19時過ぎ、上司の電話に気をつけろ。

定時をすこしすぎた頃、上司からの着信。
ももかさんはもう帰りました、って言ってほしかったな。うっかり取り次がれちゃったな。
「社長がももかさんと飲みたいって!」

ああ、やっぱり。
私の口をついたのは
「あーごめんなさい、仕事終わらなくて。また次の機会に…」
定型文と化した、なめらかな嘘。

ああ、これで何度目でしょう。
次こそは。次、こそは。その次、こそは。

いつからこんなにも自然に嘘がつけるようになってしまったのか。それが大人になるということなのか。

初めて嘘をついたのは、いつでしたか?
その嘘は、誰かのための嘘でしたか?
自分のための嘘でしたか?

そんなことを思ってみたけれど、私は自分が初めて嘘をついたときのことをこれっぽっちも覚えていない。

人間は、初めて嘘をつくときは罪悪感があるらしい。
でも、何度も何度も嘘を重ねていると、脳が麻痺して何も感じなくなっていくのだそうだ。
しかもその嘘が「誰かのため」という大義名分のもとだと、なおさら脳は「俺、いいことしてんだぜ!」と調子に乗るらしい。結局、誰かを喜ばせたい、誰かを傷つけたくないっていうのは、最終的に自分が可愛いからだったりするんだろうけどね。

ええ、そうです。
私がついたのは、単に私が可愛いからの嘘でした。ごめんなさい。なんの申し開きのしようもございません。

静かにパソコンをシャットダウンして、
社長のことなんてすっかり忘れて帰った私。
罪悪感、まだちょっとだけあるなぁ。
これを続けていると、申し訳ないという気持ちすら忘れてしまうのかもしれない。

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