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番外編)心に残るナース③

心の残るナースと書くのは畏れ多いでですが、私が入職した時のT看護部長。
実は、在職中は入職時にお話をいただいたり、研修の時にお話をいただいたりであまり接点はありませんでした。(申し訳ありません。記憶に残っていませんでした。)

特別な関わりはなく退職したのですが、退職してから15年後にふとしたことでお会いする機会がありました。

そこで初めて、Tさん(看護部長はやめてねと言われたので)の新人の時の話を伺いました。
「もう、45年以上も前のことよ。」と言いながら、3時間以上も楽しそうに話すTさんは輝いていました。

当時、戦後で国立病院は働く人も備品も全て国のもの。国民の税金で成り立っているということを強く言われていたそうです。

そしてある時、皇室の方が病院へご訪問にいらしたそうです。
いつも通りに忙しく廊下を行ったり来たり、小走りに動き回っていた時に、慌てて患者様に持っていく尿器にカバーを被せずに持って歩いていたところ声をかけられたそうです。

「ごめんなさい、お急ぎのところ。他の方の目もあるでしょうから、何か布などカバーを被せられないかしら?」
自分の行動をハッと振り返ったそうです。

自分しか目が入っていなかったことに恥ずかしさと、そんなことを言わせてしまった後悔があったそうです。

その後、少し時間があった時に、まだいらしたその皇室の方は、もう一度声をかけてくださったそうです。

「毎日お忙しいでしょうね。病院にはたくさんの備品があることでしょう。その一つ一つを大切にお使いくださいね。物を大切にされることは、人を大切にすることになりますよ。」

そう言われてから、改めて小さなものも大切に無駄にせずに扱ってきたこと。自分が働く施設に傷ひとつ付けてはいけない、患者様が使うものは大切に扱わなければいけないと思ってきたこと。
そうすると、自然に、人に対して優しく穏やかに接することができるようになったことをお話しくださいました。

私が、クリニックの管理業務に携わっていることを知ったTさんは、是非、職員の方達に、物を大切にすることを伝えていってくださいと言われました。
たくさんの物に恵まれ、不自由のない時代だからこそ、自分の職場を大切に愛おしく思う気持ちは忘れないでほしいと。
その先には必ず患者様がいると。

廊下の壁紙に擦り傷を見つけたり、床にシミがあったり、ゴミが落ちていたり、掲示物が曲がっていたり、ドアにボールペンの汚れがあったり、机のネジが緩んでいたり。。。。こっそり手をかけることもあったり、こっそり囁いて修繕してもらったり、皆さんに協力を求めたりしてきました。

Tさん、どうされているでしょうか。職場を離れてからお聞きしたことは、私の人生に大切なものをいただきました。
看護師としてどうあるべきかの前に、人としてどうあるべきかを教えていただいた気がします。
日常の一つ一つを丁寧に過ごすことは、豊かな人生につながっていくことを思い出させていただきました。


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