映画「メリー・ポピンズ リターンズ」感想 ~銀行家の悲しみはどこへ~
※ネタバレがありますので、ご注意ください。
1.あの名作の続編、その私的な思い出
あの名作の続編が2018年に登場するとは思わなかった。
オリジナルのディズニー映画「メリー・ポピンズ」は、私にとって特別に思い入れの強い映画だ。
初めて見たのは中学1年生のとき。
その頃の私は「勉強を完璧にしなければならない、そして良い人をやらねばならない」という強迫観念に取りつかれ、精神的に参っていた。成績は良かったが、無理に優等生ぶっていたので、徐々に小学生時代の友達も離れていき、孤立していた。冬休み明けに登校すると、急に全員から無視された体験はトラウマものだ。いま思えば、イジメなのだが、当時は本人はそうは思っていなかった。
そんなとき、私の心の支えになったもののひとつが、映画「メリー・ポピンズ」だった。
「スプーンいっぱいの砂糖」「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」「チムチムチェリー」「英国の銀行」「凧をあげろ」などの名曲、そのファンタジーの世界。ジュリー・アンドリュース、ディック・ヴァン・ダイクの名演。私はこの映画でこの俳優ふたりのファンになった。
なかでも、私がこれを特に好きになったのは、そのメッセージ性だ。私がこの映画から受け取ったメッセージはこういうものだった。
「真面目にかっちり銀行家のように働かなくても、人生に失敗しても、世界は楽しい」
私はこの映画でどのくらい気が楽になっただろう。学校生活や過度な勉強でぼろぼろになっていた私は、英国風の山高帽も破れ、文字通り破れかぶれになったバンクス氏が晴れやかな顔で、「凧よ高く上がれ!」と歌う姿に、共感した。この映画を見たあとは、学校や勉強とかどうでもいいじゃん!という思いで明るくなれた。
私にとってはこの映画の主人公は、メリーポピンズでも子供たちでもなく、銀行家バンクス氏だった。
2.原作「メリー・ポピンズ」に隠された思い
もう少し前作「メリー・ポピンズ」の話をさせてほしい。
「メリー・ポピンズ」には原作がある。「風にのってきたメアリーポピンズ」と日本というタイトルで出版されており、パメラ・トラバースというオーストラリア生まれのイギリスの女流作家による児童文学だ。
この原作者とウォルト・ディズニーの話は、映画「ウォルトディズニーの約束」という映画にもなっているが、「メリーポピンズ」には彼女自身の人生が色濃く反映されている。
彼女の父親は、銀行員だった。オーストラリア合資銀行という銀行の職員で支店長まで務めたが、アルコール依存症になり仕事もうまくいかず、ぼろぼろになり、退職。その後、結核により若くして亡くなった。彼女が7才のときだったという。その後、母が悲嘆のあまり川に飛び込み自殺未遂を起こしたりなどして、一家は大叔母のものに身を寄せたというから、本当に悲惨な運命という他ない。
「メリー・ポピンズ」という作品には、アルコール依存症になってしまった銀行家の父への思いーー銀行家としては失敗しても、明るく生きていられれば、父も死ななかったのではないか?ーーが反映されている。
このあたりの話は、町山智浩氏が語った下記YouTubeに詳しい。
私は、上記を踏まえて、今作に挑んだ。
3.今作「メリー・ポピンズ リターンズ」の良いところ
前段が長くなりすぎたが、今作「メリー・ポピンズ リターンズ」はどうだったか。
まず良かったところ。
主演のエミリー・ブラントが、とにかく素晴らしい。ジュリー・アンドリュースという前任者がいる難しい環境で、現代のメリーポピンズ役としては本当に最高だった。
また、CGの進化により、夢のようなシーンは前作と比較して圧倒的に美しく、楽しい。バスタブへの飛び込みシーンなど、最高の幻想を楽しめる。
4.今作「メリー・ポピンズ リターンズ」の問題点(と私が思ったところ)
次に問題点(と私が思ったところ)。
ひとつは音楽のキャッチーさがやはり前作に劣る。前作の素晴らしいナンバーに匹敵するようなキャッチ―な曲は、残念ながらなかったように思った。ただ、これは何度か見て、思い入れが出てくればまた違うのかもしれない。
そして、もっとも気に入らなかったのは、コリンファース演じる銀行家が解雇後、彼の風船だけ飛ばなかったこと、だ。
メリーポピンズ好きの私には、ラスト解雇されたあとの彼の姿は「悪者」には見えず、むしろ前作で取付騒ぎで解雇されたあとの銀行員バンクスの姿そのものにしか見えなかったからだ。
彼の風船こそ、楽しげに空を舞って欲しかった…
前作では銀行家たちも最後は和解して、あんなに楽しそうに凧をあげてたじゃないか…
先に書いた通り、原作のパメラ・トラヴァースの父親、銀行家で支店長まで勤めたがアル中の末に死亡した父親が、この作品に反映されていることを考えれば、コリン・ファース演じる銀行家に対して、あんな仕打ちは出来ないと思うのだが。。。
そういう意味では、前作のファンとしては非常に重要なポイントで、腑に落ちない点の若干残る続編だった。
エミリー・ブラントが好きなら。(★★★☆☆)