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季節が巡る、風に揺れる

空色と薄紅色。
昔から、この2色が交わり合うような景色が好きだったな、なんてことをふと思い出した。

春だったら、満開の桜の花と春の空とのコラボレーション。
秋だったら、風に揺れる、淡いピンク色の秋桜と秋の空とのコラボレーション。

小学生のときの写生会だった。
それぞれが思い思いに好きな景色を描く中、私が選んだのは、秋桜と空の風景だった。
大好きな空色の中に、薄いピンク色と薄い紫色を合わせたような秋桜の花を咲かせていく。
風に揺られているように、そんな雰囲気の秋桜たちを描きたかった。

秋桜たちは、いつだって優しく揺れていた。
優しい色合いで、秋の訪れを教えてくれていた。

クラスから、5人の作品をコンクールに出展することになった。
それなのに、先生が選んだのは6人の作品だった。その中に、私の描いた秋桜と空の風景もあった。
6人は、放課後に残って、絵を仕上げることになった。その結果で、誰かひとり、選ばれない人が決まる。
仲良しの友達と遊ぶことを断り、放課後絵の仕上げをする。描けば描くほど、私は自信がなくなっていった。心のどこかで、選ばれないのは私だって感じ始めていた。

そもそも、40人程度のクラスメートの中で、6人に選ばれたのはすごいことだったんだと思う。選ばれなかった34人と、6人には選ばれたけど、最後に選ばれなかったひとりでは、「選ばれなかった」といってもそれなりには「選ばれていた」はずだ。だけど、34人の中のひとりだったら、きっと私は傷つきはしなかった。6人の中の「選ばれなかった」ひとりになってしまったから、傷ついてしまったのだ。

絵に描くほど好きだった秋桜だった。
春も秋も、同じだけ季節は巡ってきて、満開の桜の花と春の空とのコラボレーションは、たくさんの記憶が残っているのに、秋桜と秋の空とのコラボレーションは、あの傷ついた頃の記憶しか残っていない。

道を歩いていたら、鮮やかなオレンジ色の秋桜が数輪、風に揺られていた。
それから毎年、その場所で咲くオレンジ色の秋桜に出会えるのを、ずっと楽しみにしていた。

優しい秋の風が、悪戯に秋桜を揺らす。
あの頃のように、もう秋桜は描かない。
だけど、私の心には、あの日描いた薄紅色の秋桜が満開に咲いている。



サークル「25時のおもちゃ箱」の9月のテーマ「秋桜を見ながら」で書いてみました。

たまにはゆっくり、巡る季節を感じていたい。

2020.9.18 

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いつか自分の書いたものを、本にするのが夢です。その夢を叶えるために、サポートを循環したり、大切な人に会いに行く交通費にさせていただきます。