「ONE PIECE FAN LETTER」夢をかなえるために偶然が織りなす必然
TVアニメ『ONE PIECE』25周年記念作品として放映された「ONE PIECE FAN LETTER」。25分という短い時間に多くの要素が濃厚につまった傑作だと思う。
第一印象はいかにも『ONE PIECE』らしいドタバタ劇に思えるが、一度の視聴では追いきれないほどのネタが盛り込まれており、この作品を成立させるために細かな技巧があちこちに凝らされていると感じる。
私なりにこの作品のポイントを挙げると、主人公の少女が起こすアクションとリアクションのギャップによって物語が展開していく面白さだと思う。
(ネタバレを含みます。未視聴の人はこんなブログより、まず「ONE PIECE FAN LETTER」を見てください。すぐ見終わりますので)
アクションとリアクションのギャップ
物語は登場人物のアクションがなくては進まない。特に主人公は行動的であることが必須だが、本作のナミにあこがれる少女は主人公に相応しい行動派だ。
物語で主人公がアクションを起こす。当然、そこにはアクションの結果について、ある種の期待が込められている。
「ONE PIECE FAN LETTER」では、少女があこがれのナミに宛てて書いた手紙を手渡すことが目標になっていて、これを実現するために少女は様々なアクションを積み重ねていく。
しかし、物語の世界は主人公の期待を裏切るリアクションを返す。ここから作品の面白さが生まれるのだが、このアクションとリアクションのギャップが次のアクションの引き金となり、それに対して再びリアクションがあって、物語は展開していく。
少女のアクションとリアクション
「ONE PIECE FAN LETTER」で主人公の少女(名前は明示されていない)が目標に向かって起こすアクションとその結果のリアクション。これらが次々に繰り返されることで、生み出される両者のギャップが徐々に大きくなり、それに応じて物語も大きく展開していく。
その妙の一端を見てみると、
少女のアクション(上段)とリアクション(下段)
あこがれのナミに手紙を書き、手渡すために出かけようとする
家族に配達を手伝えと言われ、外出を邪魔される
ナミたちが来ると予想する場所に向けて移動を開始する
普段からは想像できないほどに道が混雑してる
混んだ道を避けるため「プランB」だと他の道へ行こうとする
二人組に突き飛ばされ、混んだ道に巻き込まれる
誰かに手を踏まれ、文句を言おうとする
手を踏んだ海兵に逆に文句を言われる
知り合いの海兵に見つかりそうになり、とっさに隠れる
そのときに手紙を落としてしまい、海兵に間違って拾われる
アドバイスに従い、酒場で「とりあえず水」という
「ガキは帰れ!」と拒否される
酒場でこっそり海兵のカバンから手紙を取り返す
間違って海軍の極秘資料の方を手に取ってしまう
「麦わらの一味集結」のアナウンスを聞き「ナミに会える!」と外に出る
そこにいたのは偽物の麦わら一味だった(「どこだぁ~!」)
海軍と海賊の乱戦の中、それでも目的地へ向かう
海賊につかまり、人質になりかける
海兵に助けられ、お礼を言おうとする
助けてくれたのは、会いたくなかった知り合いの海兵だった!
「秘密の抜け道を教えるから見逃して欲しい」と海兵に取引を持ち掛ける
拒否されて追われる(捕まったら家に連れ戻される)
裏道を通り抜けようとする
巨大な昆虫に出くわして襲われ、逃げる
ナミの乗る船が見え、ついに会えると走り出す
海兵につかまり、地面にたたき伏せられる(「路傍の石は、、、」)
ざっとこんな感じだ。これを見ると、主人公の少女が目標達成に向けて一途に行動していることがわかるし、このアクションの繰り返しで物語が展開していくことが理解できると思う。
そしてクライマックスへ
物語のクライマックスは、主人公の少女が海軍の秘密兵器の始動を防ごうとあがくところだ。そして、このシーンだけはアクションとリアクションが少女の期待と一致しているが、その後に少女に訪れる幸運は彼女の予想にはないものだった。
少女は極秘資料に見せかけた自分の手紙を手に取り、それを破り捨てることで海兵たちをだまそうとする。この行動は期待通りの効果を生んだが、ナミに手渡すはずだった手紙を破るのは少女の目標が失われることでもある。
しかし、少女はそれを実行した。そして予期せぬ幸運が訪れる。
少女はあこがれのナミの姿を目にすることができた。これは単なる偶然が重なって生み出された結果のように思えるが、彼女が行動しなければこの出会いは起こりえなかった。
これは少女のナミへの強い想いと果敢な行動力が成し遂げた必然だ。彼女はこの瞬間を生涯忘れないだろう。
手渡せなかった手紙とこの日の大冒険。それは彼女の大切な宝物になった。
彼女はこれから何度もこの日の出来事を振り返り、あの奇跡のような邂逅を思い出すに違いない。そして、変わらぬナミへのあこがれを胸に、これからも毎日を強く生きていくのだ。