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歯科衛生士さんとの戦い〜忌まわしきプラーク率〜

皆さん、歯医者って行っておられますか。
歯の点検ってやつ。

チャンヌは幼い頃歯医者でおもくそ口を開けられて唇の両端が切れた経験から、元々歯医者への抵抗感が強い。だから、虫歯ができたときくらいしか歯医者に行くことがなかった。

しかし齢も40手前になったところでその必要性を感じるようになり、数年前から3ヶ月に一度、歯の点検ってやつに行くようにしている。

決して好きではないが、治療よりは痛みも少ないので「時間が取られてめんどくさい」という理由以外では拒否する理由はない。

そんな歯の点検に、先日行ってきた。
かかりつけの歯医者は近所にあり、自転車であれば1分程度で到着できるところが気に入っている。外観も内観も清潔感があって良い。るいさんも次男も、同じ歯医者に通っている。
(ちなみに長男は歯磨きをしなくても全く虫歯にならない特殊な口腔を持って生まれた男なので歯医者には通っていない)

しかし、歯の点検は治療ほど嫌悪感はないにしても地味〜に憂鬱な気分になる。
なぜなら、衛生士さんとの戦いのような気持ちになるからだ。

毎度きちんと歯磨きをしてから行くのに、プラーク値(歯の汚れの量を数値化したもの)がものすごい高数値をたたきだす。
そして「もう少しお手入れ頑張ってみましょう」と言われるのだ。

「またや…また負けた…!!!」

と、毎度肩を落としながら歯医者を後にすることになる。

さぁ、今回は衛生士さんに負けてはならぬと謎の対抗意識を燃やし、かなり入念に歯磨きをした。20分くらい磨いた。普通の歯ブラシと、細かいところ用歯ブラシの2本立てで磨いた。更には薬用ハミガキ・クリアクリーンの粒子にも働いてもらって、これ以上磨けないというくらいまで磨いた。

今日こそはチャンヌの勝利だ。そう息巻いて歯医者に向かった。

かつて、チャンヌがこの歯医者に通い始めた頃は爆裂に待ち時間があり、「予約の意味なくね」状態だったのだが近頃は保険証と診察券を受付に出した10秒後に名前が呼ばれる。逆になんか心配になる。

この日も待合のソファーに腰掛けた瞬間に呼ばれた。むしろX見たりしたかったのに。

担当の(多分、いつも同じ方だと思う)衛生士さんに呼ばれて後をついていく。

他の衛生士さんも口々に「こんにちはー」「こんにちはー」と言ってくれるので、チャンヌは全員に「こんにちはぁ」「こんにちはぁ」と返しながら歩き、こんにちは人形と化していた。

しかしこの歯科医院だけかもしれないが(他を知らないというか記憶にない)、衛生士さんって若い女性が多いのだが理由はあるのだろうか。チャンヌが42年かけて42歳になったように、衛生士さんたちも年を重ねているはずだ。しかしここの衛生士さんたちは一向に平均年齢が上がらない。だいたい毎年、毎回、27歳くらいのお姉さんばかりだ。

ちなみに衛生士さんたちはポニーテールにシュシュ率が異様に高い。振り向く度にAKBのあの曲が流れそうなお姉さん方である。シュシュがバナナクリップの場合もある。ちなみにまつエク率も激高だ。こちとら加齢によりまつ毛もスカスカである。

