Film Review ~the illusionist(L'illusionniste) 2010~
!ネタバレあり
映画を見る気分になる時とならない時、
その中でもメジャー作品を見る気分の時、マイナーなものを発掘したい時、昔見たものをまた見たい時、など色々あると思うのですが
きーぬは、ちゃんとその作品を見る気分になった時にしか映画を見れず
なんとなく見つけた映画を見る、ということはあまりしてこなかった。
そのため、Netflix, Amazon Prime, Hulu全部契約しているのに(友達を増やす感覚で登録しました…笑)
フル活用できていなかったような気がします。
だけれど、この作品をAmazon Primeに見つけた時は
もう魔法にかかったように見るモードに入っていました。
シルバン・ショメ監督のThe Illusionist (L'illusionniste) 2010
この作品を即見た理由は、簡単にいうと
①フランスのアニメ作品が好き&画が素敵だから
②Edinburghが舞台であるから
です。
きーぬは、ミシェルオスロ監督の、夜のとばりの物語やディリリとパリの物語をきっかけに、フランスのアニメに心を奪われ始めたのですが、
この作品もフランスのアニメということで、その静かなのにユーモアがありお茶目な雰囲気があるところに心を惹かれました。
そして!!この作品、Edinburghが舞台なんです!なんと!(きーぬはエディンバラに一年ほど留学していて、この街が大大大好きなのです。)
パリで売れない初老のマジシャンが、イギリスのスコットランドの離島である少女と出会い、エディンバラに渡り暮らす話なのですが
Edinburghの街の描写がとにかく美しく、また私の滞在時ではそんなに気にかけなかった、スコットランドにおけるEdinburghの都会性も描かれています。
例えば、スコットランドの離島で主人公のマジシャン・タチシェフが出会った少女アリスは、Edinburghにきて自分の身なりをみすぼらしく感じ始め
ショーウィンドウの服飾品や香水に心を奪われます。
私がEdinburghにいた時には、
歩ける規模の町というのもあって、そんなに大都会だ!!とは感じていなかったのですが、確かにスコットランド田舎町から来たら、大都会で随分賑やかな町なのでしょうね。
レトロで素敵な服やモノが並ぶ店が多く、いろいろと欲しくなってしまう気持ちは本当〜によくわかります。笑 きーぬも、1年で帰らなければならないと分かっていたので、Edinburghを少しでも自分の一部にしたいというような気持ちで、欲しいものは割と諦めずに購入していました。笑
また、この作品ではタチシェフのような外国人労働者から見たEdinburgh、という側面も描かれていたように思いますが、
私も現地で短期ですがバイトをしていた外国人として、「夢のような気持ち」と「ここでずっと生きていくことの難しさ」が切なく描かれていたことに、キュンとしてしまいました。
特にタチシェフのような不定給労働であれば、なかなか現地の人でも難しい。Edinburghで生きる幸せさと、それを続けて行く難しさがひしひしと伝わって来ます。
あの街はまさに夢、という言葉が似合う土地で、そこに期間限定で行く人は
本当に心地よくてずっとここにいたいけれど、金銭的な事情などでいつかは現実に帰らなければならないという、締め付けられるような思いを多少抱えているのではないでしょうか。
この映画のオススメポイントを以下に絞って紹介します。
Ⅰ 台詞の少なさと表情の豊かさ
Ⅱ 変化・衰退の描かれ方
Ⅲ 観る者の想像を呼び起こす、ラストの方のシーン
Ⅰ 台詞の少なさと表情の豊かさ
この作品、見る人によって感想は違うと思うけれど
私の観点からすれば、一般的なアニメ作品と比べてものすごく台詞が少ない。
主人公のタチシェフが無口なものですから、そうなるのも無理はありません。
タチシェフがもともと無口だったのか、きっかけがあって無口なほうになったのかはわかりませんが、
無口な中にもタチシェフの優しさ・ユーモアをしっかり感じることができて
ああ、言葉で表さなくても(表さないから)こんなにも素敵
とじんわり温かい気持ちになります。
台詞が少ないぶん、登場人物の表情は豊かで
