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現地妻に会ってきた

みなさんは「ブルーインパルス」ってご存知でしょうか?

地元のバスケチーム?違います。

「ブルーインパルス」は、航空自衛隊で唯一のアクロバット飛行専門部隊です。よく戦闘機部隊と間違えられるけど、違います。使用する機体はT-4というジェット練習機です。ちなみに、もちろんアメリカ軍にもアクロ飛行隊があって、海軍はF-18、空軍はF-16という本物の戦闘機を使用しています。「トップガン・マーヴェリック」で使用されていたのはF-18ですね。

オタクのうんちくが過ぎました。

ブルーインパルス

T-4は練習機とはいえ侮るなかれ。アクロバット飛行時の見た目もスピード感も戦闘機と遜色なく、間近でみる迫力たるや、圧倒されます。迫力もありますが、オリンピックや大きなイベントに呼ばれれば、スモークで五輪や星、ハートマークなどダイナミックかつ華麗に描けます。

先月6月の終わりには、神奈川の川崎市で展示飛行を行い、その一環で、東京の渋谷・新宿上空にもブルーインパルスが現れました。偶然見ることができたもいるかもしれません。

こうした全国各地のイベントや、空自の基地で年に一度行う航空祭で展示飛行を行い、航空自衛隊をPRするのがブルーインパルスの任務なのです。そんなブルーインパルスのパイロットに憧れる人も多く、子どもの時航空祭で見て以来ブルーに入りたくて空自に入った、なんて人も少なくなかったりします。

スタークロス


さて、ここからが本題です(やっとかい)。

数年前のことですが、そのブルーインパルスの隊員に、私の10年来の友人が選ばれたというのがことの発端です。

友達の名前を仮に「ボブ」としましょう。空自のパイロットは映画トップガンの「マーヴェリック」や「アイスマン」と同じように、隊員同士で呼び合うニックネーム…タックネームという…を公式でつけられるのです。せっかくなので、「トップガン・マーヴェリック」より、私の推しキャラ「ボブ」の名前をお借りしました。

「トップガン・マーヴェリック」で強気な女性パイロット「フェニックス」の後席に座っていたボブ
(トップガン公式Xより)


友人の「ボブ」というのが、もう本当に昔から超良い人でした。

ボブと初めて会ったのは、東京の自衛隊基地近くにあるバーです。普段は地方の空自基地で勤務するボブは当時、ちょっと長めの出張で東京にきていたのでした。自衛隊の人の中には、東京に放たれるとワルいこと(女遊びとか)企てる人がいるのですが、ボブはそういうことはまったくなく、控えめで温和で、でもノリは良くて、私を含めて男女4人くらいで仲良くなりました。

それ以来、ボブが東京に出張に来れば、みんなで集まって飲んだり、ボブが勤務する自衛隊基地がある県に旅行に行けば、基地を案内してもらったり(マニアックすぎ?)、ゆるく途切れず仲良くしていました。

そんなボブが、ブルーインパルスになると聞いた時は本当にびっくりしました。自分から立候補するタイプでもなさそうでしたし、本人も「まさか?!」って思ったそうな。

「ブルーにいる間(※)に遊びにおいで」という言葉(社交辞令ともいう)を誇張気味に真に受けて、我ら旧友グループで、宮城県は東松島市にある航空自衛隊松島基地に押しかけていった時のお話です。

(※)ブルーインパルスの任期は3年

航空自衛隊松島基地正門

事前に書類選考を通過した我々は(嘘です、名前と年齢と住所を申告しただけです)無事、松島基地の正門をくぐることを許されました。

ブルーインパルスの訓練を基地の屋上から見学させてもらい、なんというかもう、航空祭独り占め感(実際にはほかにも見学者さんがいたけど)に猛烈に感動。訓練後は一緒に写真を撮ってもらったり、基地内の売店でブルーインパルスグッズをゲットしたりと、いい年した大人が大はしゃぎしました。

この日は4機での訓練でした
なんか異常に充実して満足度の高い売店

そして夜はもちろん、居酒屋で飲みです。今回の旅のメインイベントと言っても過言ではないかもしれません。ボブはブルーインパルスパイロット行きつけの居酒屋を予約しておいてくれて、さらに名物のカワハギを取り置いてくれているという粋な計らいをみせるなど、相変わらず優しさと気遣いが神がかっていました。

