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バイトバイトバイト

急に連絡が来て、学生時代のバイト先の人に会うことになった。
私がそのバイトを辞めてからもう15年。向こうは地元に帰り、私はそのまま東京に残りなかなか会う機会もなく、10年ぶりの再会だった。

10年も会ってない人に会うなんてきっと初めてだと思う。
見た目が全然わからないくらい変わっていたり、会話がかみ合わず苦痛な時間を過ごすんじゃないかと会う前は不安だったが、一目見たらその人だとわかる「友達」がそこにいた。
お互い年も取っているし変化した部分はそれなりにあるだろうが、話し方も注文の仕方も何もかもしっくり来た。

学生時代の私は、歌舞伎町にほど近い飲食店で働いていた。お店自体は20席ほどしかない小さなスパゲッティ屋で、従業員は2人体制。いろいろと好きにやらせてくれて居心地がよく、大学1年の終わりから卒業するまで3年間も居ついてしまった。
特に大学2年生の夏は週5でシフトに入りまくっていた。夕方、自転車で坂道を越えてバイト先に向かい、17時から23時30分の閉店までバイトする。バイトを終えて、社員さんがご飯に連れていってくれたりすることもあったし、私はよくレンタルビデオ店に寄ってVHSを借りて、リプトンのミルクティー500mlを飲みながら朝までそれを見る。そして次の日また昼頃に起きだして、バイトに行く。そんな生活を送っていた。
彼氏もいなくて、フェスやお祭りのようなイベントに行く趣味もなく、今風にいうと”映えない”大学生だったが、そんな毎日でも私は楽しかった。

バイトの思い出の引き出しなんてもうなくなっていたかと思ったが、埃をよけてあけてみたら、まだまだいろんなものが入っていた。いつも仕事のできる社員の〇〇さん、お気に入りのメニューのレシピ、仲良しのバイトさんの最寄り駅。それに、目の前の彼への片思いの記憶。
何もない毎日だったけど、一度しかない19歳の夏、今思えば私はちゃんと青春していた。

話に花が咲き4時間も経っていた。
あの頃と違って次の日も10時には会社に行く。今の私は終電を気にせずに歌舞伎町をうろうろしたり、朝までVHSを見ることもしなくなった。
別れの挨拶は、軽い「お疲れ~」から、「生きてまた会おう」に変わった。

そんな、一度しかない37歳の夏の始まりの日。

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