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独り身オタ子の青い春

 青春とは綺麗に言ったもので、結局のところ病と大差ないのだろう。渦中はそれが世界の全てだと思い、過ぎ去った後は免罪符になる。あの時は青春だったのだと、レッテルを貼って仕舞えば、綺麗なまま取っておける。綺麗な、病気だ。
 そんなことを一人でぼやく私も、例に漏れず、青春という病の患者だ。厭な事に、本当に厭な事に。
 それを自覚したのはいつだったか、多分、心待ちにするようになってからだろう。彼のS N Sが更新されるたびに、心の奥が締め付けられる。動画や写真で彼の姿を拝むたびに、狂おしい気持ちでいっぱいになる。
彼のことが知りたくて、あらゆる情報をかき集めた。配信サービスは欠かさずチェックし、出演作はもちろん、共演者のSNS、果ては仲がいいだけの役者仲間のSNSとブログまで。彼の影がちらつくのであれば、どんな些細なものでもかき集めた。
正直、これくらいの情報収集なら、今時誰でもやっている。彼とその関係者が出す情報から、彼の姿を集めて形にするくらい。まるで彼のことを知っているような気持ちになるくらい、誰でもやっている。「おはよう」とSNSに書き込まれた文字を見て、彼が私に語りかけていると、錯覚するくらい。
ぽこんと通知音がなる。彼のSNSが更新された。新しい舞台の宣伝だ。最近は筋トレ日記や平日の過ごし方が多かったから、久しぶりのお知らせになる。「出演おめでとうございます」とだけ書き込んで、送信ボタンを押した。
 彼に送るメッセージは、12文字まで。これは私が私に課したルールだ。これ以上は私が彼に抱えている気持ちが溢れ出してしまう。かき集めた彼の姿から、過去や未来を想像して、そこに自分の存在を重ねている、私の想いが。12文字、一言だけなら。そう思って、だけどそこに1万文字以上の思いを込めて、送信ボタンを押している。その瞬間はいつも、心臓が体を突き破って飛び出しそうな心地だ。いや、体全体が心臓といっても過言ではない。震えは止まらないし、どこか切なくて泣き出しそうな気持ちでいっぱいになる。
 きっと、学生時代に好きな人がいたら、こんな気持ちなんだろうな。彼の姿を見るだけで幸せで。遠くから目で追ってしまうのだ。彼の噂を集めては、一喜一憂して。目が合えば全身が熱くなり、口から身体中の臓器が飛び出そうな心地がする。きっと、彼が私と同級生だったなら。
 こんなありもしないことばかり、いつも考えてしまう。ああ、本当に病気だ。
 彼のS N Sを眺めながら、ぼんやりと考える。「いい天気!」と投稿したメッセージには、雲ひとつない澄んだ空が映っていた。
 ああ、もう、本当に。眩しいくらいに。
「青いなぁ」


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