10分小説 『成長』

小さい頃から、よく成長を求められた。自分らしく生きたいという気持ちと誰かのために生きたいという気持ちが錯綜して、時々迷子になっていた。いわゆる立場によって成長する部分も内容も全然違う。僕は、とにかく、上だけを見続けて、先へ先へ進もうって思っていた。

だけど、失敗した。かなり大きめの。取り返しのつかないことかもしれない。僕の今までの成長が否定された気がした。0に戻った気がした。ほんとに、どん底に落ちた。みんなは飲みに連れてってくれた。こんな、僕を慰めてくれた。そこで初めて気づいた。誰かのために生きるために自分らしく生きるんだって。目に見えない誰か(それは会社のような組織だとしても)がいるから、僕は僕らしく生きていけるんだって。

僕は立ち直らなくてはいけない。足を止めてはいけない。でも、どんなに気をつけてても失敗はするのだから、時には周りにいる誰かと一緒に、これからも立ち向かっていこうって思った。

いつしか、私は会社の中で責任者と呼ばれる立場になった。新しく入った新入社員の中に、向上心たっぷりのやる気のある若者がいた。

懐かしさを感じた。だから、私は、ゆっくり、ゆっくりとその若者に近づいて、自分より一回りも二回りも背の高いその若者に声をかけた。

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