人間らしさ、お茶目な部分がクスッと笑える映画です。
特に、少女アリスがシチューを作ったシーンで、その中身を憂慮するタチシェフの挙動はすごく大好きです。笑
Ⅱ 変化・衰退の描かれ方
タチシェフはもともと売れないマジシャンでしたが、
そのマジックの経験を生かし(ていない時もありますが笑)
Edinburghでは色々な仕事をします。
どれも、あまり彼にぴったり!という仕事はなく、彼は仕事を転々とする。
おそらく現実的に考えると、楽しんでできる定職が見つからないことは
ネガティブに捉えられがちですよね。
でも、タチシェフの悪戦苦闘を見ていると
時にその無責任さにすごく救われるというか、
あ、こんな大人いてもいいんだ
という無言の安心感をもらえます。
変化とは常に右肩上がりではなければいけないという世の中の風潮に対し、
変化とは、文字どおりただ環境が変わることで、そこにはアップダウンがつきもの。絵を描いている途中のようにmessになることもあるし、完成品がMessyでもどうってことないのだ。この映画を見ていると、自然とそんな確信を持ちますね。
そして、変化には衰退も含まれる。この映画では衰退や、老いの哀愁というのもテーマなのかなと思います。
主人公の2人が滞在するホテルには、売れない大道芸人たちも暮らしているのですが、彼らの人生への絶望や孤独というのもちゃんと映し出されています。
その中でも、アリスに優しくしてくれた腹話術師が孤独にご飯を食べるところ、そして人形を売りに出しどこかへ去ってしまうのは切ないシーンですね。
一度は人気があった商売も、自分の生きがいも、永遠ではない。そしてその盛りが終わった後の、どうしてよいかわからず生きているだけの空虚な気分というのは、たしかに悩ましいものですが、そのせいでその人が終わるわけではないのだという、当然だけれど救いのあるシンプルなメッセージをくれるような気がします。
また、主人公タチシェフも最後には街を出ていきますし、あの老齢でどうするのだろう…という悲しさも観る人に感じさせますが
それでもきっと生きて行くのだ、という淡々とした事実的想像が、いちばんの救いになるのかもしれないという、そんなことを思わせてくれます。
Ⅲ 観る者の想像を呼び起こす、ラストの方のシーン
ラストの方のシーンでは、切ない場面もありますが、これから登場人物はどうしていくのだろう?という想像や、タチシェフの過去について読者の想像を呼び起こす場面が出て来ます。
まずタチシェフが出会った少女アリスは、ホテルの近所に住む青年と恋に落ち、タチシェフが去った後、2人で共に歩いていきます。ここまでアリスは金銭的にタチシェフの支援を得て暮らしていたはずなので、この先どうするのでしょう。青年とおそらく結婚するのでしょうか??思わず心配になってしまいます。
(作中、彼とアリスが歩いているところをタチシェフが見かけ、タチシェフが隠れたりするところもあるのですが、そのシーンもお気に入りです!)
そして、タチシェフ。Edinburghを去りどこかへ行きます。
老齢で仕事のスキルも限定されているけれど、どのように生きるのか?という想像を掻き立てつつ、なんとなく、大丈夫だろう。穏やかにひっそりと暮らすのだろう、と見送るような気持ちになります。
もっとミステリアスなのは、最後に映し出される一枚の写真(の絵)。
横には、「ソフィー・タチシェフに捧ぐ」の文字。
ソフィーはおそらくタチシェフの娘ですが、どうして最後にこの写真が出るのでしょう?彼女は亡くなったのでしょうか、はたまた生き別れ、疎遠など…いろんな可能性が想像できると思います。いずれにせよ、アリスを娘のように可愛がっていたタチシェフの原動力は、ソフィーだったのでしょうね。
なんだか切なくも、とても尊いラストだと思いました。
めずらしく、長めに書いて見た今回のnoteでしたが
いかがでしたでしょうか?笑
頭に浮かんだことを整理せずそのまま書いてしまい、まとまっておらず
読みにくかったとは思いますが
この映画に少しでも興味を持っていただけたのなら、夢のようにしあわせでございます。
ぜひ、暑い日の夜やその他、ウイスキーでも飲みながら、見てみてくださいね。
文・絵 きーぬ
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?