見出し画像

自転車

誰も
こんなところへ連れて来て欲しいなんて
頼んでいない
そっとして欲しいとは言わないが
知らないおしりは見たくもないのだ


自転車が言ったか言わないか
僕は知らない


僕のおしりは冷たいのだ
ひどい雨が上がった朝
いつもの街路樹の根元から
ふいに消えた僕の自転車

今頃どうしているのやら
街路樹昇り空に這い
地平を見渡し逍遥し
風に巻かれて翻り
南日本の干潟の上へ
墜落していやしないか

天輪を透かす後輪
陸地を睨むサドル
ダイナモは泥にまみれ
流す鉄まで塩辛い

これじゃまるで
亡骸のない墓標じゃないか

僕の空想は限りない
本当は
きっとどこかのガード下で
境遇の似た仲間たちと
カップ酒でも舐めているのだ
夜行列車の振動は
飽きること無い酒の肴で

もう自分のことなど忘れてくれと
せめて静かに朽ちさせてくれと
自転車が言ったか言わないか
誰も知らない

(2008年頃)

サポートの一部を誰かのサポートに繋げていけるのが理想です。途切れることなくー