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ももん、入院する③ 困ったことになった編


前回までのあらすじ

急性胃腸炎のため夜間救急病院に続き、消化器内科を受診したももん。血液検査では炎症生マーカーCRPは激上がり、好中球増多、低カリウム・低コレステロール血症と数々の異常を叩き出したものの、ドクターの適切な処置(点滴・ニューキノロン系抗菌薬投与)によってわずかな安心を得たのであった!

火曜日 ママン、駆けつける

そのころ、実家は蜂の巣を突いたような大騒動だった。かくいうわたくし、消化器官にいろいろ問題があり、一歳半で開腹手術を経験するなどなかなかの猛者である。その後はよわっちいながらもすくすくと成長したものの、いまだにあり得ないほどお腹が弱いし、「おなかが痛い」と訴えると多いに心配される。
そんなももんちゃんが! 遠い地で、一人暮らしなのに! 胃腸炎なんて!
家族の心配は深く、決断は早く、消化器内科を受診した次の日の夜には、母が飛行機に乗ってはるばる応援に駆けつけてくれたのだ。ありがたい。

ママンが来てくれたことで私はすっかり安心しきり、茹でられたスライムのごとく固形を保てなくなっていた。おふとんで横になっているだけで、ママンが掃除・洗濯・おかいもの・お料理の一切を引き受けてくれる。息も絶え絶えに徒歩1分のコンビニへグリーンダカラを買いに行っていた私とは訣別したのだ。ママン大好き!

ママンは未熟児なみに弱っている私の胃腸に優しくておいしいごはんを作ってくれ、息をするようにトイレへ通い詰める私のせいで夜中起こされても、「大丈夫?お腹いたいの?」と声をかけてくれた。お腹も痛いが、ママンが優しくて泣けてくる。

水曜日 精神年齢、下がる

そんなママンと解熱剤のおかげで、ももんの熱は37℃台までに下がっていた。一度39℃なんぞやを経験してしまうと、37.8℃くらいですごくスッキリ元気になったような錯覚を覚えてしまう。
「まま、お熱下がったー! なおったよー! あそぼー!」
 IQ5まで低下した私にママンは優しく微笑む。
「解熱剤を飲んだから下がってるけど、まだお熱があるからね。ねんねしてね」
なぜ人は具合が悪いと精神年齢が下がるのだろう。理知的でクールな23歳は見る影もなく、そこにはただ胃腸炎でママと遊べずご機嫌ナナメな5歳児しかいなかった。ところで理知的でクールな23歳の私はもともといなかったような気もする。暇すぎて自分の腸音を聞いて遊ぶ23歳はいた気がするが。

腸音を聴取し、腸閉塞の除外診断しかできないクズ獣医ももん

金曜日 消化器内科、再診のとき

いよいよドクターとの約束の日(ただの再診)がやってきたので、ももんはママンと一緒に再び病院を訪れた。ドクターにママンを紹介し、簡単な問診がまた始まる。
「じゃあ熱は下がってきてるんだね、よかった。お腹の方はどう?」
「う〜ん。なんかおなかはずっと痛いですね、あまり変わってません」
「どうも腹部症状が強いなぁ…」
ドクターは首を傾げる。そうなの? と私も首を傾げる。
「でも、お腹は普段から壊しやすいし、こんなもんなんじゃないでしょうか」
「そうかぁ。もともと腸が過敏なせいで、不調が長引いてることは考えられるよね」
やや納得いかない顔で、ドクターは血液検査をもう一度しようという。
「これで治っている傾向が見えて安心できるからね」
「ありがとうございます。そういえば先生、私、来週から実習に行きたいんです。本当は始まっているんですけど、具合が悪いから遅れて参加することになって。いいですか?」
「どんな実習なの?」
「朝から晩まで病気の牛や馬を触ったり解剖したりします! 300キロくらい離れた土地で!」
「いや〜、だめだよね!」
ドクターの笑顔の返事は早かった。やはり、名医だ。

困ったことになった

待合室で血液検査の結果を待っていると、なぜだか今度は私だけ診察室に呼ばれた。診察室に入ると、ドクターが開口一番こう言った。
「ももんさんね〜、困りましたね。困りましたよこれは」
ももんはきょとんとした。え、私今から安心させてもらえるんじゃないの?
ドクターがじゃんじゃかじゃーん!と血液検査の結果を見せてくれる。「おお、内科で習った酵素名がいっぱい並んでる〜」とももんは嬉しくなった。どれどれ、私の値は…
「あなたの胆管酵素、とんでもなく上がってるよ。肝障害も出てるし…」

いつになくやる気をみなぎらせる胆管酵素(γ-GT)・肝逸脱酵素(AST,ALT)たち

「え? なんで? どうしちゃったんですか?」
「わかんないんだよ〜それが。ちょっとこれは、大きい病院で診てもらわないとだめだね、CTとかあるところじゃないと…もしかしたらすぐ…」
ドクターの言葉は最後まで入ってこなかった。何しろ、ショーーーック!! てっきり良くなっていると思っていたのに…。
「すぐ近所に病院があるから紹介状書くね。今すぐ行ってちょうだいな」
このとき金曜日の時刻は17時、受け入れしてくれるのだろうか。不安でいいっぱいのももんとママンは、とりあえずドクターから紹介状を受け取り、その大きい病院へとやらに出向くこととなった。

このとき私がドクターのお話(の後半)を都合よくミュートしていたのは、おそらくもっとも聞きたくない単語が含まれていたからであろう。

「CTとかあるところじゃないと…もしかしたらすぐ入院で絶食処置とかになるかもしれないけど…」
絶食処置とかになるかもしれないけど…
絶 食 処 置 と か に …

つづく


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