席に案内され、紙のエプロンをつけられる。
この紙のエプロンが、チャンヌにとっての第一の敵なのだ。

この紙エプロン、グレーのTシャツ並に濡れたらバレる素材なんである。
そんな紙エプロンをつけるやいなや、「うがい薬です」と小さな紙コップを渡してくる。

「挑戦状か…!!!」

ちなみにこれまでチャンヌはこの戦いに、文字通り全敗している。どんなに気をつけてうがいをしても、見ると紙エプロンがビショビショなのだ。

ビショビショの紙エプロンをかけたアラフォー女はその後なんとも惨めな気持ちで衛生士さんと向き合う羽目になる。

衛生士さんは何も言わないが、その無言こそが勝利の証。「うわ、ビッショビショやん」って絶対思ってるはずだ。

左横からウィーンと出てくるうがいマシーン。

「この野郎…!お前には負けぬ…!!」

見栄を張ってうがいマシーンと距離を取るから、うがいする時に口から水をこぼすのではないか。そう思ったチャンヌは、今回思い切った。うがいマシーンとの距離を極力縮めたのだ。もううがいマシーンと一体化するくらいの勢いで。

水を口に含み、吐き出す。ここですぐエプロンを確認してはいけない。口についている水滴がエプロンに落ちる可能性があるからだ。

そしてチャンヌは今回、もうひとつ新たな試みに踏み切った。備え付けのティッシュを使うという作戦だ。このティッシュ、使って良いのかわからずにいた。多分良いんだろうけど、使って良いと言われてもいないし、一体使うとしたら何に?「え、そんなことでティッシュ使うん」って思われないかな…などが気になってこれまで手を出せずにいたのだ。

しかし、今回は何としてもこのエプロンの戦いに勝ちたい。その為には使途不明ティッシュすら使いたいわけである。

すぐさまティッシュを口に当てた。よし。多分これでいけた。これ勝った。そうしてそっとエプロンを確認する。

…濡れてない!!!

これだ、この作戦だ。今後もこれでいく。そうほくそ笑みながらティッシュを「ゴミ箱」と書いてあるカップに入れた。しかしカップが小さくてなんかティッシュが出てくる。ガシガシ押し込んだ。

その後、衛生士さんがやってきた。いよいよ戦いの時。さっきのエプロンの戦いはあくまでも序章にすぎない。

衛生士さんはなんか、口を広げる器具みたいなんを持ってきてチャンヌの口の左右に入れ、両端に引っ張る。もうひとりの衛生士さんが写真を撮った。

なんかもう、こう、なんていうかな、どうも屈辱感がある。さらに屈辱感は続く。

ひとりの衛生士さんがチャンヌの歯茎をチクチク刺しながらなぞの数字を連呼してゆく。
「右側1番2,3です、2番2です」みたいな感じだったと思う。それに対しもうひとりの衛生士さんが「はいっ。はいっ」といいながら何かに記入か何かしているのだろう。

歯の表と裏、それが上下あるわけだから結構な情報量であるにも関わらず全部に「右側1番2,3です、2番2です」と「です」をつける丁寧さに感心する。しかしこれ、地味に痛い。チクチク刺されてるんだと思う。マジ痛い。

途中から猛烈に気になり始めたことがあった。通常「口を"開けて"ください」と言うはずだが、この衛生士さん「口を"開(あ)いて"ください」と言う。え、めっちゃ変わってる。どこかの方言なのかな?すごい気になる。どうしても気になる。

それが終わると、記入担当の衛生士さんは消えた。「あいてください」の衛生士さんが「鏡で出血してるとこ見ますね」と言って鏡を使ってくまなくチャンヌの口内を見回す。すげぇ血の味するからだいぶ出血してるのだけはわかる。でもそりゃああんだけチクチク刺しゃあ血も出るだろうよ、刺しといて出血してるか見るってなかなかサディスティックである。

時々「はい、楽にしてください」からの「あいてください」の下りが何度もあり、その度にチャンヌの心には波が押し寄せた。うわぁ。気になるわぁ。出身とか聞きたいわぁ。

そんなチャンヌの気持ちもよそに、衛生士さんの出血チェックも終了した。戦いの終わりだ。しかしまだその勝敗はわかっていない。いよいよここからなのだ。

モニターに映し出されたチャンヌの歯。
その下には歯を模した表があり、赤く塗りつぶされた箇所と白い箇所がある。赤い部分はプラーク(歯垢)がついているところらしい。

前回と今回の2回分が映し出されている。
問題は数値なのである。出血率とプラーク率が数値として出ている。

前回は出血率30%、プラーク率に至ってはなんと81%と口内ほぼプラークですといった高数値でチャンヌは愕然とした。は?なんで?毎日歯磨きしてるし?来る前もめっちゃしてきたし?それで81%ってなに?????みんなどうしてるの?歯全部抜いてキッチンハイターとか食洗機とかかけてたりする?

