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既婚者の男と串を食べる

もう10年前になるが、彼氏とディズニーランドに行ったことがあった。
20代後半の女性にとって、彼氏とのディズニーデートはそれなりにテンションの上がる行事だし、そういう大がかりなデートを経ていずれはプロポーズ、結婚、という未来を期待するものだ。
当時の私もまだそんな憧れを抱いていた。

ところが、そのディズニーデートは盛り上がらなかった。彼氏彼女でデートをするなら行先なんかどこでもよく、ましてディズニーのような非日常の世界ならテンションも上がって楽しいに違いない。そう期待していた当時の私は経験がなさ過ぎだったのだろうか。
ディズニーに行くとたくさん歩くし、とにかく並ぶし、物価は高いし、何より喫煙者の彼にとってタバコが吸えないのが窮屈だったらしい。彼女のために付き合ってはやるけど、という、私たちのテンションの違いは明らかだった。
海沿いにあるディズニーは、夕方以降ぐっと冷え込む。閉園時間は22時だが、18時には「もう寒いから帰りたい」と彼に言われ、私たちはパークをあとにした。

とりあえず暖をとるために入ったコーヒーショップで、どういう流れだったのかは覚えていない、前述した憧れを私が語ったのだろうか、結婚の話になったときに、「俺は結婚する気はないよ。結婚したいならそうしてくれる男を探せ」と言われたのがショックで、その一言だけが強烈に印象に残っている。よりにもよってディズニー帰りだぞ?

今になって思えばそれも優しさのうちだったのかもしれない。
彼はそのとき40歳を超えていたのだが、自分が当時の彼の年齢と近くなってきて思うのは、年齢を重ねると自分の生き方が確立されてきて、人によっては相手にあわせるのがすごく苦痛に感じる場合があるということ。私も人に合わせるのがすごく苦手だし、彼もそうだった。
思い通りに動いてくれない男といるよりも、自分に合わせてくれて共感してくれる適性のある男を探したほうが、良い結婚生活が送れるし、20代後半ならまだそういう相手を見つけられる可能性も高い。今となっては理解できる。

でも、当時の私は未熟過ぎた。
私は試されているのだろうか?
こんなことを言われても彼のことを好きでいられる覚悟を問われているのか?
それとも、遠回しにほかに結婚相手を探せと言われているのか?

悩んだ末に、一人でも生きていける強さを身に着けることにした。
幸い、経済的には自立していたので、あとは精神的な部分。
ところが、意外とその生き方は私に合っていて、趣味であるダンスに没頭したり、仕事に熱中したり、行きたい場所があれば即行ってみたり。
シンプルに、「独り身最高じゃん」。

さて、あれから時が経って現在。
昨年は初めての転職をしたので、送別会やら近況報告会やらでいろんな人と再会する機会が多かった。そこで驚いたのが、男性陣の既婚率が急上昇していたことだ。
女友達は日ごろから連絡を取り合っているので逐一報告があったから違和感がなかったのかもしれないが、男友達はそんなに頻繁に連絡することもなく、とはいえ結婚式の招待が来るほど仲の良い人も多くはないので、この機会にまとめて聞くことになったというだけなのかもしれない。

男の人も結婚したいって思うのか。
独身時代の彼らから結婚願望の話を聞いたこともなかったし、価値観を変えるような出会いがあったということ?

「自然の流れでそうなった」と串焼きを食べながら彼らは答える。
「特に相手を探してたわけでもないけど、なんとなく付き合うことになって、相手もそれなりの年齢だからちょうどいいかなと思って」
結婚だぞ!? 自分の戸籍に一生残るものを、そんな何気ない気持ちで決めていいのか!? 独身時代は、あんなにモラトリアムな日々を過ごしていたじゃないか、なぜ急にちゃんとしようとするのだ。

「田口さんも結婚してみたほうがいいよ、パートナーがいるっていうのはいいよ。付き合うとかじゃなくて、ちゃんと家族がいるっていう感じ。責任も生まれてくるし、こういう経験をしたほうがいい。」

それは、わかっている、わかっているよ。わかっているけど、目の前の串焼きがまずくなるからやめてくれ。

30代後半の女性たちは、必ず結婚や出産について悩むし、もはやそれらを「しない」という選択する決断をしなければいけない時が近づいてきている。
それに抗うように、いまだに私のまわりは年に何人か結婚していく。
誰しもが、ほかのだれかと時間や価値観を共有したいという孤独感や焦燥感にさいなまれるのだろうか、共有することに幸せを見出すのだろうか。
私も、この風景を誰かと一緒に見れたら幸せだろうなと思う日もある。この場所に一緒に行って同じ空気を吸えたらなとか、おいしいご飯を一緒に食べられたらなとか。たまに焦る。

でもいろいろな世界を見てきて、結婚も出産も誰かと一緒に歩む人生も(仲間はいるけど)選択しなかったから見える景色もあるはずで、そのために生きてると思いたい。私も正解のひとつだったって思って死んでいきたい。

ていうか私って男運悪いのかな…。

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