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いざ幕切り期待のイタリアへ

「ただ始まりの幕を切るキミが居た」

https://m.youtube.com/watch?v=wHZmpB3egGE
 
 平沢進という音楽家の曲「現象の花の秘密」の一節だ。曲調とも相まって、この歌詞を反芻するとなんとも開放的な気持ちになる。平沢のライブでは実際にチェーンソーで「幕」を切りながら演奏されたという面白いエピソードもあるが、今回するのはその話じゃない。

 この歌詞を読むと、思い出す芸術家がいるのだ。
 その名も、ルーチョ・フォンタナ。大原美術館で始めて彼の作品《空間概念 期待》を見た時、「あ、現象の花の秘密だ」と感じた。
 額縁に入れられた布に、3本の切れ目。それだけなのだが、このシンプルな作品を前に、さまざまな想像を巡らすことができる。切れ目は、こちらに訴えかけるようだ。
 さあ、燻っているお前のその幕を切れ、さすれば期待は開けん、みたいな…。

 しかし実際には、覚えていたのは作品のインパクトだけで、ルーチョ・フォンタナという名前も作品名も忘れていたのだけれど。
 ふと目に止まった特別展ポスターを見て、私はすぐに気づいた。あの作品だ!

https://www.city.fukuyama.hiroshima.jp/site/fukuyama-museum/325075.html

 その特別展とは、広島県福山市のふくやま美術館で6/2(日)まで行われた「イタリアと日本の前衛ー20世紀の日伊交流」。 
 ポスターも素敵だし、何より前衛芸術が大好き。これは見にいくしかない、ということで福山へ!

 福山城のすぐそばにある、ふくやま美術館。

 早速展示の感想を述べるならば、終始大興奮、思慮の海を揺蕩いながら鑑賞していた。
 まず、展示のセンスがすごい!今回の展示は日本とイタリアの画家の作品のみが展示されていたのだが、作品名とか製作者とかを明記するパネル、そのパネルのアンダーラインが、作品によって、それぞれ日本の国旗柄とイタリアの国旗柄になっていた。とても分かりやすかったし、なんてセンスなんだ!と感激しながら見ていた。

 次に、展示作品が豪華!ジャコモ・バッラ、ウンベルト・ボッチョーニといった「未来派」の面々の作品から、前述のルーチョ・フォンタナのものまであった。中には、ルーチョ・フォンタナと瀧口修造が交わし合っていた手紙まで!両者、交流あったんだ…と驚かされるばかりだった。

 そして、ここでも始まりの幕を切る《空間概念 期待》に出会うことができた。同じ作品名でも、大原美術館とはまた別の、少しミニサイズのもの。
 なんだか、幕は大層なものじゃなくても、小さいところからでも開けるんだ、そういったことを考えた。

 その他にもいろいろ驚きや発見があった。展覧会中に書き殴ったメモを抜粋する↓

・小学校の壁にありそう
・うずまいてるねえ〜
・1年後。ちょっと仲良くなってる!
・表面がぼこぼこだ。砂漠の中の虫
・乳みたいなだな アンドロイド乳
・平凡な暮らしの、生きている証みたいだ ところどころ引っかき傷のようなでこぼこ
・寺?百重の塔
・逆おけつ
・宇宙の鉱山
・また涙だ、でも心という枠に収まっている
・太陽がめっちゃ顔出す。マヤ文明のようでもある
・細胞という海のまんなかに 突如核という名の島
・連続する乳の残像
・飛び跳ねるシャチのよう
・円は閉じ込められたのだ でも咲く時を待ってる

 (ろくなメモじゃない…)

 今回分かったことは、イタリア美術のエネルギーは凄いということだ。あの国の陽気なイメージの通り、未来派をはじめとして、迫り来るように作品からエネルギーを感じる。そして、そのイタリアから影響を受けた日本の画家もまた、迫り来るような作品をつくるのだ。
 そして、私はルーチョ・フォンタナが好きだということも、改めて分かった。今回は、ちゃんと名前も覚えた。またどこかの展覧会で彼の名前を見つけたら、一目散にその作品のもとに行くだろう。

 燻っているその幕を切る。そうすれば、「イタリア」という期待が、切れ目から押し寄せてくる。 
 そんなことを夢見ながら、今、始まりの幕を切る。

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