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母の日に

今日届いたもんね
夜遅く母から電話があった
俺にはなあんもしてくれんもんと
去年は父が拗ねていたというので
今年の母の日には揃いの湯呑みを贈った
八年前 すでに収縮し始めていた母は
さらに話し振りが緩慢になっていて
何度も僕の声を聴き返しては
たまには顔出しに帰らんねと
かぼそい声でつぶやいた

今度はいつ帰るのかと
盆や正月にかかってきた電話が
いつからかなぜ帰らないに変わり
そのうちまったくかからなくなった
帰省を避けるほんとうの理由を知ってもなお
母はそれを自分のせいにして抱え込んだ
それでますます小さくなってしまったのか
今すぐ電話して誤解ば解かんかと
ふがいない兄が弟に叱りとばされたのは
三年前の母の日だ

ふいにカリヨンの鐘が鳴って
見上げると二人の天使が鐘を叩いていたのよ
そう切り出した女性の顔が浮かび
信じるとか信じないじゃない
見ちゃったんだからしょうがないよね
背を向けた彼女の青いワンピースから
光る二の腕だけが白い陽の中で戯れている

信じる強さより在るものの強さ
失うものにとりかこまれて
蒸した夜に煙草の煙だけが充満していく

(2004年頃? 母の日)


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