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私をノベル

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みえこ

みえこ

 緩やかな坂道を上に向かって歩く。さほどたいした勾配ではないと思って油断をしていると、これが意外と堪えたりする。わずかな距離であればどうということのない坂道でも、それが長く続くとなると、途中でへたばってしまう。わずかな勾配であっても重力に逆らって進んでいるのだなと思う。これがさらに急な坂道であれば、もはや最初から先を見越して身構えて歩く。あの辺りで一度足を止めて休むことにしようなどと。歩きはじめに

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老いおまえ

老いおまえ

 地下鉄を降りてしばらく歩くと公園の脇に出る。公園を横切るとわずかだけれどもショートカット出来るので、いつもそのようにして家に向かう。日暮れ前の公園は人もまばらでのんびりした雰囲気であふれていて、異次元の時間の動きに影響されたかのように足取りが急に緩やかになるのと同時に、昼間あくせくパートで働いている自分が馬鹿らしい存在のように思えて腹が立ってくる。こんな時間に犬の散歩をしている人っていったいどう

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明日の僕

明日の僕

 ある日、明日の僕がやってきた。なぜ明日の僕だとわかったかと言うと、あまりにもいまの僕とそっくりだったからだ。それに明日の僕がこういったのだ。

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永遠がはじまるとき

永遠がはじまるとき

 秋晴れの空はどこまでも青く、子供たちの未来もまたどこまでも透明で溢れていた。まだ来ぬ未来を求めて歩き続けることこそ、人生で何かを得るための唯一の行為なのだということを、まだ小さな心は知り得ていない。

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あがなる ~癌がくれた母との蜜月時間~

あがなる ~癌がくれた母との蜜月時間~

 花は命を誇り、種を蒔いて消えていった。朽ち落ちたあとには、また新しい生命が連綿と続いていくと信じて。花に寄り添って生きた小さな蜜蜂はしかし、花のことが忘れられずにいつまでも朽ち果てた花弁の辺りから離れることが出来ないでいる。いつ咲くとも知れない新しい生命になど何の興味も持てずに、古びた鉢植えの周りをいつまでも右往左往し続けているのかも知れない。

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