カワハギ肝醤油

ほかにもめちゃくちゃ美味しい海鮮や日本酒を堪能して、店の店主に挨拶なんかされたりして、この上なく上機嫌になりながら一軒目の店を出た後、2軒目でカラオケスナックにいくことになりました。

事前に2軒目はカラオケスナックと聞いていたから、我々は、昭和歌謡曲を自主練して挑む気合いの入れようです。店に入って焼酎水割りなどを飲みながら、仲間のひとりが練習曲を歌い出した時のことでした。

知らない女が近づいてきて、当たり前のように我々のボックスに座ってきたのです。

誰?!!従業員?!

しかもなぜかボブと親し気に話しています。

ほろ酔いで上機嫌だった私は急に素面になって、カラオケそっちのけでふたりをガン見。「その女誰よ!!?」というアイビームをビリビリ送ると、ボブがやっと私に女を紹介しました。

「Aちゃん。俺とタメなの」

タメの何だよ!まさか、そういう関係ってこと?

Aちゃんって紹介された女は、ここのスナックでたまに手伝いをしているとのこと。「ちょっと〜年齢とかやめてよ」とか言いながら超ナチュラルに話しているAちゃんは、しれッと私とボブの間に座りなおすと、余裕しゃくしゃくで私に聞いてきました。

「どこから来たんですか?」

「東京です」(千葉だけど)

(聞かれてないけど)「ボブに遊びにおいでって言ってもらって、せっかくだから旅行のついでに松島基地の見学に来たんです」

もちろん旅行のついでなんて大嘘で、ボブに会いにはるばるやってきた我々です。

牽制しあう女2人。

気の良いボブはそんな2人の空気を察するわけもなくこんなことを言い出しました。

「そうだ!Aちゃんも戦闘機好きなんだよね?」

(私に向かって)「ブルーインパルスのことも詳しいから、友達になってAちゃんにいろいろ教えてもらうといいよ」

カッチーーン

あんだと?教えてもらえ?私が?この女に教えを乞うわけ?!

Aちゃんはサラッと髪をかきあげると「好きだけど全然詳しくないよー!」と言ってのけるのでした。そしてボブに向き直ると…

「今日の3rdは3区分で1.3.5だった?」

「うん!さすがAちゃん!」

「やっぱりね。後半区分変わったでしょ?」

「よくわかったね!」

無線聞いてたからわかるよ。前席ボブだった?」

「なんでわかったの?」

声聞けばわかるよ

説明します。「3rd」というのは、1日3回実施する訓練の3回目を指します。1回目が1st、2回目が2nd。そして「区分」は第1~5まであるブルーインパルス展示飛行演目のパターンです。「1.3.5」というのは、その日に使用した機体とそのポジションです。航空無線聴いてるの超マニアックだし、聴き込んで声聴いただけで誰だかわかるのはもうね……。

マジもんなんですね、Aちゃん。マジもんのブルーインパルスマニアで、完全に教え乞わなくてはいけないレベルでした。

完敗です。私はブルーの訓練内容をパッと見てわかるような通ではありません。今日の訓練がどんな訓練なのかも、ボブが説明してくれてやっとわかったレベルでした。

出会って数秒で鮮やかに「ブルーインパルス」マウントとられたわけです。

しかし、ここで引き下がるわけにはいきません。

だって私とボブは、10年来の仲です。こんな、ブルーインパルスのファンであるというだけの女に"ボブの松島の女"気取りされたら(してない)、ボブの"東京の女"自称してる(してない)私のプライドが許しません。

私は水割りをグッと飲み干すや、戦闘態勢に入りました。ここから、日本一低俗で不毛な女のマウント合戦がスタートしたのです。

「Aさん、ボブと同い年なんですか!えー全然見えない!私よりちょっと下かと思いましたー」

持ち上げてるように見せかけて、こちらのほうが若いのよと年齢マウントを仕掛けました(2、3歳しか違わないが相手は私の実年齢を知らない)

「私、航空祭とか行ってもわからないこと多くて、そういう時すぐボブに電話して聞いちゃうんですよー」

ついでに"気軽に電話できちゃう仲"をアピールしときます(実際は1回だけ航空祭終わりにたまたま電話したことがあっただけ)。

しかしAちゃんも負けていません。

「そうなんだ!あ、航空祭といえば、この前の○○の航空祭行ったんだけど、ボブと飲んだんだよね!

