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【人相学】『武者鑑』羽林頼家/若狭局/松下の禅尼/北条時頼

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『武者鑑 一名人相合 南伝二


羽林うりん頼家よりいへ
頼家よりいへは、 鎌倉かまくら二代の 将軍しやうぐんにて、頼朝よりとも總領そうれうなりけるが、やまひ によつて 舎弟おとうと 千旗せんはたぎみ西にし三十八国を ゆづり、御はたぎみへ 東二十八国を ゆづらんと、䂓定ぎぢやうある ところ外戚がいせき比企ひき義貟よしかずこれ不足ふそくとして 叛逆ほんぎやくおこす。よつて、頼家も 伊豆いづ修善しゆぜん寺へ おしこめられ、つひ北条ほうでうために 毒さつせられ給ふ。

より家、伊豆へ押篭られ給ひしより、人中にんちう白気はくき よこぐ。近臣きんしん おどろ きて、これ毒死どくしとげ給ふの 御さうなりといふ。頼家よりいへ これを まこととし給はざりしが、つひどくの為に そつし給ふも、佛所謂いはゆる 因欤いんか果欤くわか

※ 「羽林うりん頼家よりいへ」は、鎌倉幕府第二代将軍、源頼家みなもとのよりいえ。源頼朝の長男。
※ 「羽林うりん」は、羽林うりん大将軍たいしょうぐん近衛大将このえだいしょうの唐名。
※ 「舎弟おとうと千旗せんはたぎみ」は、千鶴せんつる御前ごぜんのことと思われます。伊豆国で流人生活を送っていた源頼朝が、伊東祐親すけちかの娘との間にもうけた男児。
※「御はたぎみ」は、源頼家が若狭局との間にもうけた女児。
※ 「そつし」は、身分の高い人が死ぬこと。そつす。


若狭局わかさのつぼね
つぼねは、比企ひき判官はんがん 義貟よしかずむすめ にて、より家に あいせられ、一幡君いちはたぎみめりしが、ちゞ 義貟よしかず若君わかぎみため謀叛むほんおこしけるに、早くも 露顕ろけんして、若君わかぎみを始め 一ぞくこと/\く 北条ほうでうの為に うたれ、又、頼家よりいへ伊豆いづおしこめられ給ふ。泣々なく/\ したがまゐらせしに、これすら また 北条ほうでうの毒しゆそつし給ふにぞ、あまとなりて 法臺ほうだいといひ、きみをはじめ 一ぞく菩提ぼだいとむら ひしとかや。

つぼねかほ満月まんげつのごとく、おとがひ  ゆたか にして、鼻梁びりやう 夫中に つらぬき、貴子きしうんで、大いに さかふの相なりしが、又、みゝ うすく、くちちいさく、こしほそくして うすかりしは、ひんつかさど るの さうなりしといへり。あたれるかな出家しゆつけひんきわめといへり。

※ 「義貟」は、平安時代末期から鎌倉時代初期の武将、比企ひき能員よしかず
※ 「若狭局わかさのつぼね」は、鎌倉幕府の有力御家人、比企能員の娘。


松下の禅尼ぜんに
禅尼ぜんには、秋田あきた城之介じやうのすけ 景盛かげもりむすめにて、時氏ときうぢしつ時頼ときより母堂ぼどうなり。さすが 時めく天下の 執権しつけん親人おやびととして、よく 倹約けんやくまもり、障子しやうじやぶれを みづかりて、質素しつそこゝろみちびこと古今こゝん美談びだんとなりて、人の よく ところなり。まことや、孟母もうぼに道をおしへしにも くらぶべし。

故に、時より よく 国を おさめ給ふに よりて、四海しかい一元いちげんして、北条ほうでう下知げちきくしかしながら禅尼ぜんに功積いさほしなり。

禅尼ぜんには、全身ぜんしん はだへ こまかにして、つめ長く とがり、むねひろくして、𦜝へそふかく、右の あしに 黒きあざありし。これ聡明そうめい たぐひなきこと、さう顕然けんぜんたり。

※ 「親人《おやびと》」は、親である人。親者人おやじゃひと
※ 「孟母もうぼに道をおしへし」は、孟母もうぼ三遷さんせんの教え。孟子の母が、子どもの教育に適した環境を選んで居所を三度移し変えたという故事(教育には環境が大切であるという教え、または、教育熱心な母親のたとえ)。
※ 「功積いさほし」のふりがな「いさほし」は、いさおし。功績がある、手柄があるの意。


北条ほうでう時頼ときより
時頼ときよりは、時まさ 五代の まごにして、北条ほうでう 九代の うち 泰時やすとき、時頼を 名将めいしやうしようせり。就中なかんづく時頼ときより智略ちりやくあり、威量ゐりやうあり。ことに、佛道に帰依きえ あつく、中にも 禅学ぜんがくしんじ、そう蘭渓らんけいとなし、入道して、さい明寺 道崇だうそうといふ。

かの 謡曲ゐうきよくに、時より 行脚あんぎやしてつね などは、附會ふくわいせつにして、その 徳行とくこうらしめんとの 所為わざなるべし。

よりは、つね陰隲いんとうを成す。故に、眼下がんかそのもんあり。人相論にんさうろんいはくまなこぜんなれば、おのづから こゝろあり。よりさうたゞ こゝろ より せうずと見へたり。

※ 「蘭渓らんけい」は、鎌倉中期の臨済宗の渡来僧、蘭渓らんけい道隆どうりゅう
※ 「陰隲いんとう」は、天がひそかに民を安んじ定めること。転じて、隠れて善行をほどこすこと。「騭」は定めるの意。



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