【なりきり日記】ぼくは自てん車
ぼくは、次男ちゃんの自てん車だ。色はピンク。車りんやかごに、ピンクと黒のほしがたのかざりがついている。
ぼくがこの家にきたのは、3か月くらい前のこと。
次男ちゃんの8さいのたん生日に、たん生日プレゼントとしてやってきた。
家のちかくの自てん車やさんにならんでいたぼくを、次男ちゃんが見つけてくれたんだ。
自てん車やさんにはぼくのほかにも、たくさんの自てん車がならんでいて、みんな、のりぬしさんにえらんでもらえるのをまっている。
赤や黒、青にむらさき。いろんな色の自てん車があって、「さいきんの人気の色」なんていうのを、自てん車やのおじさんは、次男ちゃんとお母さんたちにせつめいしていた。
そんな中で、次男ちゃんはぼくを見つけるとすぐに言ったんだ。
「これがいい!」
ぼくはうれしかった。
自てん車やのおじさんによれば、ぼくのピンク色は「さいきんの人気の色」ではないし、さらにはピンク色をえらぶ人が毎年へっていているから、作られる数も少なくなっているらしい。
だけど、次男ちゃんは
「ぜったいこれ!ぜったいピンクがいい!」
と、なんども言ってくれた。
そうしてぼくは次男ちゃんの家のなかまになった。それからぼくは、ときどき次男ちゃんをサドルにのせて、お母さんとかいものに行ったり、としょかんに行ったりしている。
このあいだ、ぼくははじめて次男ちゃんのスポーツ教室へ行った。
いつもスポーツ教室へは、車で行っているけど、その日はうんてんしてくれるお母さんが家にいなかったんだ。
だから、もうひとりのお母さんが、自てん車で次男ちゃんとスポーツ教室に行くことになった。
次男ちゃんは、ぼくにのれることをよろこんでくれた。
そしていつも出かける時間より少し早く、家を出た。
スポーツ教室へは、さかみちからスタートした。それに、おうだんほどうがある十字ろで、人がたくさん歩いていた。
次男ちゃんは、まだまだ自てん車のうんてんになれていない。だから、人にぶつからないか、ころんだりしないか、お母さんはハラハラしていたみたいだった。次男ちゃんを先に走らせて、お母さんはうしろから「スピードおとして!」とか、「そこのみちの前で一回止まって!」なんていうふうに、声をかけていた。
さいしょの坂みちは、教室へのみちのなかでも一ばんきつくて、次男ちゃんはかなり大へんそうだった。ハンドルを持つ手がプルプルふるえて、ぼくは右に左に首をふりながらひっしにのぼった。
とちゅうで電ちゅうやガードレールにぶつかりそうになって、ぼくは何どもヒヤッとした。こわい、あぶない。だけど、なんとかぶつからずに走った。
少し行くと、みちが平らになってきた。これでちょっとは安心かな。次男ちゃんも、楽になったみたいで、こんどはスピードを上げた。みちはせまいし、よこには車が通るんだ。それに、ほかにも自てん車や走ってる人もたくさんいる。うしろから、「次男ちゃん、ゆっくり行って!」というお母さんの声がした。
マクドナルドやニトリのあたりまでやってきた。実はここらへんが一ばんきけん。たくさん車が出入りしていて、車が先に行くべきか、自てん車が先に行くべきか、はんだんがむずかしい。次男ちゃんは車がまってくれているのに止まっていたり、ぎゃくに車が行こうとしているのに自分が行こうとしたりして、とってもこわい。あんな車とぶつかったら、ぼくのいのちも次男ちゃんのいのちもあぶない。
なんとか一ばんのきけんゾーンをクリアした。あとは坂みちをのぼっていくだけだ。あと少し。次男ちゃんはこんなにぼくとお母さんがハラハラしているのに楽しそうだ。だけど、さかみちが長くて次男ちゃんはハァハァ言っている。がんばれ、あともうちょっとだ。ぼくも、がんばれ。なんとしても、ぶじに次男ちゃんを教室までつれていくんだ。
おうだんほどうが、さいごのとりで。ここも車がたくさんとおるんだ。でもここは、しんごうがあるからだいじょうぶ。次男ちゃんはしんごうが青になるまで待ってから、みちをわたった。
教室のあるとしょかんが見えてきた。よかった、ぶじだった。
次男ちゃんに押されてスロープをのぼりながら、ぼくはほっとため息をついた。お母さんも、やっととうちゃくして安心しているみたいだった。
こんな大ぼうけんをしてきたのに、次男ちゃんは元気だ。ちゅうりんじょうにぼくをとめるとかぎをかけ、次男ちゃんは教室に走っていった。ぼくはつかれたから、帰りまでここで休けいしているよ。いってらっしゃい。