文章練習のための感想文③
タイニー・タイニー・ハッピー/飛鳥井千砂
題名にもなっている、タイニー・タイニー・ハッピー(略してタニハピ)という名前のショッピングセンターが主な舞台とされていて、中に入っているお店とかは別段変わったところがあるわけではないのだけど行きたいと思わせる部分が一箇所ある。
正面入口を入るとすぐ目の前にもみの木に似た形の巨大な造木が現れる。高さは三階の床と同じくらい高く、その部分だけ吹き抜け構造になっている。この木がタニハピのシンボルツリーとして立っている。
これだけならただ大きいだけの木なのだが、この木は時期に合わせて装飾を変えて彩られているのだ。
冬ならば雪を表現して白いファーの様なものを施しスパンコールをちりばめ、角度によって銀色の光を放っているかのように見せたり。
春ならばほとんど白に近いものから赤に近いものなど、様々なピンク色のモールやファーで彩られていく。
他に夏、梅雨、秋、クリスマスや新年といったイベント毎にも変わっていくのだが、それは話してしまったら面白くない。
私は特に梅雨の時期の装飾が好きだ。「ウォータープルーフ」という題名の話で出てくるのだが、これがまた良い。
そこではウォータープルーフのマスカラについて話をしている場面がある。化粧品を買って広げていたら、間違ってウォータープルーフのものを買ってしまった。買った本人は使わないからともう一人の人物に渡し、よかったら使うか他の人にあげてと。
ウォータープルーフは、主に化粧品などでよく見かける名前だが、水に濡れても大丈夫とかそういった意味合いのものになる。海やプールに行くときに使ったり、運動をする時に使ったり。
そういった行動以外で、目元が濡れる場面はあるだろうか。予測してわかる場面が。
話はツリーに戻るが、きっと目の前で何気なくその装飾を見たら綺麗だと感じられるものであるはずなのに、キャラの心情と共に見ると、なんとも言えない苛立ちや悲しさに苛まれる。梅雨はそんな感じの装飾であった。是非これは目を閉じてイメージしながら読んで欲しい場面である。
他にカクテルの名前や意味についてであったり、周りのイメージによる自分自身の形成、長く見ているはずなのに慣れない天井、白とも黒ともつけられない曖昧な灰色。
自分自身が経験したことがあるわけではないのに、奇妙にもわかってしまう不思議な感覚。自分の皮膚や肉体に親しみ慣れて血管を泳いでいくこの文字に、この文章を書き紡いでいける飛鳥井千砂さんを尊敬して。
終わり。
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