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日々日々

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1日(なるべく?)1エッセイ。思うこと考えることを綴っています
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#ショートストーリー

ボクサー Man of La Mancha

セルフレジに向かってシャドーボクシングしているおっさんを見かけた。 混雑した店の中の一台に冴えない風貌のおっさん、 いやニイサンは軽快なパンチを繰り出していて まわりの皆は見て見ないふり。苛々。ひそひそ。 かくいうわたしもぎょっとして二度見してしまい、ヤバいな、 あかんあかん、いや、そんなん見たり思ったりすることがそもそも失礼や。 と、思いなおし己の用を済まし立ち去ったのだが、 華麗なファイトは頭を離れなかった。 帰り道も。その後数日も。   あれは吉田戦車のしいたけやったん

365歩 どうも、人です

夜道を歩いていたら背後に気配を感じた。 思わず振り返ると後方すこしとおくに人影がゆらゆら。 竦んでしまった。 暗い道だったから。 影には伝わったみたい。 声が来た。 「あの、いや、怪しい者じゃないですよ。ないですからね」 「ないですからね」に“💦💦”がめちゃめちゃ見えるような声と言い方。 酔った知らないおじさんだったみたい。 謝った。心の中で。 謝りながら、でも、なのに、なんだか怖さが抜けず、足早に歩いた。いや、歩いてしまった。 ごめんね。ありがとう。   数日後、昼前、朝、

まっすぐなコーヒー 或いはしあわせについて

パン屋さんのイートインというか、 ブーランジェリーやらベーカリーというような店も好きだがただただ「パン屋さん」みたいな店ででも喫茶も出来て若い人は勿論年配の方々がコーヒーと新聞を楽しんだりお喋りに花を咲かせていて皆自由で干渉もしないし意識もし合わないしみたいな店がわたしは好きで。 自由な皆の傍らで職人さんが黙々とパン生地を捏ねたり焼いたり淡々と自分の仕事をされている決してきれいなんかじゃない作業着姿で淡々とというのが静かに真っ直ぐな気持ちになる。 そんな店で飲むコーヒーは美

アリクイと名月とさんま

最寄り駅ですれ違った人の鞄にアリクイのぬいぐるみが付けられていたから二度見した。 思い出したのは夜のことだった。   なんでアリクイやったんやろ。 アリクイってどこにおる動物やったっけ。 アリクイ。アンツイーター。 めっちゃ強いプロレスラーみたいな名前やな。虎ハンター的な。関係ない。   なぜちいかわではなくおぱんちゅうさぎでもなくサメでもなくアリクイだったのか。 余計なお世話である。  ただアリクイだっただけ。 アリクイが好きなのかもしれないしたまたまなのかもしれない。 意

いい日

きのう昼走って駆け込み「ちょっとだけ休憩を」と思った出先のカフェで、 よし一息つけたと立ち上がろうとしたら隣の席に年配の上品なご婦人が座られた。 目が合ったのでお互いどちらからともなく「ふふふ。どうも」なんて笑い合う。 ふと見ると。 彼女の羽織っておられたカーディガンの下のTシャツの柄がE.T.だった。 自転車で月夜を飛ぶあのシーン。 あの夜空の色。 自転車の2人。 いや、2人という云い方は正しいかわからへんが。 思った。 ああなんか人間ってええな本当にええね

一円玉と傲慢と一瞬

先日わたしは一円玉を拾って届けた。 一円玉はわたしのものでもご婦人のものでもなかったからレジの人に渡した。 スーパー的なところで荷詰めをしていたら知らないご婦人がいきなり声をかけてきたのだ。 「それ、私のとちゃうよねえ?」 床に落ちてた。 「え! 私のんでもない! 届けますね」   一円は一円だからこんな言葉もよく言われる。 「たかが一円されど一円」「一円を笑うものは一円に泣く」 でも一円が一円だからそう思うとか扱うのは一円に対して失礼だよなあなんて、今書きながらふと思ったの

列と雨と晴 新 蜘蛛の糸

その朝、クソ雨の中を早足で向かうともう列が出来ていたから冷や汗が出た。わたしが最後尾、最後の一人だったから。危なかった!   病院へ向かう送迎車に乗るための列なのだ。 かなり不便な場所にあるそこにここ2週間毎日通っていた・いる。 路線バスを使えばいい。送迎バスは陰気だ。そんなこと言ってはいけない。 でも滅入る。しかも暑い。ドライバーも感じが悪い。いやそれも仕方がない。 タダで送ってくれる。しかも早い。 でも8人しか乗れない。 9人居たら? 最後の一人は放っていかれる。 それが

