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鉄の因果、死にきれぬキミ

 平沢進の企画アルバム「突弦変異」を初めて聴いた。2010年に発売されたアルバムである。彼がP-MODELというバンドをやっていた頃の曲が、10曲ほどアレンジされて収録されている。

CDジャケット


 初聴…といいつつ、このアルバムに入っている曲は、一度はどこかしらで聴いたことがある曲ばかり。というのも、最近の平沢のライブでは、この「突弦変異」からの選曲がとても多いのだ。
 だから、ある曲を聞けばライブの戦闘シーン(平沢は物語仕立てのライブもやっているのだ)が浮かび上がり、またある曲はついこの間のライブで目の前で演奏された曲で、平沢の幻像が目の前に召喚される…。
 しかし、歌詞カードを読みながら聴いているため「ライブではただただ盛り上がっていたけれど、こんな面白い歌詞だったんだ!」「この歌詞、ヒト科を勇気づけるようで沁みるなあ…」などと新しい発見も色々あった。盛り上がりつつ、曲に聴き入る。最高。

 単純に盛り上がったとか、歌詞に感動したとか、そういうベクトルで刺さらなかったからこそ、最も印象に残った曲もできた。
 それが、M6の「GOES ON GHOST」。P-MODEL5枚目のオリジナルアルバム「Another Game」に収録されている同名曲がアレンジされたものだ。私は原曲の方の、なんともいえず宙ぶらりんな雰囲気が好きで、よく聴いている。

 アレンジが施されたGOES ON GHOSTは、洗練された雰囲気をまとっていた。川面の煌めきのようなピアノの音がたまらない。平沢ソロで多用されるアジア風の「イーヤイヤ」が、洗練に拍車をかける。
 さらに、平沢のソロ曲「広場で」のメロディーラインが間奏に差し込まれている。ただでさえ叙情的な「広場で」のメロディーは、GOES ON GHOSTと化学反応を起こして、黄金色に輝く宮殿を想起させた。

 しかし、原曲のあのなんとも言えない「午前3時」感、宙ぶらりん感もまた残っていた。歌詞も、3番の歌詞が1番の歌詞と同じか2番の歌詞と同じか、という違いだけで、原曲と変わっていない。
 改めて歌詞を読んで、おや、と思った部分もできた。「鉄の因果」ってなんだ?
 因果。前に行われた行為が自分の元にかえってくる。では、「鉄」は何を指すのだろう?何かの象徴だろうか?すごくかたい、確固たる因果なことは分かる。しかし、それでも鉄だから、川の中にいたら錆びてしまうのだろうか?この歌は錆び錆びな人の歌なのか…?
 見た目は錆びていて、目も当てられないほどでも、中身はとても溶けやしないほど頑丈な人の歌だろうか。だから歌詞にある通り、「死にきれぬキミ」なのだろうか。

 平沢に出会って3年半、Xやライブを通して、たくさんその思想の源流に触れてきた。繰り返し言われる「ヒト科はスゴい」は、もはや私の中にすりこまれている。
 しかし、まだまだ分からない平沢がたくさんある。そんなことを、GOES ON GHOSTを聴いて思い知った。
 もしかしたら、「死にきれぬキミ」は、ある意味では私なのかもしれない。高2の秋から平沢を追う過程で、頑丈な鉄のように芯となる考えが生まれてきて、どんなに個性を殺さなければいけない環境下でも、ある視点から言い換えるならば錆び錆びな私でも、平沢という軸ができてしまっているから、死にきれない。…みたいな?

 1曲に関して、ここまで自分ごととしてじっくり考えたのは、久しぶりだ。
 2回目以降聴くことで見えてくる発見もあると思うから、また「突弦変異」をじっくり聴き込みたい。そして色々、自分に絡めて考えてみたい。特に今回密かに歌詞に疑問を持っていたもう1つの曲「LEAK」について…。

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