【曲目解説】 組曲『魚とオレンジ』より「はなやぐ朝」 中田喜直 【大人向けコンサートプログラム】

組曲「魚とオレンジ」より「はなやぐ朝」

作曲:中田喜直 作詞:阪田寛夫

 「はなやぐ朝」は、中田喜直が手がけた組曲「魚とオレンジ」の、冒頭の一曲です。ある少女が思春期の恋愛を経て女性へと成長し、結婚から人生を見つめ、老いていく。女性の一生とこころの移ろいを、阪田寛夫の詩とともに全8曲を通して描いています。

 組曲「魚とオレンジ」における、それぞれの女ごころを綴った詩は、その向こう側で「自分を超える圧倒的な何ものかの力で、今までの自分ではなくなる時に直面する瞬間」を主題としています。自分を中心に生きている童話的な時間から、圧倒的なものによって生かされている神話的な時間への変わり目。そしてその瞬間に出会った時の「怖れ」と「歓び」を、ひとりの女性の人生の中で育まれていく「愛」という複雑多様な感情を通して描いているのです。

 「はなやぐ朝」は、「おさないわたし」が夢見ていた、想像のせかいの物語。レースカーテンが開けていくような、はじまりの予感を含んだピアノの音色が印象的な前奏ののち、コロラトゥーラの軽やかな高音が少女の胸の高鳴りをうたいあげます。
 さかなの目だまに対し、透き通ったビー玉に似た美しさと、少しの不気味さの両方を感じているかのように、ピアノが一瞬不思議な響きを奏でる場面も聴きどころのひとつです。

世界のあらゆるしがらみから解放されている、幼き日の童話的な時間。まばゆい希望に満ちた少女・少年時代は、そのまま永遠の瞬間として私たちの記憶の奥底、そしてこころの内に存在し続けているのかもしれません。

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