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[小説] 探偵


俺の名前は 鴨辺 蓮かもべ れん、 心霊探偵をしている。

心霊探偵とは、一般的な探偵の業務もするが、主に徐霊や生き霊の素行調査、死に別れた幽霊の捜索、幽霊じゃない方の見極めの伝授、偽物をがぶった霊能者へ風の精霊を送るなど、業務内容は多岐にわたる。

俺は探偵界隈では、そこそこ名前は売れている。

ここ最近、心霊関係の仕事が増えているおかげだろう。お忍びで著名人からの相談もある。

収入も安定し、いやらしい車を購入した。帽子!も新調した。順風満帆だ。

さて、今日はどんな依頼が来るのか…


コンコン

「はい、どうぞ。開いてますよ」

「失礼しますよ」

おばあちゃんのぽたぽた焼の人か?と思わせる風貌の老夫人が来た。ここは亀田製菓ではない。

「どうされました?」

「昨日から肩が凝っちゃてねぇ。辛いんですよ」

「肩?ですか」

見た所、霊障ではない

「いやね、お隣の柿の種さんがこの間話してたのよ。ここに来たら重かったピーナッツがなくなってすーと軽くなったって」

「えっと、胃が重いという事でしょうか」

「重いっていうか、肩が凝ってるのよ。煎餅焼きすぎたかねぇ…」

このばあさん、ここがマッサージ屋かなんかと勘違いしてるな

「ここはマッサージ屋じゃないんですよ。心霊探偵という探偵事務所なんです」

「新郎?いやいや、こんな年寄りに結婚の予定はないですよ。じーさんも10年前に亡くなってね…」

「新郎じゃなくて、心霊です。し・ん・れ・い!わかりますか?」

「え?新婚?だからこんな年寄りが結婚なんて…」

だめだなこりゃ

「おばあさん、この名刺をあげるんで、ここに行ってみて下さい」

「ん?ここに行けば肩凝りもよくなるんですか」

「そうです。きっと煎餅を焼く事もなくなるかもしれませんよ」

面倒なので、この前相談に来ていたブルボンの社長の名刺を渡した。

これがのちに、煎餅界を揺るがす大事件になるとは、この時の俺は知るよしもなかった。それはまた別の話である。


さて、次の依頼は…

コンコン

「はい、どうぞ。開いてますよ」

「えっと、ここって心霊探偵事務所ですよね」

「そうですよ、どうされました?」

「俺、剛です。俳優やってます」

「ああ、あの俳優の剛さん!コウノドリ観てましたよ。あ、今大変ですよね…。暴露系YouTuberに色々暴露されて」

「はい…。実は、その事で相談に来たんです」

「と、申しますと?」

「なんとかしてくれませんか?その…霊能力で。あの人に呪いとか、かけられないですか?…このままじゃ俺、俳優続けられるかどうか…」

「難しいですね…。ウチは呪いなど人に危害を加えたりする事はやってないんですよ」

「そこをなんとか」

「その暴露系YouTuberって、ガーシー?でしたよね。そもそも彼は今、電波の悪い所にいるみたいなんで、霊視も出来なければ呪いもかけられませんよ。音声くらい止められるかもしれませんが、まあ無理でしょうね…。顔のテカリも押さえられません」

「そんな。なんとか顔のテカリだけでも…。女の子アテンドするんで!お願いします!」

「はあ?アテンド?そんなんいらんわ!そんなんだから暴露されるんやろ!晒すぞ!!」

「探偵さん…?なんか急に関西弁…つかガーシーみたいな喋り方に…」

「お前が俺を怒らせたから悪いんやろ!!俺も詐欺やって悪いヤツやけどな反省しとんねん!お前も反省せい!LINEスクショどんどん晒すぞ!俺は失うものなんてないんやからな!」

「そんな…俺はどうすればいいんですか…」

「とりあえずLINE無視すな!わかったか?無視すんなよ!」

「わ、わかりました…無視しません」

「おっと、失礼。ガーシーの怒りが私を通して貴方に伝わったみたいですね」

「びっくりした…ガーシーが乗り移ったのかと思いましたよ」

「ま、とにかくこの依頼はお受けできません」

「なんとかできませんか?このままじゃあ外にも出られません。インスタグラマーの可愛い子をアテンドしますから」

「帰れ!!!」

「ひぇっ」

バタンッ!

