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「有料の塾に通えさえすればOKではない」無料塾の意義とは?

7月23日に、私が代表を務める中野よもぎ塾主催で無料塾セミナーを行いました。無料塾の認知度を高めるため、最低でも年に1度はやりたかったのですが、昨年はコロナで断念。2年ぶりとなりました。

セミナー前半では、なぜ無料塾が必要か、どんな子どもたちが来ているかという基本的なお話と、コロナ禍で各団体がどのような工夫をしているかという報告をさせていただきました。

後半は、無料塾についてより理解を深めて頂くため、座談会をセッティング。下記3人の方にお話しいただきました。

●教育ジャーナリストのおおたとしまささん
いわゆ名門校での教育や受験を中心に、教育に関して幅広く執筆・講演をする。
●無料塾「なかの国際学院」共同代表・シュン
7月に立ち上がった無料塾の共同代表で、無料塾「中野よもぎ塾」の元生徒。高校時代も有料塾には通わず勉強して、自力で大学受験に合格。三井くんに声をかけて、新たな無料塾を立ち上げ。
●無料塾「なかの国際学院」共同代表・三井くん
中野よもぎ塾に高校1年生からボランティアとして参加。カナダ留学を経て、9月に大学入試を控えながら無料塾を立ち上げ。自身は一般的な有料塾に通塾していた。
三者三様の立場から、「無料塾ってどんなところ?」を深く掘り下げてもらいました。

この座談会のポイントは、おおたさんがお話しくださった、「無料塾というのは、単に勉強をするところ、進学のために学力をつけに行くだけのところではない」というところです。
「経済的に困っている家庭にお金だけ渡す、もしくは塾クーポンみたいなものを行政が配って、みんなが有料塾に通えるようになれば、教育上の条件はそろったことになるのかといったら、答えはノー」で、家庭の文化資本がどうなっているかというところに目を向けなければならない、というお話。

私が2014年に無料塾を立ち上げたときにも、このことは頭にありました。それ以前に副業で家庭教師をしていて、家庭環境によって学力が大きく左右されるというのを実感していたのです。
単に親の学歴がどうか、仕事がどうかということだけでなく、親の趣味や家の中でどんなことを話題に出すことが多いかということによっても、子どもの知識量や興味範囲(これが各科目への意欲や取り組むハードルにもつながってくる)が大きく左右されているなと感じることが多く、無料塾ではそこを意識しなければならないと考えていました。

実際にやってみると、無料塾にはたくさんの大人たちがかかわってきます。
ITに詳しい人、英語がネイティブに話せる人、海外経験が豊富な人。大学生にもいろいろな学部の人がいます。それぞれに興味志向も違い、経験も違う。ただ「勉強していい成績をとるにはどうしたらいいか」ということだけでなく、大人たちが自分の経験から得たものを子どもたちに自然に伝えられるような環境が、無料塾という場では実現できました。
まだまだ足りない面はあると思いますが、無料塾の生徒だったシュンが座談会で、
「中学時代によもぎ塾に通ったことで、自分の知識の引き出しが増えたり、いろいろな物の見方ができるようになったりしたのかなと思っています」
と話してくれたことは、やっていてよかったなと思った点でした。

昨今では、塾クーポンといって、有料の塾に行くお金を行政が負担し、低所得家庭の子が通えるようにするという取り組みもいくつかの自治体で行われています。ただ、おおたさんのお話では、子どもたちそれぞれの家庭の文化資本ということに目を向けずにこうした取り組みだけでOKとしてしまうリスクも感じました。
「単なる経済問題だととらえて、有料塾を無料化するような施策を安易にとってしまった場合は、『おまえら塾に通えているのにやっぱりテストの点数が低いのか』『君たちの努力不足のせいだよね』と自己責任にされかねません」
ただでさえ、無料塾をやっているというと、
「勉強ができないのは自分たちの責任。お金がなくても勉強はできるだろう」
と言われてしまうことがまだまだ多い今の社会。無料塾が伝えなければならないのは、この「経済面だけでなく、文化資本などの要素にも目を向けた、本当の教育格差の姿」だと思いました。

それと同時に、単なる学習支援だけでは補いきれないサポートというのは、何も無料塾だけができることではないとも思います。子ども食堂でもできるし、いろいろな地域コミュニティがその機能を持てるのです。
「子どもは親だけが育てるもの。親の自己責任で育てるもの」
という考え方ではなく、地域の人たち、近くにいる大人たちみんなが、子どもへさまざまな知識や知恵、経験を与えて、子どもはそれを栄養に育っていく。そういう考え方が社会に広がっていけば、無料塾は学習支援、偏差値を上げることだけに特化してもいいのかもしれません。

以前、家庭がめちゃくちゃで、文化教養というものからかなり離れているなというところの中学生が、入塾してきました。私の塾に来る前には別の無料塾に通っていたのですが、そちらでは偏差値アップ重視の普通の有料塾のような無料塾だったため、精神的につらくてこちらに転塾してきたのでした。高校進学を応援してくれていない様子の親御さんに話を聞くと「この子が高校なんて行って何になるんですか?」と言われてしまいました。親御さんは、働いた経験のない方でした。
こうした家庭環境にいる子には、本人の進学したいという気持ちを親に代わって周りがまずしっかり支えることや、「勉強するってどんなこと?」「働くってどういうこと?」という話を時間をかけてじっくりする必要が出てきます。そして、模擬試験の受験料などお金の面や、高校説明会に親御さんに行ってもらうようどう説得するかなど、さまざまなサポートも必要になりました。
無料塾ではこうしたケースは珍しいことではありません。単に行政がお金を出して、普通の進学塾に通わせれば大丈夫という問題ではないことばかりなのです。
もちろん、こうしたケースが大半というわけではなく、多くは「高校進学してほしいけど、ちょっと塾に行かせるのは難しい」という家庭の子どもたちです。ただ、そういう子の中でも環境の格差はありますし、ふとした瞬間に落とし穴にはまってしまう子もいます。そんなとき、どう助けになれるかが、セイフティネットとしての無料塾の役割でもあります。

無料塾にできることは、子どもの環境に応じて無限に広がります。すべてをカバーすることは難しいですが、その団体ができる範囲で、どこも必死でサポートをしています。

ぜひ、多くの方にこの実態を知って頂き、偏見を持つのではなく、大人も社会の構図を深く知り、ともに学べる場所として認識して頂ければと思っています。

座談会の様子は、テキストでお読みいただくことができますので、ぜひご一読を!


無料塾についてより詳しく知りたい方は、下記の電子書籍をお読みください。


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