こ、航空祭でブルーのパイロットと飲み……(目眩)

ブルーインパルスは各地の航空祭に展開すると、そこの基地ごとに久々に会う同期や仲間がいて、飲みの席に引っ張り出すの取り合いだったりするらしいと聞いたことがあります。

それを差し置いて、一般人のAちゃんと会うなんて。やっぱこの2人できてるのか!?

……もう、なりふりかまってられるか!!


「えー!いいなあ、めっちゃ仲良しじゃないですかー!私がボブに航空祭で会ったのって…たしか一昨年だったっけ?ボブがお土産持ってきてくれて、サイン入りパンフレットとストラップくれたんだよね?あとさー、ボブが東京に出張に来てた時あったじゃん?あれ?……やだもう10年以上前!?よく3軒くらいハシゴして〆のラーメンまで食べたりしてたよねー?覚えてる?」(当然2人ではなく何人かで)
「あと、当時ボブがいた〇〇基地にも遊びに行って、仲間のパイロットたちと飲んだのも楽しかったなあ、懐かしいー!」(もちろん複数人で遊びに行った)

友人たちのカラオケをちゃんと聴いて合いの手を入れていたボブは、怒涛の如く昔話掘り返されて、仲良しアピールされて、めちゃくちゃ気持ち悪かったと思う。

「そうだ!Aちゃんせっかくだから1曲歌ってよ」

ボブはAちゃんにマイクを握らせながら「Aちゃん上手いんだよー」といろいろはぐらかして受け流しました。

「えー、恥ずかしいよー」とかなんとか言いながら、歌い出したAちゃんの歌がまた上手いのなんの。私がさっき歌った「初恋」(村下孝蔵)が霞んで消えました。

そうこうしていると夜中の12時を回り閉店時間となってしまいました。

私はAちゃんに「また会いたいねー!」(この借りは必ず返すぜ)と笑顔で言うと、Aちゃんも「東京に行く時連絡するね!」(何度でも叩きのめす)と満面の笑みを向けるのでした。

そのなり行きでLINEの交換をしたのですが、こういった展開で本当にまた連絡をとることは、まあ、ありません。きっとこのままAちゃんと二度と会うことはなく、「よろしく」のスタンプ一往復だけでLINE履歴に埋もれていくのでしょう。

私は突然幕を下ろしたマウントバトルに一抹の寂しさを感じながら、真夜中のスナックを出てホテルに帰りました。

翌朝目覚めると、なんとAちゃんからLINEが来ていました。

昨日はありがとうございました。なかなかブルーインパルスの話題で話せる友達がいないので、たのしかったです。実は東京にはちょくちょく行くので、よかったらまた飲みましょう♪

Aちゃん……大人。そしてもしや良い人ー!?

殴り合ったヤンキー同士が喧嘩の後に仲良くなる、めいた友情(?)の始まりの予感がしました。

それから数カ月後、Aちゃんは本当に東京にきて、本当に2人で飲むことになったのでした。改めて2人で会ってみるとAちゃんはめちゃくちゃ話しやすく、気が合うのです。

「それで、ボブとは本当にただの友達なのw?」

「友達友達!しかも数年に一回会うか会わないかくらいの飲み仲間だよ!Aちゃんは何もないのw?」

「あるわけないじゃん!そういうのない人だから友達になってるんだよ」

「ワカルーー!」(合唱)

"第二婦人と第三婦人は仲が良い"に似た図式にもなっています(第二は私だけどな!)。

「私実は人見知りで、なかなか自分から友達作らないんだけど、なんかカヌレちゃんは気が合う気がしたんだ!」

「私もだよ!自分からはLINE交換しない、人見知りのB型女なの」

「え!私もB型。やっぱB同士って合うよね」

「ワカルーー!」(合唱)

……

「そういえば、ボブもB型だよね?あれ?知らなかった?

                完