場所と人と気持ち ある街のたこ焼き屋台から

駅前ビルの横で屋台の店主が客に言うのを耳にした。 「僕らみたいなんはもう要らんのですよ」 数か月後駅前はとてもきれいになり屋台はなくなる。   「大阪人の家って一家に一台たこ焼き機があるんでしょ」 「大阪に来たらたこ焼き食べんと!」 大谷がたこ焼きが好きと言ったら多くの人が「へえー!!」 とか書いていたらこのタイミングで築地銀だこのニュースも知る。 その裏で大阪のなんてことない地域の屋台のたこ焼き屋はなくなる。   「じゃない方」に目が行く方かもしれない。 でも「じゃない方」

フリマとポケット 仕事といい仕事

マーケットの語源はラテン語、商品や商うという意味らしい。 バザーの語源はバザールでイスラム語だったかペルシア語だったか、 市場だとか物の値段や価値が決まる場所という意味らしい。 つくったりあつめたりあつまってひとつの場所でそれらを売るというイベントはどこかしらでいつもおおきなものからちいさなものまでまあ行われているわけであなたもよく行くかもしれない。 わたしも通りがかると覗くし時折出向きもする。 そこは世界だと思う。   例えば「手作りフリマ」的なやつには かわいいものや個

ビタミン 花と言葉の力

お世話になっている方のお祝いにフラワーアレンジメントを買った。 なんてことのない店で買ったのだが会計をしてくれた女子は感じがよかった。 花を整えラッピングしてくれた初老の男性は渡してくれながら言った。 「ありがとう。いってらっしゃい」 歩き出してからも耳に胸に残った。   その一言が。   コンビニで海外の方? でも日本語の流暢な方が、言っていた。 会話の内容は聞いていないが、 店員さんがなにかを間違い、 それ咎めるのではないが、和ますために言ったような一言だったみたい。  

狸の豆腐 職人、仕事、場所、気持ち

豆腐屋の話をする。 通い出したきっかけはミーハー極まりない。 某江戸戯作者の名を商品名とした豆腐などがあると知ったからだ。   若くないけれど若者が来るのが珍しいのか。 御店主に覚えられて、たまにオマケもいただく。 御店主は顔付きも手付きも「The 職人」だ。 狸的な雰囲気を感じたりもする。 悪い意味での狸じゃない。 見た目がとかでもない。 なんというか長年生きてる狸みたいな。 『平成狸合戦ぽんぽこ』の長老狸的なね。 飄々としているのだけれど、 その手や皺や顔とかが、ああ、職

信号 灯 水槽

夜のロードサイドにぼんやり光るそこにはあたたかみがある。 けれどどこかしんとした怖さや寒さのようなものも感じるのはわたしだけかな。 人が思い思いの買い物目的で寄る場所、人工的な灯りと機械的な雰囲気、 でも人が居る24時間ずっとあいているその場所に。   しばらく臥せっている間に、 以前書いた改装中にもロゴが光っていてたコンビニが再開していた。 日曜の夜、すこし歩いて行くと青白い灯りに吸い寄せられるように人が入っていくのが見えた。   水槽みたい。   と、ぼんやり思ったのは赤

走る 嘘みたいなほんとのエイプリルフール

朝から外が騒がしい。 ここさいきん朝型のわたしはばりばりの仕事モードだったのだが 出てそちらの方まで走って行った。 小学生だかそれくらいの男の子たちがわあわあ言うてる。 どっかの家の犬が逃げたのだと。知らんがな。 でも口からは「そうなん?」が出て、 しかも誰だか知らない近所の子なんか近くはないが近い公園に遊びに来てたのかわからん子らに言うてしもた。 「探そか。どっちに逃げたん?」 「あっち! 坂走っていった!」 「走っていったんや(笑)」 「行ってみよ!」 「行こ!」 お互い

盛り合わせ 盛り合わせてほしい人とほしくない人

コロナ後からかな。 スーパーの揚げ物でもパン屋のパンでも ひとつひとつ個包装がされていることって、多くない? 「個包装は環境に悪い」などと言われている一方で。 環境問題は勿論だが、「面倒臭いやろなー」と思う。 清潔感はあるし保たれる。でも、人手が要るよなあ、大変やんなあ、って。 それ以外のことは想像したこともなかった。   高齢女性がスーパーの揚げ物コーナーの前に佇んでいた。 並んでいるパックと、通りすがろうとするわたしの顔を、交互にめっちゃ見る。 来るぞ、と思った。 「これ