大人になるということ

いつからだっただろう。
夢を見るようになったのは。

美味しいケーキ屋さんの甘い香りを感じながら、ケーキ屋さんになりたいと思ったこと。
小さなお花を一輪一輪束ね、手際良く綺麗な花束を作るお姉さんを見たとき、花屋さんになりたいと思ったこと。
母が入院したときに、私にも優しかった看護師さんに接し、看護師さんになりたいと思ったこと。
卒業を控えた中学3年、行けなくなってしまった学校に、無理矢理気持ちを奮い立たせ行ったとき、子供の些細な気持ちに気付いてあげられる、学校の先生になりたいと思ったこと。

どれも、子供の頃に夢を見て、叶えることができなかった私の夢だ。
結局私は、そのうちのどの夢も、それ以上見続けることもなく、今はごく普通の事務員をしている。

この中で、実際に最後まで目指していたのは看護師だった。だけど、歳の離れた従姉が看護師になり、その仕事の大変さを目の当たりにし、いつのまにかその夢も見ることはなくなっていた。

大人になるということは、夢を諦めることなのだろうか?
それとも、夢を追い続けることなのだろうか?

今の私には、夢がある。
叶うかもわからない夢を、もうずっと追い続けている。

たとえば、年齢と金銭的理由がなく、勉強して学校に通う熱意とチカラがあれば、今からでも、看護師にも学校の先生にもなることはできるかもしれない。
お花屋さんで働くことも、ケーキ屋さんで働くことも、やる気と努力する気持ちがあれば、叶えられるかもしれない。

だけど、子供の頃に見ていた夢を置いてきてしまった。きっと、諦めたとは違うのだろう。置いてきたのだ。
置いてきてしまったものは、きっと最初から夢と呼べるようなものではなかったのだろう。

私の夢は、自分の書いたものを、一冊の本として世に送り出すことだ。
エッセイでも、小説でも、詩でも、私の書いたものをこの世界に残したい。
求めるものを書けなければ、読んでもらえることもないだろう。読んでもらえなければ、私の存在を知ってもらうことすら、できないだろう。
どこかに夢を置いてきてしまった私は、大人になって、また夢を見ている。
現実を知っているのに、それでも諦めることのできない夢を。

綺麗なものだけじゃない現実。
ありふれた日常と、代わり映えのしない景色。
そんな毎日の中で感じる、心安らぐ風景や、大切な人たちとの繋がり、その温もり。
大人になって、失ったものも多かったけれど、得たものも多かったはずだ。

子供の頃に見ていた夢は、きっと夢ではなかったのだろう。どちらかといえば、早く大人になりたいという気持ちからの、憧れ。
だから、ケーキ屋さんで働く自分も、花を束ねる自分も、容易に想像ができた。
ドラマを見て、学校の先生や看護師さんになる自分を想像してた。
憧れの世界を想像することは、難しくはなかった。

大人になって失くしたものは、そんな何かに憧れるという、純粋な心なのだろう。
憧れだけでは生きていけないと知ってしまったから。
どんな仕事も、大変なことを知っている。楽な仕事など、何ひとつないと。好きなことをしている人だって、それ相当の努力をしている。

日々、言葉を紡ぎ続けることで、私はいつ叶うかもわからない夢を見ている。言葉を紡ぐだけで、夢を叶えることができないことは、百も承知だ。
子供の頃に置いてきてしまった淡い憧れとは違う。
憧れという曖昧なカタチを追いかけているのではない。言葉を紡ぐ先にある、しっかりとした夢のカタチを追いかけている。

夢と現実は、背中合わせだ。
現実を生きながら、夢を見ている。
夢を見ながら、現実を生きている。
現実を背負いながら、夢へと手を伸ばす。
その抱えている重さが、ときに夢への道を阻むことだってある。

私はどうして、この夢を諦めることができないんだろう。
たくさんの現実を見てきて、自分の中の足りないものも知っている。
書くこと、読むことで、足りないものを埋めようともがいている。
でも、埋めるだけではダメなことも知っているのだ。足りないものを埋めるだけでは、やっとスタートラインに立てるだけのこと。

noteでは、たくさんの企画がある。
公式のものだったり、私的に行われるコンテストだったり。
今までの私だったら、興味のないものへの挑戦はしてこなかった。狭い世界しか知らなかった私は、興味のない世界の扉を開けることが怖かったのだ。
興味がないという思い込みそのものが、間違いだった。
小さな小さな世界の中で綴れる世界は、絶対に小さい。
大きな大きな世界の中で綴る世界は、やっぱり大きいのだ。

見ようともしなかった世界を見ること。
そこで感じた素直な気持ちを、言葉に変換していくこと。
自分の気持ちを、表からも裏からも、しっかり見つめること。ときに抱きしめ、ときにこねくり回し、ときに突き放しながら。

人生は有限だ。時間には限りがある。
憧れだけでは生きていけない。だからきっと私は、憧れるという気持ちを失くしてしまったんだろうか?
でも、大人になったからこそ、夢見る心を持てたのかもしれない。
憧れだけで終わらせない、夢をカタチにするための心。

百瀬七海は大人になった。
憧れの気持ちを失った。
夢見る心を手に入れた。
HPが全回復した。
レベルが1上がった。


「大人になったら消えてしまったもの」というテーマで書いてみました。企画詳細は、上記のnoteよりご確認いただけます。

ちなみに、同じテーマで小説も書いています。

企画主催者、Kojiちゃんの創作のお話は下記よりどうぞ。きっと創作の世界が広がります。




いつか自分の書いたものを、本にするのが夢です。その夢を叶えるために、サポートを循環したり、大切な人に会いに行く交通費にさせていただきます。