バーニーズニューヨークとお好み焼き屋さん

大学に入ってから、恋人と新宿に出来たばかりの高級百貨店、バーニーズニューヨークに入ったことがある。
うやうやしくドアマンが回転ドアを開き、私たちは中に入った。
値札を見るまでもなく、高級な服やアクセサリーが並んでいた。
エスカレーターで、3階まで上がるだけで、2人とも疲れて飽きてしまった。
「すごいねぇ。綺麗な服やアクセサリーだったね。」と私たちは店を出た。

何も買わずに出てきた私たちは、600円でお腹いっぱいになるいつものお好み焼き屋さん(ばすたかん、という名前だった)に向かった。

新宿の路地裏のごちゃごちゃした二階にあった。

彼はいつも同じ広島焼きを注文して、私はいつも同じチーズお好み焼きを注文した。

ランチはコーヒーとセットだった。

私たちはいつもおなかいっぱいになって、何も買わずにウィンドーショッピングをした。

何も買わなくても、幸せだったからだ。

たまに、私が出来たばかりの無印良品の店で数百円の干しあんずを買って恋人に食べてね、と渡した。

彼は干しあんずが大好きだったからだ。

私が社会運動に身を投じていることを彼は知っていたが、一度も責められたことはなかった。
応援もしなかったが、私の身を案じていた。
留守番電話に、「また今夜もいないの?  愛してるよ。」と居ない日は必ず入っていた。

彼はお酒があまり好きではなかった。
お父さんのブランデーを死ぬほど飲んで悪酔いした苦しみが忘れられない、と言っていた。

2人で一杯500円もしないロングカクテル(いつもジントニック)を一杯飲んで、二人暮らしの家に帰った。

別に何も無い部屋だった。
でも、そこにすべてがあった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?