見出し画像

竜吾の顔。

私には3才年上の姉がいる。

小学校の頃、彼女が持っていたマンガの登場人物に、『竜吾』という青年がいた。

彼はヒロインの彼氏のお兄さんで、生真面目で少し気難しい性格。

あるコマに、彼が車を運転しているシーンが描かれていた。ただ真顔で車を運転しているだけだったのに、なぜかその顔が私達姉妹のツボにはまってしまった。

それ以来、私達姉妹の間で真顔=『竜吾の顔』という造語が使われるようになった。

当時は子どもだったせいか、無表情で何かをしていると、

 「Momori、今、竜吾の顔だったよ。」

と姉から指摘が入った。

そして姉も私もそれぞれ運転免許を取り、車を運転するようになると、

 「今日は○○へ竜吾の顔で運転してきた。」

 「今日お姉ちゃん△△に行った?私お姉ちゃんの車とすれ違ったんだけど、竜吾の顔だったよ。」

と、相変わらず『竜吾』は死語にはならなかった。

最初に竜吾をマンガで見かけてから10年以上経っても、なぜか竜吾は私達姉妹の間では人気者だった。ちなみに主人公のヒロインやその彼の名前は、忘却の彼方に消え去っている。

時は過ぎ、お互い家庭を持つようになり、やがてお互い親になった。

それでも『竜吾』は健在だった。

いつも実家に行くと、(実家の近所に姉は住んでいるので)大概母と姉が私を見送ってくれる。

けれど先日、私が玄関を出るときに実家の電話が鳴ったので、足の弱い母の代わりに姉が電話を取りに戻って行った。

私はそのまま車に乗って自宅に戻ってきたのだが、スマホを開いてみたら

 「竜吾の後ろ姿だけ見送りました。」

と彼女からLINEが来ていた。

たぶん私達は一生『竜吾』から離れられないだろう。

あのマンガを描いたマンガ家さんも、まさかこんなところで自分の描いた登場人物がいまだに愛されているとは思っていないだろうなあ・・・。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?