場するから、朝から何度も歌っているのだ。
サッポロい、ち、ばん、けりいーちばん。
ちなみにMOMOリーグとか彼がそのMOMOリーグにおいてチーム監督をしているとか。そのあたりの詳細は、二度と話題にしたくないので、大変お手数をかけて申し訳ないのだけどこちらを読んでもらえると助かります。
けりさんは、彼と同じように桃鉄オンライン対戦を愛する界隈で、屈指の女性人気を誇っている。彼が言うには、けりさんは気づかいの細やかさやさり気なさが素晴らしいとのことだ。「おれも見習わないとな」と言うが、無理だ。亀が100m走でウサイン・ボルトの世界記録を破ることがないように、彼はけりさんのような気づかいを身につけることはない。私はとうに彼に気づかいを求めることはあきらめている。2人でカラオケに行くといつも私の3倍以上の曲を歌うような(歌は私の方がうまい、そして私も歌いたい)そんな男に気づかいを求めることなんてできない。亀が二足歩行をできないように、彼は気づかいができない。
サッポロい、ち、ばん、けりらーめん。
あ、間違えた
サッポロい、ち、ばん、けりいーちばん。
勝手に間違えてろ。
カラオケのことを考えるともやもやしてきた。たいていの場合カラオケは日々のもやもやを吹き飛ばす効能があるのに、彼とのカラオケはもやもやをエコーマックスで増幅させるばかりだ。このもやもやをどうにかして晴らしたいが、これを書き始めて15分ほどの間にさらに5回も「けりいーちばん」を歌う彼を相手にする気にはなれない。仕方ない。けりさんのXアカウントを晒す。
こんなことくらいでもやもやは晴れない。仕方ない。けりさんのラップを晒す。
チームメンバー全員の名前を出すという気づかい。素晴らしい。
こうなったら今日の対戦でけりさんにはぜひ勝ってもらいたい。彼のチームはまだ一人もその栄誉に浴していないが、MOMOリーグには勝利選手インタビューがあるらしい。けりさんならインタビュアーの進行にさり気なく気づかいし、決してマイク独占したりはしないだろう。
インタビューを聞きながら彼に言うのだ。
「こういう気づかいを見習いなさいよ、カラオケマイク独占おじさん」
みなさんにもぜひけりさんの勝利を応援してもらいたい。彼がカラオケマイク独占禁止ルールという高速道路逆走禁止のような当たり前のルールを守れる人間にする手助けをしてほしい。
けりさんが登場する対戦は本日(1/19)21時よりこちらのyoutubeチャンネルで無料放映
カラオケでは(どうせ聞いてもくれないから)バラードは歌わない桃子より
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