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昆布(こんぶ)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [5]

昆布こんぶ
和名わめう ヒロメ  一名 海布かいふ

これは、六月土用どようちうにして、つねることなし。おなじく、蝦夷ゑぞ松前まつまへ江刺えさし箱舘はこたちなどにもれり。小舟こふねり、かまち、水中すいちうしばらくありて、昆布こんぶかゝへこれにつられてうかむ。みな海底かいていいしいおひて、ながさ三四尺より十けんばかりのものあり。たま/\には、いしともにあぐるもあれども、十日ばかりにして、 おのづかはなる。ながさは よきほどりて、蝦夷ゑぞ松前まつまへ海濱かいひん砂上さじやううへ往来わうらいみちいたるまで、一日すこと、まこときりたつるのひまもなく、くれおさめて小家こやみ、そのうへむしろおほふこと一夜いちやにして、しほきたるを あら昆布こぶと云(世俗せぞくに、蝦夷ゑぞいへ昆布こんぶをもつて、 [■は艹+区+月])くというは、このしたるを見たるなるべし。いへは、すべていたひさし、いたかこひなり)。

いろあかきを 上品じやうひんとして、わづかにその 階級かいきうをわかてり。又、八九月のころ自然しぜんうちあぐるを 昆布こんぶいふ

むかしは、越前ゑちぜん敦賀つるが傳送てんそうして、若州じやくしうつたふ小濱こばまいちひと これせいして、若狭わかさ昆布こんぶがうす。若狭わかさより京師けいし傳送てんそうして、京師 また これを制して、きやう昆布こんぶがうす。あぢもつともまされり。

みぎは、みな 俳諧はいかひ行脚あんぎやひと松前まつまへ 往来わうらいはなしつたへきゝて、まことおよびしことにいはあらず。なをその 蝦夷ゑぞひと衣服いふくなどのこともきゝしに、まづ 第一だいいちには、日本につほん古手ふるてたつとび、とみたるものゝ一こう社宴しやゑんなどには、酒樽しゆそんみたるうへに、かの日本につほん古手ふるてをいくらもかさねて 装飾しやうしよくす。また、かのにて織物おるものは、ヲイヒヤウといふ かわ也。いろにして、もん あり方言はうげん アツシ といふて、はなはだ くさものなり。

もとより、ゑりひだりあわせ、シナのかわおびとす。男女なんによとも つね湯浴ゆあみせず。まゆ両眼れうがんうへ一文字いちもんじひ、かみ勿論もちろん鬚髭くちひげともに ることなければ、はなはながし。しよくするときは、はしひだりちて、ひげをあげてすゝむ。さけ行器ほかいごとものれて、さかづき飯椀めしわんもちゆ。その わんみな ともへもんつけたり。その ゆへらず。

女人は、みな くちびる入墨いれずみして、男女なんによとも なみだはなよりながるなり。山野さんやいづるものみな雪中せつちうといへども 蹤跣はだしにして、こしため ゆみせり。もつとも木弓もくきう木矢もくやもちゆ。又、ブス といひて、くま 鹿しかところ毒薬どくやくは、イケマ といふ くさはちをころしてせいせしものなりとぞ。たゞし、膃肭臍おつとせいには、このどくもちひず。

※ 「ヲイヒヤウ」は、ニレ科ニレ属の落葉性高木のオヒョウのことと思われます。この木の皮から作る織布をアツシというそうです。


出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [5]

為家ためいへきやううた
 こさふかばくもりもぞするみちのくの
   ゑぞにみせしな秋の夜の月

亦、紹巴じやうは發句ほつく
 はるや ゑぞがこさふく そらの月

といへる。

此 こさ とふもの、いまだ なにとも分明ふんめうしるものなし。しかるに、あるひと傳写てんしやきたるもの ついでもつてこゝにす。

※ 「こさ」は、蝦夷の人が息をはくこと。また、それによって生じるとされる深い霧のこと。
※ 「紹巴じやうは」は、戦国時代の連歌師。里村さとむら紹巴じょうは


十二まき かわにてつくしろいろにすゝたけいろおびたるふじつるのごとき のかわなり。さう ながさ一尺二寸ばかりなり。

あんずるに、是 コサ にはあるべからず。彼地かのちふへなるべし。もしや口にしほなどをふくみて、そらむかひひてふきあげ、その へんなどへいづるもの、おちたるひろひ、きり/\ときて、これくに、まことふへいだして、秋情しうじやうもやうす。是を コサ とも云とぞ。

俗轉そくてんに、義経よしつね 蝦夷ゑぞわたりのこと、虚實きよじつさだかならずといへども、これ 正説せうせつなり。海濱かいひんに、辨慶べんけいさきもあり。また清朝せいてう清和せいわゑいいふも、すなはち義経よしつね 蝦夷ゑぞよりつたしたる。この しやうとすべきことども多きよしもきこへけり。蝦夷ゑぞより韃靼だつたんへは近し。



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