当然ながら前回は「お手入れもっと頑張ってくださいね」と衛生士さんに言われての大敗であった。もう歯の点検とか嫌や…。涙目で帰宅したのを覚えている。

前回の屈辱的な敗北は二度と味わいたくない。そんなチャンヌが20分歯磨きをしてから挑んだ今回の戦。

さて、その数値が今暴かれる…!!!

出血率38%、プラーク率67%

勝ったぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!
81→67(-14)
14も下がっている!14も。
チャンヌの努力が実ったのだ。
67ってまだ全然高数値なんだけど、いや、なんかこれは勝ってる感じする。
心の中の小さなチャンヌがめっちゃデカイ声で「っっっしゃあぁぁあァァァア!!!!」ってガッツポーズしている。

…しかし問題はここからだった。

「汚れはそんなにないんですけど、出血率が前回より上がっていて…」

むむ…っ!?

30%→38%(+8)

どうやらチャンヌは口の中のおおよそ4割から血を出している女らしい。

衛生士さんいわく「汚れがおおく付いていたりすると出血の原因になるので…」とのこと。

なぁぁ〜〜〜〜〜〜〜にぃ〜〜〜〜〜!?
やっちまったな!!!!!!

実質的な敗北ではないか。
「今日はたまたまそんな汚れついてなかったけど普段結構汚れてるっぽいよ?」ってことか…。

またもや敗北。まさかの。
これは毎日20分歯を磨くべきなのか?
それとも1時間に1回磨けばましになるのか?

「フロスとかされたことあります?
毎日は大変でも、2〜3日に1回フロスかけてみるのがオススメですよ」

フロス…ねぇ。
欧米では歯磨きと同じくらい大切とされていると聞いたこともある。
ただあれ、なんか怖いんだよね。一緒に歯が引っこ抜けんじゃないかって気がして。

「じゃ、フロスもしておきますね」

と、衛生士さんはチャンヌの椅子を再び倒した。プラスを指にくるくる巻きつけて、ピーンと張る。必殺仕事人のBGMが似合う。

そうしてチャンヌの歯間にフロスをぶっ込み、キリキリと動かした。うわぁ…。変な感じ。でも仕方ない、我は敗者なのだ。歯医者だけに。とか恥ずかしいダジャレが思い浮かんでゲンナリする。

フロスに歯が引っかかって抜けそうな感覚に耐える。万が一抜けてもここは歯医者だから治してもらえるだろうし心配ないか。

フロス、歯磨き、歯石取りが終わった。

「はい、これでおしまいです。
こちら今日の検査結果です」

と紙を渡される。チャンヌの歯の写真に、プリクラの落書きみたいな感じで「フロスおすすめです☆彡」と書かれている。「友情forever☆彡」みたいな感じで。

フロスかぁ…。できっかなぁ。
買ってもやらないだろうなぁ。
でも一応買っとくか。このあとドンキ行くし。

席を立ち、またもや他の衛生士さんたちにも「お疲れ様でした〜」「お疲れ様でした〜」と声をかけられ、「ありがとございましたぁ」人形になりながら待合に出た。

またもや敗北かぁ。
勝てる人おんの?
てか衛生士さんはプラーク率何%なん?
出血ゼロなん?

なんだか八つ当たりにも似た気持ちで歯医者を後にした。

ちなみにフロスは買い忘れた。




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