ったくなんなんだよ。ああ…コウノドリ再放送するのかな。清塚さんのピアノよかったな…


今日はまともな依頼がないな…

コンコン

おっ、きたな

「はい、どうぞ」

「こんにちは。心霊の事ならこの探偵事務所と聞いてやってきました。進次郎です」

「え?元エコ大臣の進次郎さんじゃないですか!エコバッグを買ったはいいが、買い物の時に肝心のバッグ持っていくの忘れて、結局レジ袋買う事になってるんですよ。どうしてくれるんですか」

「その事については、今のままではいけないと思っています。だからこそ、日本は今のままではいけないと思っています。私の中で30年後を考えたときに、『30年後の自分は何歳かな』とレジ袋有料化直後から考えていました。だからこそ私は、健康でいられれば、30年後の約束を守れるかどうかという、その節目を見届けることが、私はできる可能性のある政治家だと思います」

「ちょっと何言ってるかわかんないんですけど」

「何を言ってるかわからない?ですか。ただ、これは私の問題だと思うが、何を言ってるかわからないと言いながら、何を言ってるかわからないという色が見えない。というご指摘は、私自身の問題だと何言ってるかわからないでおります」

「ほんとに何言ってるかわからないですね…。ここは永田町詩人の会ではないので、あちらで検討してもらって下さい」

バタンッ!

ふうー。やべーヤツがきたな…

いいかげん、まともな依頼人きてくれよ


ドンドン !!!

うわっ、なんだなんだ

「はい、ど、どうぞ…」


「蓮舫です!世界一になる理由には何があるんでしょうか?2位じゃダメなんでしょうか?」

「いや…ここは床屋じゃねえです。刈り上げはやってません」

バタンッ!!

今日は厄日か…

コンコン

今度こそまともな依頼…

「ケイスケホンダです!のびしろ」

バタンッ!ガチャガチャ!シャッ

今日はもう閉めよう…


ん?

この感じ

やばい

やばいやばい

あの人がこの事務所に続く階段を上っている…

まずいぞ

電気を消そう

机の下に隠れて…

息を殺してやり過ごす

近づいてくる

やばい


鳥肌が

穴という穴から黄色い液体が出てきそうだ

恐ろし…

幽霊…いや悪霊よりよっぽど恐ろしい

震えがとまらない


ドアの前まできた!!

トントン

「ひっ…」

やばい、声が漏れる

トントン

「鴨辺さん」

俺がいる事に気がついていませんように…

トントン

「鴨辺さん。いらっしゃるのはわかっていますよ。下にいやらしい車が止まっていましたからね」

そんな…

神様、どうか俺をお救い下さい…

「鴨辺さん、再来月分の家賃まだですよね。大家さん困っていますよ」

彼女はこの辺りを裏で仕切っている家賃回収屋だ。期限を守らない輩には容赦がない。あのウシジマくんよりエグイ取立てをする。

期限より早い取立てが家賃納付者にとってトラウマとなり、残存となっている。そのことから皆、彼女のことをいつしか「Sky Fishスカイフィッシュ」と呼ぶようになった。

そもそも再来月分の家賃を支払う必要があるのか?俺は彼女に異議申し立てをした事がある。

しかし彼女は「ここでは私がルールです。鴨辺さん、12年前に錦糸町で○%@#★&♡*♭︎¶やってましたよね?この事を知られてもいいのですか?」

そう、彼女はこの辺の住人の業を握っているのだ。だから皆、何も言わない。言えないのだ。しかし俺が錦糸町で○%@#★&♡*♭︎¶やってた事、なんで知ってるんだ?恐ろしい情報収集能力…

とにかく、この場をなんとかしのがなければ…

先月、例のいやらしい車の購入と帽子!を新調したから金がない…

トントン

「鴨辺さん、早く出てきて下さいよ」

ごめんなさい見逃してください

カンカン

ん?音が変わった

「鴨辺さん、ごめんなさい。下のいやらしい車のネジで叩いちゃいました」

ネジ?

「うっかり取れちゃって。運転中にタイヤが外れないといいですね」

う、嘘だろ?

カンカン

「今度はうっかり何を外しましょうか」

ひいぃっっっっっ!!!

俺は、この場を乗り切れる事ができるのだろうか…

次回、探偵~ブルボンVS亀田製菓~

お楽しみに!!

#眠れない夜に


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