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老後8600万円問題

去年のクリスマスイブの日は何の予定もなかったから、せめて夜ご飯にちょっといいものを食べようと最寄り駅の近くに買い出しに行った。何軒か回って最後はワインだけ、というときに声をかけられた。

「アンケートに協力してもらえませんか?」

この寒い中スーツ姿でアンケートなんてかわいそうだなぁ。人助けのつもりで協力することに。

女性の意識調査のアンケートだというが、今どんな働き方をしているか、将来に不安はないか、今どんな間取りでどんな家賃の家に住んでいるか、など要するに不動産の営業につなげる内容だったわけで。そこまでわかっているなら帰ればいいのだが、これは私の悪い癖で、この先どんな営業をかけられるのか気になり、年明けに事務所に行ってさらに詳しく話を聞くことになった。

1月頭、事務所に行くと、「お世話になっている先輩が同席する」とのこと。アンケートをとっていた彼よりも二回りくらい上の男性が出てきた。(以降、この人を”先生”とする)
「老後いくら必要か知ってますか? 2,000万円って言われてますけど、それは年金や保障がすべて想定通りに支払われた場合で、かつ家を持っている人の場合。実際にいくら必要なのか算出してみましょう。」
先生に言われた通り、電卓で1か月に必要な金額を打ち込む。ではそこに自分には何のお金がプラスでかかってくるのか。私は今賃貸の家に住んでいるので家賃と、それに外食が好きなので食費も少し上乗せした。あと趣味でダンスをやっているので、まるっとその習い事費用も計上した(しかし今思えば20年先までこんなに根詰めてレッスン通うわけないよな…)。
そうすると、私が死ぬまでに必要なお金は8,600万円らしい。65歳まで働いてそれまでに貯めるとしたら、一か月20万円ずつ貯金しなければならない。私の場合、毎月20万円貯金するとしたら、家賃と携帯代払ってほぼ終わる。貯金や積立NISAやらなにやら手を尽くしても、さすがに一気に8,600万円は貯まらない。
「銀行もつぶれることはあるし仮想通貨などは儲かるかもしれないけど確実ではない、そこで不動産です」という先生。お察しのいい人はだいたいどういう話かはわかったことでしょう。

年末にちょうど自分のお財布事情を見直しており、今の自分を客観的に見たらどう思われるのかを知りたかったので、第三者に話を聞いてもらういい機会ではあった。
しかし老後8,600万円。
今から毎月20万円貯金しなくてはならない。20代の頃からコツコツ貯金してきた人はもう準備ができているのだろうか。
私が仕事にやりがいを求めたり理想を掲げている間に、みんなは老後の資金を準備したり、稼ぐために儲かる仕事を探したりスキルを身に着けたりしていたのだろうか。
本当に何も知らないまま30代後半まで来てしまった…。老後、暖房も付けられず寒さに耐えしのぶ自分の姿を想像してゾッとする。家族もいない、家もない、お金もない、これまで楽しく生きてきてこれから行きつく先が絶望しかないならもういっそ死にたい…。
せめて今から8,600万円作る準備をしなきゃ、ダンスはやめて土日はバイトして、仕事も楽しくなってきたけどもっと稼げる仕事を探さなきゃ…。
1月最初の三連休はそんな不安で頭がいっぱいだった。
不安に打ち勝つには行動しかない。
三連休のうちに転職サイトに登録してオンライン面談の予約をして、副業を探した。ダンスはさすがに辞めるかどうかは迷ったが。
行動すれば安心できるし、少しは8,600万円に近付いた気がした。

「いや、それ本気で言ってる? 本当にその額必要?」
「不動産投資なんて好きでやりたい人以外手を出さないほうがいいよ」
「将来のためのことで今がパンクしたら意味なくない?」

落ち着いて友人にこの話をしたら、全員からこの反応だった。
あ、またやってしまった。

先生が悪い人で私のことを騙そうとしているのか、普段からこうやって人に不動産の提案をしているのかはわからないし、実際に8,600万円必要かどうかも死ぬまでわからないだろう。
それにしても、人に不安を煽られて鵜呑みにし、一人で思いつめるということを何度繰り返すのか。不要なクレジットカード作ったときに思い知ったはずだろう。

絶望しかない将来を思い描いて死にたくなったり、死ぬために生きることに虚無感を感じて死にたくなったり。
年末に大森さんに言ったことはなんだったのか。
人生のプロが聞いてあきれたもんです。

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